表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

伊古元亜美のショートショート集

異世界行政担当官のグチのようなもの

作者: 伊古元亜美

 ショートショートになります。(2,042字

 困るんですよねえ。勇者、勇者、って異世界トリップされても。

 


 ああ、自己紹介がまだでしたね。私はこちらの世界で行政担当官をしているものです。主な仕事は異世界からの転生者の在留管理。つまり転生勇者がこちらの世界に移り住むための行政上の手続きを執り行う部署ですね。私は日々そこで働いています。


 

 さて、今回は異世界行政担当官としての私が、普段感じていることをありのままお話する機会だと認識しています。それを受けての第一声が、最初の言葉というわけです。早い話が、多数の勇者が異世界トリップする現状を憂えているというのが、私の嘘偽りない本心です。



 そもそもですね、手続き上の勇者は在留外国人扱いとなっているのですが、実質彼らは「難民」なんですよ。元いた世界に戻れず、こちらに勇者としての職を求めてやってくるわけですからね。両世界双方から均等な人民交流があれば話は別ですが、現状はこちらが勇者難民を一手に引き受けている状態です。



 こちらの世界にもそれぞれの生活があるわけで、一方的に人口が流入したら、それこそ「不法移民対策規制法」、通称「勇者規制法」ができても不思議ではないでしょう。



 そもそも、向こうの世界から優秀な人材がやってくるのならまだしも、なんで大した実績もない平凡で普通な学生ばかりがやってくるんです? 履歴書書かせても大した業績もなければ「やれやれ。俺は普通の生活を送りたいだけなのに」とか、勤労意識のかけらも見受けられないじゃないですか。なんで、来たんですか。勇者って言っても、他になんの資格も持ってないわけでしょ? 勇気があるだけなんでしょ? これでやる気もないとか、社会をなめすぎですよ!



 あとね、向こうではボッチでニートでゲーム三昧でコミュ障の輩が、どうしてこっちではチートを駆使した俺強えええハーレムなんか築けるんです? チートはダメに決まってるでしょう! みんな一生懸命やってんだから。そんな汚い夢を目指すやつなんか、梱包材のプチプチつぶす感覚で、スライムをプチプチ狩ってればいいんですよ。世の中そんなに甘くないですからね。

 


 いや、ごめんなさいね。別に勇者さんの悪口を言いたかったわけじゃないんです。実際、世界を救ってくださった方もいますからね。そこら辺は感謝してますよ。

 


 ただね、このような仕事をしてるとつくづく実感するんです。今は大した敵も仕事もないのに、勇者ばっかりがあふれてる。いわゆる「勇者バブル」の時代なんだってね。

 


 最近はそれに便乗した悪徳詐欺なんかも巷では横行してましてね。右も左もわからない勇者を捕まえては「おお! あなたこそ、この世界を救う勇者様に違いありません!」と甘言をささやき、モンスターを狩らせたり、クエストと称して盗賊まがいのアイテム奪取をやらせたり、挙句の果てには利用しまくった勇者を公安に差し出して、報奨金を得たりなど、やりたい放題です。

 


 もちろん、これは悪徳業者だけの話です。しかし、正規のルートでも勇者の扱いは、実際厳しいものになっていますよ。

 


 簡単に言えば、勇者が競争入札にかけられているんですよ。クエストの数には限りがあるのに勇者の数はその数倍以上ですから、クエストを発注し、いかに安く確実に依頼を達成してくれるかを見られるわけです。必然、クエストを受けられない勇者は続出します。また受注できたとしても、激しい競争によって、価格が大幅に抑えられているなど、必ずしも勇者側にとって嬉しいこととは限りません。



 まあ名のある勇者はいいですよ? ちゃんと高難易度のクエストが、向こうから勝手にやって来るんですから。報酬も破格のものになるでしょう。中には己のブランドイメージを守るため、入札には参加しないって勇者もいるくらいです。



 でも、名も実績もない勇者は大変ですよ。クエストが受注されるかどうかもわかりませんし、なにより上の業者からどんどん下の業者にクエストが押し付けられて、一番下の業者に所属する勇者が、かなり地味で過酷なクエストをやるはめになると。いわゆる、下請け勇者がたくさんいるんですね。下手したら、孫請け勇者ってのもいるんじゃないかな。



 でも彼らの報酬は、業者間でどんどん中間搾取されて、手取りはほんの雀の涙程度。でも他にクエストもないから、彼らは受けざるを得ない。いくら行政が勇者の劣悪な労働環境の改善に乗り出したといっても、ぶっちゃけキリがないですよ。だって、いくらでも来るんだもん、勇者。

 


 結局、一番儲かってるのはクエストの受注管理業者。勇者はそのダシに使われているわけです。

 


 だからね、これを読んでくれてる方で、もし勇者になろうと考えている人がいたら、ちょっと真剣に考えて欲しいんだよね。もちろん、こっちにきてもうまくいくやつはうまくいくだろうさ。けどね、あちらの世界でうまくいかないから転生する。そういう逃げの姿勢で来る方っていうのは、やっぱりこちらの世界でもうまく行かないと思いますよ。



 現実であろうが異世界であろうが、世知辛い世の中っていうのは同じですからね。



 読了ありがとうございます。

 頑張って勇者もの書こうとしたらこんな話になりました。どうしてこうなった…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ