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悪魔天使と水晶樹  作者: えっくん
0章 馬小屋の悪魔
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1話 起きた

序章は内容を詰め込んでいます。

 風が吹き、草がなびく。

 微睡の中、人々の喧騒が聞える。

 妙に寝心地が良かった。まるで天国にいるようだ。

 重い目蓋を開けると、そこは知らない場所だった。


 靡いた草は枯れ草だった。天井は太い丸太で組まれていた。

 横で馬が一匹、こちらをガン見していた。

「よぉ、元気か?」

 俺の何気無い一言に、馬はヒヒーンと鳴き、前脚を地面に叩きつけた。

 威嚇をしているのだろう。仲良くなれそうである。


「はぁ……」

 深い溜め息を吐く。

 それにしても体が重い。けがをしている訳でもないのに起き上がれる気がしない。もう一眠りするか、そう思っていると。


「おぉーい、起きたー?」

 若い女の人の声がした。

 眠ろうとしたところだが、目は開いている。視界内には声の主はいない。見たいが首を動かすのも億劫だ。


 どうした物かと思案していると、その人は自分で俺の視界に入ってきた。

 如何にも元気そうな女の子だ。ポニーテールに纏められた金髪とサファイアの瞳。王侯貴族によくありそうな風貌であるが、エプロンをしている所をみると、そうでないことがよくわかる。

「よぉ、元気か?」

 先程言ったような気もする言葉をかけると、その少女はポカーンと口を開けて立ち尽くしていた。

 すこししてハッとなった彼女は声を荒げた。

「はぁぁ!? それはこっちのセリフでしょ?」

「そうなのか?」

 俺が聞き返すと彼女は一つ溜め息をつき、仕方無いなーという面持ちで説明を始めた。


「いい? あんたがうちの宿屋の前で倒れてたから拾ってあげたんでしょ? でも無駄に図体がでかいからうちのベッドは無理だし、だからこの馬小屋で寝てもらってたの、わかった?」

「そうか、そうだったのか。ありがとう」

 俺が寝たまま感謝の気持ちを述べると彼女はプィッと目線をこちらに向けたまま顔をずらした。

「フン。ちゃんと感謝する気持ちはあるわけね」

 と締め括ると続けて

「それで? 体の調子はどう? まだ寝たまんまみたいだけど」

「あぁ、体が重くてな、思うように動けないんだ」

 本当のことだ。本気を出せばどうなるかわからないが、今はそうするだけの気力がない。

 俺がそういうと彼女はさも興味なさげにふーんと唸ると、今度は小走りでこちらにかけより、姿勢を低くして質問を投げかけてきた。


「ねぇねぇ。なんでうちの前で倒れてたわけ? 名前は?」

 さっきまで怒っていたかと思えば今度は興味津津に目を煌めかせている。まるで小動物のようだ。すこしばかりの苦笑いがでる。


「あぁ、それが……思い出せねぇんだ。俺が誰かも何もかも全部」

 言われて気が付いた。俺は誰なんだ。すぐに出てこないどころか、思い出そうにも頭が鉛の如き重さでそれを阻んでくる。

「ふーん。所謂記憶喪失ってやつ? ほんとにー?」

 あからさまに疑ってますよーという感じで問いかけてくるが、わからないものはわからない。


「そう言われても思い出せねーもんはな」

 俺はすこし困った風にそういうと彼女はまたつまらなさそうに言葉を返してくる。

「まぁいいわ、今日はもう休みなさい。明日またくるから。あ、そうそう。私の名前はシエラよ。覚えときなさい」

 

 彼女は帰っていった。

 周りを見ると時刻は夕刻だろうか。寝るには少し早いかもしれないが、今の俺には関係のない話だ。

 先の話をしてる最中も眠くて仕方がなかった。折角すばらしい寝所にいるというのに寝ないのは天からの恵みを冒涜するに等しい行為だ。

 俺は今度こそ、閉じようと必死になっている目蓋に労をねぎらい、迫り来る眠気に身を任せた。



           ――――――


「おーい」

 聞覚えのある少女の声で目が覚める。

 目を開けるとシエラが目の前に立っていた。

「あぁ、シエラか。おはよう」

「おはようって……。あんたほんっっッッと良く寝るのね! もうお昼よ」

 俺が挨拶をするとシエラはさも呆れたようにいう。

「そうかな。だが大分良くなったよ」

「ほんと? じゃあ起きれるってことでしょ? ほらほら起きて起きて」

 たしかに昨日と比べれば大分良くなり、頑張れば起きられなくもないが已然として体は重いままだ。それにここから余り離れたくない。

「やだよ。面倒臭い」

 拒否の意を示して寝返りをうつと彼女は俺の手を引っ張って来た。何て小さな手だろう。引っ張って起こせる訳無いのに……。

「何よそれ! おきなさああああい」


 彼女は本当に良く頑張る。んーと顔が赤くなるまで踏ん張っている。こんなに頑張られては起きないわけにもいかなくなってしまったではないか。

 はぁ。と深い溜め息をついて体に力を入れて立ち上がる。体が悲鳴を上げる。

「わかった。わかったから」

「ふん。分かればよろしい。さぁついてきなさい、お母さんにあわせてあげる。泊めてあげるって決めたのもお母さんなんだから」


「あぁ、そうだったのか……。それにしてもここの天井低くないか?」

「あんたがでかいのよ! あぁもう、なんなのこの人!」

 シエラに引っ張られて小屋をでて、目的地の宿屋に入る。

 木でできた宿屋だが、作りは結構しっかりしていそうだ。1階にはテーブルが並べられており、数人が座っている。

 

 中に入ると「あら」と一言、カウンターから聞えた。

 そこにはシエラの言っていたお母さんらしき人が居た。面影がある。髪と瞳の色が同じなのも特長だろうか。

「もう、お体の方は大丈夫なんですか?」

「あぁ、はい。大分良くなりました。この度は助けて頂いてありがとうございます」

「これはご丁寧に。意外と礼儀正しい方だったのですね」

 これ、結構ひどいことを言われていないだろうか? ふとシエラのほうを見ると。

「あんた外から見るとただの悪人にしか見えないわよ。髪もぼっさぼさだし」

 まじか。


「ふふ、大丈夫ですよ。それで、記憶が無いみたいですけど、これからについて何か予定などはありますか? あっ私はリイナと言います」

 はっ、俺としたことが失念していた。ここは宿屋、いつまでもいさせてもらえるわけじゃないのか。

 俺はあの小屋がいい。寝心地が最高だ。あそこで寝なくてはならないのだ。天上天下。世界広しといえども、寝心地の良い場所を探すのは神になるぐらい難しいことなのだ。そう思える。


「実は行く宛てがないのです。しばらくここに、いや、正確的には『あの馬小屋』に泊めてほしい。お金は持っていませんが、何か手伝えることがあれば……」

 俺は必死だ。いかにも困ってますといった風でいう。体が重く、すこぶる不調だが、背に腹はかえられない。

「そうですよね。もちろん大丈夫ですよ。お手伝いと言えば丁度頼みたいことがあるんですよ」

 なるほど、どうやらリイナさんは優しい人のようだ。しめしめ。


「実は私達、親子2人で宿屋を経営しているのですが、男手がいないのです。ですから薪割りだけでもやってもらいたいのですが、よろしいですか?」

 ま、薪割り!? そんな重労働が俺にできるだろうか。たしかにすこしばかり図体がでかくて力も有りそうに見えるかも知れないが、そんなことをしたら気力を全部消費して他に何もできなくなるではないか!

 いや、まてよ。俺に他にすることなんてあるのか?あの馬小屋で寝られるのに……? 食べ物などいらぬ、服もいらぬ、俺はただ寝られればいいのだ。


「薪割りですか? やった記憶はありませんが、精一杯やらせて頂きます」

 グフフ……。横でシエラがジト目をしているが構うものか。俺には夢があるのだ。

「ほんとですか? ではお昼を食べたらさっそく始めてもらってもいいですか? もし体調が優れないようでしたらそれが治ってからでも大丈夫ですが」

「大丈夫です。それなりには力に自信があるので」

 本当は自信などこれっぽっちもないのだが、少しでも良いところを見せねばなるまい。未来のために。

 食べ物などいらぬ。早く終わらせて寝たい。だが、食べないとおかしな目で見られること必至。極々普通の人間であるように装わねば追い出されるかも知れない。

 リイナさんは奥にいった。

 

 テーブルに座るとドカッという音が出て、ふと横のテーブルに目をみやると座ってたやつらがぷるぷると猛獣に睨まれた小動物の如き仕草をする。

 やめてくれ。俺は普通の人間なんだから。

 はぁ……。溜め息をつきながらじっと、必死でなだめているシエラを見ていた。


 昼飯は豚肉と芋を煮込んだおかずとごはん。とろとろとして美味しい。たしかに美味しいが……。

 食事中もシエラは頻りに疑問符を投げてつけてくる。

「あんた馬小屋でずっと寝てたのに全然汚くなってないじゃない。なんでなんで?」

 知らないものは知らないのだ。やめて頂きたい。

「何それ超不気味。でもちゃんと体は洗いなさいよ」

 ……。

「あと服がぼろぼろのまんまだから食べ終わったら着替えなさい。大きい服売ってなくて苦労したんだから」

 はい。

 感謝をのべて食事を終える。服まで用意してもらったのか。お金がかかっていそうだ。いつかきっちり返さないといけないだろう。いつか。そう、いつか。いつになるかわからないの略だから。

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