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悪魔天使と水晶樹  作者: えっくん
0章 馬小屋の悪魔
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9話 おいおい、こりゃ無理だぜ

 東門に着くとそこには大勢の勇士が集まっていた。200名の勇士が対魔連のホールではなく、東門に集まるということだけでただならぬ事だが、これが既に2週間も続いているならば、住民達も慣れてしまったかもしれない。

 俺は着くと早速、目立ち、尚且つ見馴染んだ人影を見つけた。

「よぉ、チーフ。今日も朝早くから御苦労さん」

「ステリアム君か、君なら来てくれると思っていたよ」

「んあ? そうなのか?」

「どうやら毎日、ルリさんから捜索の状況を聞いていたようだったからね。だから今日も待っていたんだ」 

 あぁ、そういやルリはぐるだったな。ひょっとするとこっちのことを教えるかわりに対魔連の情報を仕入れているのかもしれない。まぁ、いずれにしろありがたいくらいだ。


「それで、あの扉はどんな感じなんだ?」

「もし狭き門だったら少人数で探索しようと考えていたんだ、でもいざ見てみればそれが結構な大きさでな。それで全員で向かうことになった。もし、中身が巨大なダンジョンとかなら一度上がって計画を練り直すつもりだ」

 なるほど。犬の数から考えるとそのくらいの戦力がいるということか。ま、相変わらず俺は後ろで見物かな。ダンジョンは面倒だからやめてくれ。いや、そんときは壊せばいいか。


 赤髪と一通り会話をしていると支部長が前に出てきた。何やら教会関係者らしき白い服を着た男が一人傍についている。

 話を聞くとこの町で唯一プリーストツリーを持っている偉い人らしい。もし根源があるならばきっと力強い味方になるだろうと。ついてくるのか。

 また話長いのかと思ったが、そんなことはなく、割とすぐに終わり、そして熱い掛け声とともに皆森の方へ歩いていった。

 大勢で歩いている様子は本当にハイキングをしているようにも見える。……ただ鎧武器がなければ。贅沢をいうならばすこしくらい女性がほしかったことくらいか。

 そんなくだらないことを考えながら俺達は森を歩いていった。


――

 その門は、本当に大きかった。

 幅だけでも大男が仲良く手を繋いで三人同時に歩いて入れるほどだ。って我ながら最悪な例だな。

 勇士達は力づくで地面に生えているこの門を開けようとしている。だが、なかなか難航しているようであった。

 俺はこのまま見ることにした。力仕事なら俺の十八番だが、これはどうもそうには思えない。それに、俺は前にたって魔物をなんとかしにきたわけではないのだ。後ろで見物をさせてもらおう。


「私がやります!」

 めがねをかけた、これまたイケメンの司祭様が言う。勇士共は一斉に彼を見て、そして納得したように道を開けた。

 彼は扉の前に立つと、彼自身よりも長く、そして綺麗な装飾があしらわれたロッドの先端をどん、と力一杯に扉に叩き付けた。

 

 開け! という彼の力強い言葉に感応するようにその先端からそれを中心に青白い線が扉に広がっていった。

 その線が全体に行き渡ると扉全体から淡い光が放たれ、ズズーという金属音とともに扉が左右に分かれ、開いていった。

 勇士達からはもれなく、おおーという歓声が上がった。


 扉の中は暗かった。だが、少し先が階段になっているのは確認できる。 


 俺は興味津津と中を覗いた。勇士達もまじまじと中を伺っている。まずは誰が入るかということではなく、まずは観察してみようという腹積もりだろう。

  

 俺が中の状況がより見えやすくなるように首を少し伸ばすとふと、扉の奥、つまり底の知れない闇の向こう側から強い重力にも似た引力のようなものを全身に受けた。なんだこれ、いきなりすぎるだろう。踏ん張ってみるがなんともならず、それでもなんとかこれに抵抗しようと掴むものを探すが、扉が大きいため縁が遠い。結局俺は何の策も成せず、そのまま闇の向こうに吸い込まれていってしまった。


 前にもこんなことあったような気がするぞと、そんなことを考えながら、大男に相応しくないうおあああああという叫び声をたらしながら。



「いってて」

 結構落ちたような気がする。だが、声をだして言ったほど痛くはなかった。

 立ち上がり、辺りを見回す。

 辺りは真っ暗だった。とりあえず前に進んでみようと右足を一歩前に出した瞬間、カッ、という軽い音と共にどこからともなく光がともなった。

 一瞬の出来事に思わず目を閉じてしまうが、もう一度目を開けるとここ全体の様子が窺えた。


 とにかく広い広場のような場所だった。これなら勇士達全員入っても余裕だろう。日がないのに明るいのは謎であるが、だが、その中でも、薄くない黒い霧のようなものが立ち込めていた。

「おい、大丈夫か!」

 後ろから先輩達が明るくなった階段から急いで降りて来たらしく、俺に話かけてきた。

「あぁ、ちょっと頭うったが大丈夫だ。それより、あれを見てくれ!」


 後ろから勇士達が続々と降り来て、あの黒い霧をじっと見て観察し、話し合っていた。

「あれは魔素塊だね。恐らくあれが大量の魔物発生の原因……」

 いつの間に隣に赤髪が立っていた。

「魔素って何だ、まさかあれから魔物が生まれるのか」

「その通りだ、魔物だけでなく、悪魔も魔素から生まれる。もっともあの濃さでは悪魔は無理だろうけど」

 なんだ、じゃあ、これはやばいやつか。この扉は、この魔素塊を匿まっていたのか? それだけのことなのか? なんとなく、違う気がした。あれに対して俺は何も感じない。俺がここへ来たときのワクワクしたこの気持ちが、そうではないと言っている。


 ふと魔素の向こう側に、不思議な物体を見つけた。それは何故か、宙に浮いていた。水色をしているその物体は殆ど黒い汚れのようなものに覆われており、ひどく不恰好であった。

「なぁ、チーフ。あの黒い霧の向こう側に見える、黒に侵蝕されている水色の物体……何だかわかるか?」

「ん? 何だそれは……向こうに側には何もないじゃないか。からかっているのか?」

 ばかな、そんなはずはない。単に目が悪いだけではないか? 試しに他に何人かに聞いてみるとみんな口を揃えて何もないというのだ。


 俺は気になってしまっていた。

 そんな時、チーフと何やら相談をしていた司祭が前にでた。

「私が今から魔素を刺激します。いいですね? もし、魔物が出てきた場合、私は後ろに下がります」

 司祭が確認すると、チーフも含めて勇士の皆は神妙に頭を縦に下げて頷き、武器を構え、戦闘の陣を敷いた。

 俺はというと何もしないのはまずいからと左手に持った剣の柄を右手で抑えた。


――プリーストスキル、レベル4(フォー)、聖者の輝き(セイントブレイズ)。

 

 そう唱えると、彼のロッドの先端から放たれた強い光は、杖の向けられた黒い霧に向かって飛んでいく。

 音などなかった。光が霧と接触すると部分的に霧が白く光ったと思えば、たちまち闇に飲込まれていった。

 だが、変化は終わらない。

 薄く広がった霧はまるで生き物であるかのように蠢きながら集まり、やがてゴォォォ、というおぞましい音とともに膨れ上がっていく。

 なんだなんだ。すごいやつくるか? いや、やはり何も感じない。早く姿を見せろ。


 膨れあがった霧――塊はさらに一段と膨れるとそこから何かの足がでてきた。その大きな足には綺麗な宝石ほうようなものが付着しており、人の心を惑わせる。


 そして全身がでてくるとその正体が判明する。

 ジュエリースパイダー、先輩達の上げる声からそれはわかった。その蜘蛛、ジュエリーとの名の通り、全身に宝石が付いている。これは結構金になるボーナスモンスターではないか。

 身高3メートルくらいあり、たしかにでかい、だが、先輩達から一切の動揺が見られない。むしろ安心が見られた者もいたくらいだ、やはりたいしたことはないのだろう。

 塊は殆どなくなり、小さく残ったものからはバラッディドッグが数体でて完全に消滅した。


 んじゃ、あのでかぶつはチーフ達に任せるか。俺はあの浮いてるやつに興味がある。

 邪魔にならないように大きく迂回して例の物体の場所に移動する。すこし振り返るともうすでに戦闘は始まっている。これだけの勇士相手に勝てる蜘蛛がいるならむしろ見てみたいものである。


 俺は今、その物体の前にいる。4メートル近くあり、上下が鋭く尖っていて、黒く変色していながもら形だけでいうならばクリスタル……といったところか。

 前に立って初めて気づいた。酷く、懐かしい感じがした。俺は、知っている気がした。これの本当の姿を。

 それに触れてみる。すると、触れた部分から光が溢れ、色が戻っていく。ひどく綺麗な空の色をしている。触れているだけで、心が穏やかになり、すべてを忘れ、無我に陥る感覚。

――俺は昔、ここで、それに触れていたんだ。

 

 な、なんだ? ここってどこだ、それってなんだよ。何かが思い出せる気がした。だが、つっかかって何も思い出せやしない。

 不快感に我に戻る。長い時間、これに触れていたようだ。

 その時、後ろから光を浴びて振り向いた。


 戦闘が終わり、司祭が魔物を浄化していた。もう終わったのか。俺が触れている時間が長かったのかそれとも単にあの蜘蛛が弱かっただけなのか。

 浄化され、宝石だけが残った蜘蛛を眺めながらそんなことを思っていた。

「ついにやったぞ! 魔物の根源は絶たれた!」

 チーフの一人が叫んだ。魔物は拍子抜けだったが、しかし、それでもこの場にはもう魔素らしきものはない。長年の夢が叶った喜びは大きいだろう。


「ステリアム君、何をしていたんだ。もう魔物の討伐は終わったからもうここからひきあげるよ」

「なぁ、チーフ。本当にこれが見えないのか?」

 俺は赤髪に向かって目の前のあれを指差しながら言う。

 赤髪は俺の言を聞くと俺の指した方向を見るとすぐにこっちに視線を戻した。

「本当にに何もないよ。ステリアム君、今日は体調が悪いのか?」

 やはりだめか。だが、そんなことがあっていいのか?最後に、一つだけ……。


「じゃあ、最後に俺の指の指す先を触ってくれないか? 頼む」

 俺は真剣な目で人差し指をあれにくっつけながら言う。

 本当に見えないのなら、何をばかなと取り合ってくれなかったり、怒ったりするかもしれないが、確かめておかないと心がすっきりしないのだ。それだけのあり得ないことが、目の前で起こっているのだから。


 チーフは怒るどころか一つ溜め息を吐くと、笑みを浮かべて俺の指し示す先、つまりクリスタルのある場所に手を伸ばす。

 その手がクリスタルに接触する! と思ったらなんと、クリスタルを貫通し、俺から見ればそれはまるでクリスタルの中に手が入っているように見えたのだ。あまりの光景に俺は思わず目を真ん丸くする。

「これでいいか? もういくぞ」

 やはりイケメンは心もイケメンらしい。今度はもうちょっとパーティに貢献してみてもいいかもしれない。そう思った。

「あぁ、わりぃな。恩に着る」

「大袈裟だな、意味はわからなかったが、大したことはやっていない」

 そういってそそくさと立ち去るチーフについていった。


「よし、では今からここより退散する! チーフは今から対魔連に集合後支部長に報告するが、他の勇士は通告があるまで待機とする! 以上!」

 広間の真ん中で集まった勇士に対してチーフの一人がそう宣言する。

 そしてまたしてもぞろぞろとすこしずつ階段を昇っていくのだ。それにしても魔素が感じられない今でも、まったく気を抜こうとしない勇士達はさすがだと思えた。

 それにしても、何も面白いことはなかったな。クリスタルと出会えたから収穫はあったから別にいいが『こいつ』の本能も案外も当てにならないのかも知れない。そんなことを考えていた時だった。


『待って』

 言葉が、頭の中に響く。冷やかで、気持ちの良い声色が心を包んでいく。

 誰だ。周りを見回してもそれらしき人物はいない。そもそもごりごりの男共が出せる声音ではないはずだ。

 幻聴だろうか。俺は心の病を患わってはいないはずだが、その昔、生き別れになった嫁でもいたのかもしれないな。

 ありえないことと流して、そんな下らないことを考える。そして順番がやってきて階段を昇り始めると――


『待って!』

 先程よりも大分追い詰められたような感情が聞き取れる。俺がいなくなると困ることがあるということか。その綺麗で儚げの声色に俺の心が激しく揺れ動いた。

 横の、まだ遠目で見ることの出来る、例のクリスタルを見て、あいつか――と当りをつけて、俺は一つ決意をした。


――

 数時間後、俺はまたクリスタルの前に立っている。

 町まで勇士達と行動し、そして解散されると俺は真っ先に森に走った。時刻はもう早くない。俺は『ソードマン』となり、全力で走ったため、かなり早い時間でここまで戻って来れた。

 ちなみに走っているとスカウトのチェンジスキルが解放された。


 俺は今、クリスタルを見上げている。俺が触れた部分以外はまだ黒に蝕まれたままだった。

「お前、きれいになりたいのか?」

 俺がそういうとクリスタルは黒くなっていない部分から綺麗な青白い光を灯した。

「やっぱりそうか。めんどくせぇけど、俺はそのために来たんだしな」

 『ウッドカッター』の体は重すぎて昇りづらいけど、今の状態なら問題ない。早めに終わらせるか。


――

 ま、こんなもんか。

 俺は今一度クリスタルを見上げ、俺の成し遂げた偉大なる成果を確認した。

 クリスタルを触りに触りまくった俺のおかげで見事にピッカピカになったそれは、見る者の心を瞬時に掴み取るであろうことが簡単に想像出来るほどに、眩く綺麗な輝きを放っていた。

 とは言え、俺以外に見えるわけではないんだがな。数ある勇士誰もがあのクリスタルに気づくことさえしなかったことが、その事象を雄弁させるのだ。

 俺だってもっと触れていたい。それほどに魅力的なのだ。あの感触。だが、そろそろ帰らなくては遅くなってしまうだろう。

 未だに帰りたくないと喚く足を無理矢理引っ張り、階段へと進んでいく。


『ありがとう』

 

 そんな言葉が聞えてきた。たしかに感謝の気持ちの篭ったこの声を聞いて、振り返りたくなってしまう。しかし。それではまた居座りたくなってしまう。触れたくなってしまうだろう。それではだめだ。

 俺は振り返らず右手だけ上にあげ、掌をひらひら左右に振りながら言った。


「いいってことよ」


――


 閉じる手段の存在しないらしいこの扉を出て、俺は森の中を走る。暗くなるまでまだ時間がある。予想より時間が掛らなかった。この体がそのくらいの利便性を秘めているということなのだろう。

 『あいつ』の言う。楽しいことは無かったが、しかしそれを補って余り有る綺麗なものが見られたから俺は大満足だった。

 そんなことを考えていたとき、ふと、何かが飛んでくる気配がした。速い! そしてそれに込められたたしかな殺意を感じたとき、俺の全神経に緊張が走った。



「ああああああ!」

 ほぼ反射的な動きで剣を抜き、両手で飛来するそれに向かって振り抜いた。

 著しい金属の摩擦音と熱量を発生させて、俺はやっとの思いでそれを叩き落した。


 この体でこの体たらく。どういうことだ。俺は間違いなく『ソードマン』ツリーであるはずだ。ランクB魔物を数百匹屠って余り有る体力と速さを持ち、ランクAの猪を止められる以上の腕力があるはずだった。単に俺が急劇に上がった力によって己惚れただけだっただろうか。どこにいる、と探そうとして、その必要がないことを知る。


「ほう、そいつを弾くか。ただのソードマンのくせに――」

 そいつは正面の奥から悠々と歩いてきたからだ。

 そしてそれを知覚した瞬間、俺は全身からどっと冷や汗を溢れ出た。

 たしかに……面白いな……ゾクゾクするよ。

 だがな『おまえ』、ここまでお前の言う通り来て見たが、あんなん、勝てるわけねぇだろうよ。俺に死ねっていうのか? 理屈なんかじゃねぇ、本能的な問題だ。



 そいつらは三人だった。だが、問題なのは一人だけ、明らかに格が違うやつだ。白金の鎧を着たそいつは薄暗い森の中に於いても異様な雰囲気を纏っていた。他の2人は取巻きといった所だろう。


「おい、何のつもりだ」

 俺は来たる脅威に向けてありったけの威厳の篭った声でいう。

「何のつもりか……問答無用!」


――白刃はくじん

 刹那、男が消えた。

 そしてその姿を再認識する時、そいつの突いた白く光る剣先は俺の眼前まで来ていた。

 反射的に避けると俺の頬から一筋の血が飛んだ。

 やられてばかりではいられない!避けた勢いでそのまま剣で男を斬り付け――。


 その動作の中、俺は腹部に途轍もなく重い衝撃を受けて吹き飛んだ。思考が四散する。

 体が何かを薙ぎ倒しながら十数メートル飛び、やがて止まる。視界がぶれる。

 血ヘドを吐き、何とか思考しようとする。俺はどうやら蹴られたようだった。

 俺の吹っ飛んで来たと思われる場所では木々が薙ぎ倒されていた。くそっ。冗談じゃねぇ。

 呼吸を激しくして座り込んでいると、そいつらが歩いてくる。


 その鎧の輝きを振り撒きながら、その短い銀髪をした男は、笑みを浮かべてきた。


「やるなお前、俺の突きをも交わすとは……いいだろう。チャンスをやろう」

 その発言に俺は目を細める。

「俺は別にお前を殺るために来たんじゃない。ただ盗られたものを返して欲しいんだ……何もおかしなことなんてないだろう?」

「あぁ、そうだな。それで、お前の盗られたものって何だ?」

「お前の剣だ……盗った奴ってのはな俺の部下だったんだが、俺が居ない時に俺の大事なコレクションを盗ってとんずらこきやがったんだ。だからここに来たという情報を得た俺はこの町に来たって訳。お前はどうせよわっちいそいつ倒していい気になってたんだろうが、貴様は所詮こんなものよ」

 なるほど。あのチンピラのあの身不相応な武器とあの剣を抜いたときの妙な自信はそういうことだったのか。

「それで、返してくれるよな? 君もまだ若い。名剣得難しとはいえそれだけのために死ぬこともないだろう」

 こいつ……。ふふ、まぁいい。どうせこいつの所有物で戦いたくなんてない。俺は俺だけで戦う。


「あぁ、いいぜ。こいつもってとっとと帰ってくれ」

 俺は右手にある剣を一瞥するとそいつを投げてやる。山なりの軌道を描き、何回転もしてそいつの足下に突き刺さった。


 剣がそいつの元へ行くとやつらからどっと笑いが出る。

「あっはは! こいつ本当に渡してきましたよ! 生きて返すわけないのに! それどころかこれ見たやつ徹底的に調べ上げて全員殺してやるのに!」


 取巻き一人の衝撃的な言葉に身が固まる。俺は殺るだろうが、なぜそうなる。 それでは……。支部長には彼女達を守らせているが、勇士だろうが兵士だろうがこいつらに勝てるとは思えない。

「おい、どういうことだ! なぜそんなことをする! 俺だけ殺ってとっとと帰りやがれ!」

「そんなわけにはいかないよ。俺はこれでも公国の中でもそれなりの身分がある。俺のコレクションをそんな野郎に盗られたと言い触らされては估券に関わるからね」


「やめろ! そんなこと誰もいいふらさねぇよ!」

「では、誰がそれを証明できる! お前か? それとも、お前の……大事な人か?」


 すっかり夜になり、木々の間をすり抜けて月明りが差し込み、やつの顔を照らし出した。

 やつの目は――狂気に塗れていた。


 どうやら、言葉では何の解決にもならないようだ。頭を上げて見遣ると今日の月は一段と綺麗だった。

 俺は大きく溜め息をつき、そしてありったけの意志の篭った声でやつらに告げてやる。俺は――


「決めた。お前ら全員、誰も生きて帰さねぇ!」

御疲れ様でした。

次回はバトル回になります。

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