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悪魔天使と水晶樹  作者: えっくん
襲撃篇
22/44

21話 師団襲撃

 突然、ピピピピピピピというやかましい音が鳴り、目が覚めた。

 見るとカードが白い光で点滅していた。召集か? まだ朝まで時間はありそうで辺りは真っ暗だった。


 昨日はレクス達と遅くまで飲んでいたが、悪魔の俺が酔うことはないのでなんら問題はなかった。

 俺は馬小屋の枯れ草を押し潰し、立ち上がる。

 一体何があるってんだ。故障か? カードでぺしぺし手を叩いてみる。一向に鳴り止まないカードに嫌気が差して外に出た。


 満天の星が瞬いていた。


 公都へ来てもう1ヶ月経つ。昨日俺のカードは無事黒から青に変えてもらった。俺の実蹟からもっと早めに変えても良かったらしいが、一応ルールというものが存在しており、俺だけ特別というわけ


にはいかないのだそうだ。俺は別にカードは黒でも良かったから構わなかった。


 取り敢えず召集ということらしいのでギルドに向かおう。



――

 ギルドに入ると殆どのメンバーが集まっていた。来てはいるものの欠伸をしていたり半分目を開けて寝ているやつもいた。相変わらずなやつらであった。

「デリアム。遅かったな」

 それと比べてマスターは何やら険しそうな面持ちをしていた。


「あぁ、悪い。一応走ってきたんだけどな、何かあったのか?」

「それを今から説明する」


 俺はレクスと青い顔したルッフェがいるテーブルの椅子に腰掛けると、マスターが説明を始めた。


「さっき入った情報だが、どうやら聖祈祷師団が悪魔に襲撃されているらしい。それも天光結界を破ってだ」


 それを聞くと周りが一気に騒めきだした。

 横を見るとレクスも目を大きく開けて驚いていた。ルッフェはテーブルに項垂うなだれていた。


「天光結界ってなんだ?」

 小声でレクスに聞く。

「悪魔は夜に強いだろ? だから人間側は夜の戦闘ができない。人間は天に祈りそれを聞き届けた神は天使達に結界をはらせたんだ。俺達が日中しか戦わなくて済んでいるのはこれのおかげなんだぜ」


「じゃあ結構やばいんじゃないのか?」

「つまり俺達はこれからは夜も戦わなきゃいけないかもってことだ」

 そんなことか。俺はいいぞ。夜もやれればレベルアップも加速するってもんだ。

 それよりも聖女団が心配だな。あの歌声を失うには惜しい。


「もうすでに聖祈祷師団への転移陣を用意した。結界なしでは外が暗いため各自腕輪を絶対に装備した上、救援に向かえ! いいか、金のためでもいい。他の連中よりも多くの悪魔を屠り、そして全員で帰ってこい!」


 皆一斉に立ち上がり、奥の部屋の転移陣に乗った。今回は転移先がランダムではないため、皆で乗るのだ。陣は大きめで問題はなかった。


「聖騎士団や大魔法師団の連中は既に出発している。私は先におえらいじじいどもを見てくる。転移先が我々の担当範囲だ。近辺を掃討し、建物内をくまなく探せ。よし、行け!」


 マスターの言葉と共に陣が光を発し、転移が始まる。


 一瞬の浮游感を終えて、足下が安定すると俺は目を開けた。



――目の前は真っ暗だった。いや、違う。僅かに建物の輪郭が見えている部分がある。そしてそれを黒い何かがうようよと移動し、覆い隠していた。

 前にも見たことがあった。これは――魔素だ。


「こりゃひでぇな。これじゃあどこに悪魔がいるかわかったもんじゃない」

「あぁ、この濃さだと聖力はまともに使えないだろうぜ。この有り様だと教国のやつらも手が出ないだろうな」

 レクスが嘆くとルッフェが続けた。


「どうだ、恐いか? この中だと五感がまともに作用せず、方向もわからない。せっかくご自慢のスピードもここでは宝の持腐れだぞ」

「フフフッ。馬鹿なことをいうな。闇なら慣れている」

 俺の体のベースは悪魔だ。証拠に俺には心の臓がない。悪魔の『コア』があるだけだ。といっても今の『コア』は魔素を排出しないし擬似的な鼓動もする。胸を抉られない限りばれることはないだろう。


 前に歩み出ると、後ろのおい、という声が一瞬にして魔素に掻き消された。なるほど。魔素は遮音性があるらしい。上を見上げても漆黒の闇しか存在しなかった。

 魔素の中で深呼吸する。はぁ……。良い気分だ。感覚を研ぎ澄ませると辺りの状況が手に取るようにわかった。

 辺りは思っていたほど悪魔は居ないようであった。建物の中か。


 魔素の中を青白い玉が数個飛び込んできた。魔素の中でも関係なく綺麗な光を灯すこれはきっと特別な物なのだろう。

 俺も悪魔の段階レベル上がってから玉を吸収できる範囲が広がっている。


 取り敢えず附近の悪魔を斬る!


 持ち前の速さを駆使して走り、手に入れた銀の剣で悪魔を一刀のもとに切り伏せる。


 数分もせず、かたはついた。


「デリアム。無事か?」

 レクスが赤い光を揺らめかせた球を手で浮かせながら近づいてきた。


「それはなんだ?」

「これは火球だ。こういう場合は魔法で光源の確保と魔素を消費させながらゆっくりとやるのがセオリーだろうが、勝手に突っ走るんじゃねぇ。方向見失って戻れなくなったらどうするんだ」

「あぁ、悪かったよ。だがこの附近は何故か悪魔がいないようだ。建物の中に入ろう」

「なんでそんなことがわかるんだ」

「歩き回ってみたが反応がなかったんだ」

「だああもう、無茶しやがって」


 迂闊に動いてしまった。普通の人は出来ないんだったな。


「建物はどっちだ?」

 本当は分かっているが俺が訪ねると、ルッフェが指差しで教えてくれる。

「取り敢えず二手に分かれよう」

「俺は建物の方に行きたい」

「勝手にしろ」


 許可を頂いたので俺はルッフェと建物に向かう。

 周りを見ると皆火球を浮かばせていた。そしてその周りの魔素は薄くなっていた。なるほど。魔法というものは魔素を消費するらしい。

「みんな魔法が使えるのか?」

「何言ってんだ。魔道具を使うんだよ。殆どが使い切りだけどな」

 なるほどね。


 辛うじて見えてきた目の前の建物はそれなりに大きい物と推測できる。入口で言えばレイディナの対魔連支部くらいはあるかもしれない。

 

 階段を登り、その建物に入った瞬間――それは唐突にやってきた。


 目の前から青玉が溢れるようにして出てきた。

 だが問題はそれではなかった。


 それと同時に大量の感情が俺の中になだれ込んできたのだ。胸の奥に何かを詰め込まれた感触がして突然目の前が真っ暗になる。


 生きたい! お助け下さい! 死にたくない! 神のために!


 沢山の様々な思いが、願いが、意志が、祈りが、記憶が、まるでフラッシュバックするように俺の頭と心を駆け巡ってくる。


 一つ一つが強烈なそれは、明らかに俺の心の許容範囲を超えていた。


 メリッ、メリッ。何かにヒビが入る音が聞えてくる気がした。


 やめろ……。やめろやめろ! 心が――壊れる。


「おい……おい。おいデリアム! 大丈夫かしっかりしろ!」


 ハッとして我にかえった。


 はぁはぁと呼吸を荒げ、嫌な汗が全身を伝っている。

 気が付けば俺は膝を地面につけ、腕で体を抱えていた。まだ体が震えていた。


――今のは一体なんだったのか。青玉と一緒に亡くなった人の感情が入って来たのか? いや、違う。それだけじゃない。


「気が付いたか? お前おかしいぞ、体が光ってた……。この魔素の中でも平然と輝くその光はまるで――」

「ルッフェか、助かったよ。だが、俺は行かないと行けないようだ。誰かが俺を呼んでる――」


 そうだ。先程の名残か、今だに俺は声が聞える。誰かが俺を呼んでいる。これは死者のものではない。

 どこだ。誰だ。お前は――どこにいる。


 呆然と立ち上がり、前に走り出した。

 いざ移動してみると俺はその発生源と思われるが場所が正確に把握できた。位置情報が頭の中に入ってくる。


――地下だ!

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

明日また更新します。

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