プロローグ
気が付くと、辺りは真っ暗だった。
だが、自分の体だけがやけにはっきりと見えた。
俺は上から下まで真っ白の服を着ていたが、ひどくぼろぼろだった。
えらく落ち着く自分の服を見て、周りの漆黒に目線を落とした。
だめだ、頭が重い。体も重い……。
前に歩く、何の理由もないが、なんとなくそうしなければいけない気がした。ここがどこかも、前に何があるのかも分からない。
体が重い。普通に歩いているだけなのに、体が前のめりになり、倒れそうになる。
俺は歩いた。
何も見えないが、平らな地面をひたすら歩いた。もうどのくらい歩いたのかもわからない。
そんな時、前に光の点が見えた。
向こうに、何かがある。そう確信した。
重い体に鞭打って歩速を速める。体が反応しきれなくて一回転んでしまう。
立ち上がり、歩き続ける。
それは、扉だった。扉の向こうは溢れ来る光が強すぎて見られない。
やってくる光は何も照らさず、漆黒の虚空に溶けだす。
直前まで来てもその光が衰えることはなかった。
意を決して目を瞑り、顔をその扉の中に突っ込んだ。
そこには――無限に広がる青空があった。
なんとここは空の上だったのだ。
下をみやると城壁に囲まれた町と深々と生い茂る森があった。
だが、ここからは降りられない。歩くだけで精一杯なのだ。到底なんとかできるとは思わない。
体を支えるために扉の縁をつかんでいた両手にあるったけの力を入れて体を引き戻した。
ふぅ……。と一息つくと急に体が前に引っ張られる感触がした。
反射的に緩んでいた腕に力が入る。
だが、扉から発せられる吸引の力が激しすぎてついに命綱の手が剥がれ、野太い「うああああ」という声とともに視界が白光に埋め尽くされた。