38話 夢の同棲生活
「でも本当にいいのか? 俺に助けてくれってお願いしなくても……」
「もうペンダントを探してもらったんですからそこまでお願いできませんよ」
「ふーん。じゃあ助けてあげなーい!」
「大丈夫ですよ。部屋に護身用の武器があるので自分の身くらい守ってみせます! 見てください! すごいでしょ!」
そういって腕をまくって力こぶを作ってみせる。
いや、まったく出来てないからね?
でもよかった。あれからしばらく、何時間経ったかはわからないがレナを抱きしめていればなんとか収まったようで、ここまで会話が出来るようになった。しっかしこれ放っておいたらまじで武器とか取り出して振り回しそうだな。
「でもびっくりしました。クリフトさんって結構お茶目な方だったんですね」
「なんだ。がっかりしたか?」
「断然こっちの方が私は好きですよ。すごく親しみやすいです」
「なら良かった。でもこれからどうするんだ。これから何が起こるかもわからないのに……1人でいるなんてなー」
「大丈夫ですよ。衛兵さんがいますし」
「あいつら前回デビル相手にに振り回されっぱなしだったじゃんか」
「うーん……。そうですよね……」
「あー! 俺いいこと考えた!!」
「え? え!? 何ですかいきなり」
「俺今日からここに住むわ!」
「え……えええぇぇぇ!?」
「なんだ……嫌か?」
「全然そんなことないですけど……でもクリフトさんはいいんですか? 私と暮らしても全然楽しくないですよ? ここには何もないし、それに他にすることがあったりとか……あっ」
「あって言うな。ちげーし! ちゃんとやることあるし……でも悪魔だから多少はね?」
「大丈夫ですよ! 私も無職ですし、食べて寝て食べて寝てを繰り返してるだけですから」
「無職じゃねーし! 食べて寝ても繰り返してないし! あっ昔はやってたかも」
あぁ、あれは昔の話だ。太古の時代まで遡る。そう古い馬小屋だったさ。馬がヒヒーンって鳴いてな。懐かしい。
「でもメイドさんや衛兵さんに見つかったら……」
「そこは問題ない。ちょちょいのちょいだ」
「手荒な真似はダメですよ!」
「そういうのは得意だから任せとけ。でもレナを狙うやつがいたら……手加減できないかもしれん」
ふざけた口調をとりなおして目を細めた。
「その人達を……殺してしまうんですか?」
「生かしておけばいつまた来るかわかったもんじゃないからな……芽は潰しておくに限る」
「でも……その人達は死んじゃうんでしょ? お母さんみたいに……」
レナは俺の腹部に頭を突っ込ませてうずくまった。
俺は一瞬レナが何を言ったのかわからなかったがそうか……彼女は母親の死を目の当たりにして、そして取り残されたものの悲しみを知っている。だから人よりも『死』に敏感なのだ。そして彼女自身の優しさも忘れてはならない。
悪魔は基本的に他人を気遣うことがないので失念していた。とはいえ、本当に悪意のあるものが襲ってくれば後顧の憂いを断つ意味で息の根を断たねばならない。彼女には我慢してもらうしかないのだ。
「そうだな。だが、俺には襲い来る敵よりもレナの方が大事だ」
何気ない言葉だが彼女はなぜか固り目を丸くしてこちらを見ていた。
……?
なんだろうか。
「どうした。俺はなんか変なことを言ったか?」
「クリフトさんは本当に悪魔さんなんですか?」
「そりゃ…どういう意味なんだ?」
すこし困った風な顔をして彼女を見たら彼女はすぐに「なんでもありません」といってぶんぶん頭を振った。
「そうですよね……クリフトさんが頑張ってくれるのにワガママなんて言っちゃだけですよね……私、がんばりますね!」
「お、おう。そうしてくれると助かる」
「でも出来る限りは助けて上げてほしいです……」
「わかった。でも約束はしないぞ」
約束は出来ない。
「大丈夫です! ありがとうございます!」
「なんでレナが礼を言うんだ。おかしなやつだな」
俺が笑うとレナは俺の手を引いて中へと向かう。
「お部屋をご案内しますね。これから一緒に住むのに……まだ全然実感が沸かないです」
「レナは嫌じゃないのか? 悪魔と一緒に住むなんてさ」
そう言うとレナは振り返ってこちらを向き、真摯に答えた。
「実は……クリフトさんが帰っていく所を考えると怖かったんです。だから私は嬉しいんですよ!」
「そう言ってくれるか」
そうだ。俺が消えれば彼女は1人になるだろう。メイドや衛兵が彼女の恐怖を和らげてくれるわけじゃない。次いつ来れるのかもわからないのにその間彼女を放っては置けない。もとよりこうする他ない。いや……違うな。俺がこうしたいのだ。不埒な考えだろうが別にいいじゃないか! 誰が咎める! そんなやつはちぎって窓へポイッだ。誰も邪魔はさせん!
そういえば今まで悪魔でやってきたけど……。
「なぁ。レナはこんな冷たい手より人間の温かい手の方がいいんじゃないのか?」
「あの、すみません……。男の人はその、はずかしいので……」
「あぁ、なるほどね」
これは気が付かなかったとポンッと手を叩いた。
腰を落としてレナに一つ聞く。
「1つ教えて欲しいんだけど。レナは好きな動物とかいる?」
「動物ですか? 何分外に出たことがないので」
「そうだったな。悪い変な事を聞いた」
「でも部屋の図鑑を見ました! いろいろ載っててどれも気になりましたけどもし会えるなら『狐』さんがいいですね! 図鑑の絵だとよくわかりませんがあの長いしっぽとここにぴょこんっとついてる耳とか触ってみたいです!」
何故かテンションが上がったレナが手ぶり足ぶりで説明してきた。
「ふふん。狐か。それなら見たことがあるぞ。そしてここにそれを出すことも出来る!」
「え!? そんなことが……。あっ! なるほどそうですよね!」
といって今度はレナがポンッと手を叩いた。
「そうだそうだ。もっと敬うがいい。そして見たいか! 見たいだろう!」
胸を張って叩き、不遜な態度で言う。
「はい、見たいです! お願いします!」
レナがすこし頭を下げてきて前で手を合わせてきたので「素直でよろしい!」といってスキル行使の準備をした。
「レナ、すこし目を瞑っていてくれるか」
といえば彼女は言うとおりにした。
――悪魔、変身技能、段階5、外見変更。
微かな魔素が浮き出て俺の外面に引っ付くと俺の外見をぐにゃりと歪ませた。
このスキルは上級悪魔にしか使えない変身系統のメインスキル。外見をあらゆるものへと変化させることができる。『巨大化』のように大きくすることもできるがその場合スッカスカの巨人が出来上がるだけなのであくまでも外見を変えるだけなのだ。
今まではこのスキルを使ったことはなかったが、それは系統変化を使っていてそれで事足りていたからだ。
しかし動物の姿に系統変化することは出来ない。ツリーは人型にしか存在しないはずだから。
だが今この時、初めて活用されることになる。
変化が終わると魔素は全部俺の中に吸い込まれた。
「もういいぞ」
変化後の姿でそう言う。声がなんか細くなってしまった……。悪魔なのに迫力がない……。
それにしても耳が痒い……。なんでだ? ポリポリ前足で掻いていたらレナはしゃがみ、ガン見してきた。
近い近い! 顔が近い! ってかでかい! 俺が小さいだけか。
「ほわぁぁ……すごいです……これが伝説の狐さんなんですか?」
「別に絶滅危惧種ではないはずだが……?」
「耳触ってもいいですか?」
「うむ、かまわぬ。好きにいたすがよい」
俺は左手の要領で許可の証に不遜にも左前足を前につきだした。
「私知ってますよ! これは握手したいってことなんですよね? 私頑張ります!」
そういって俺の前足をにぎにぎしてきた。肉球にぎにぎ……。いや、全然違うんですけど???? でも妙に気持ちいいんですけど???
「ほあぁぁ……しっぽが左右にすごく揺れ動いてますよ。私図鑑で読みました! これ喜んでるってことですよね! しっぽも触っていいですか??」
「ふぁ!? しっぽなんて揺れてないし揺れてないったら揺れてない! 変なこと言った罰だ! 絶対にしっぽ触らせないぞ!」
「そんなこと言ってる間もしっぽ揺れてますよ? それにダメですよ。私は触りますよ今決めました絶対に触りますからね?」
へ? それ決めるの俺じゃないの? ってかキャラおかしくない??????
本能が危険信号をぴーぴー鳴らしてくるのでおれはにげた!
しかし回りこまれてしまった!
しっぽをにぎにぎされてしまった!
泣いた……。
―――
「ごめんなさいクリフトさん狐さん見てたら我を失ってましたほんとにごめんなさい!」
「ダメだ! 許さないぞ! 俺決めました今決めました絶対許さない!」
土下座してるレナに皮肉も込めて言い放ってやった! げへへざまあみろ。俺の心の傷はこんなものじゃないぞ?
「うぅ……。ほんのできごころだったんですー。狐さんがかわいいのがいけないんですよ?」
え? 俺が悪いの? まじ? でもまぁいいか。レナも謝ってるし狐になると提案したのも俺だしな。
「うむ。特別にゆるしてやるぞ。だがこれから俺の言う条件を飲んでもらうからな!」
「ほんとですか? 何でも言ってください! でも私にできることって何があるんだろう……」
そういうレナを無視して彼女に向かって両前足を投げ出した。
それを見てレナは頭をかしげて頭の上にはてなまーくを浮かべていた。
それを見かねて俺は一言補足した!
「だっこ」
その言葉を受けて彼女は固まったまま目をまんまるくした後、喜びに満ちた声でこういったのだった。
「はい!」
まぁ……今はこれでいいか。悪魔ではない狐さんの決して冷たくない温もりで、断続的に来るレナの恐怖心を和らいでもらうとしよう。
そしてレナと暮らしながらもきちんとやるべきことを忘れない……。
ギルドの活動と犯人探し……。そう。俺にはこれらを全部同時にこなす力があるのだ。暴いてやるぜ……レナは俺が守る!
――とある日の晩。
クリフト「どうしたレナ……ごはん食べないのか?」
レナ 「だってクリフトさんが食べてないのに私だけが食べるわけにはいかないじゃないですか」
クリフト「俺は悪魔なんだからそんな気使わなくてもいいんだぞ。ほらほら食べろって」
レナ 「大丈夫ですよ! 私こうやって星の光浴びていればごはんなんて食べなくても平気なんですから!」ドヤァァ!
クリフト「そうだな。でもレナが食べなくて捨てられるだけのごはんはかわいそうだな」
レナ 「え?」
クリフト「片付けるメイドは平気でも卵を産んでくれた鶏や養鶏所のおっさん。野菜を汗水垂らして育てた農家の人たち……」
レナ 「え? え?」
クリフト「あぁかわいそうだなぁ。一生懸命作ってくれたシェフの人もそうだし彼ら今泣いてるんじゃないかなーこのまま捨てられるだけなんだろうなー」
レナ 「……」
クリフト「やっぱ食べるんかい!」




