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希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―  作者: 篠宮 楓


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天衣と俺・2

今日は、2話更新しています。最新話から来てくださった皆様、1話前よりお読みいただければ幸いです^^

仮押さえをした次の土曜日、やっとゆっくり天衣と会う時間ができて醸はいの一番に彼女を迎えに行った。

約束をしていたとはいえ時間より少し早めに迎えに行った醸を少し驚いた表情で迎えた天衣は、ぱちぱちと瞬きをしながら不思議そうに両親に声をかけて表に出てきてくれた。

「待ち合わせって、醸兄んちの前じゃなかったっけ?」

元々うちで待ち合わせてからどこかに出かけようとしていたのだけれど、驚かせたい気持ちが大きくて当日まで言えなかった。

俺ってシャイな奴。

「うん、そうだったんだけど……」

頑張って引き締めていないと勝手に上がってしまう口角を何とか引き下げながら、目の前に立った天衣を醸は甘い視線で見下ろした。


「ねぇ、天衣に見て欲しいものがあるんだけど」


キミは、喜んでくれるかな?





不思議そうに頷いた天衣を、醸は何も説明せずに仮押さえしたマンションに連れてきた。

不動産屋に一番に紹介されたこのマンションは、10年以上の築年数はあるけれどリフォーム済みという事もあって綺麗。

手ごろな家賃にも関わらず、2LDKの間取りも魅力的。

一体なんなんだろうとでもいうように不思議そうな表情のまま、それでも動線の確認や収納の有無をちゃんとチェックしている天衣に笑みが浮かぶ。

さすが俺の天衣、しっかりしてるよね。


天衣が一通り見て廻るのを待って、醸はにこにこと笑いながら声をかけた。

「ここにしても良いかな」

窓の方を見ていた天衣が、醸の言葉に首を傾げながら振り向く。

「何が?」

「俺と天衣の愛の巣。良かったら速攻で契約するけど」

ここはもう、勢いも味方にしちゃうでしょ。

戸惑った表情を浮かべながら、天衣は首を傾げた。

「ふぇ、醸兄の部屋に住むんじゃないの?」

「いやぁ、俺もそう思ってたんだけどさぁ、親父からダメ出しがきた」

結婚を承諾してもらった時からすぐさま自分の部屋で暮らしてほしいと思っていた醸は、恋人になってからもずっとそう天衣に言い続けてきた。

それがいきなり覆されれば、そりゃ驚くだろう。悪い方に。

もしかして、親父たちが何か言ったんじゃないかって。


醸は天衣の戸惑いを解くように、ことさら甘い笑みを浮かべた。

「結婚自体を反対してるんじゃないよ。親父もお袋も天衣のことは昔っから娘みたいに思ってる位だから、そこんとこは問題ないらしいんだけど……」

そうしてあの時燗から言われた言葉を、そのまま天衣に伝えた。

『だからって、だからこそバカ息子と娘のラブシーンを四六時中見せつけられるのは願い下げだってんだ』


――と。


聞き終った後の天衣がため息をつきながら、顔を上げた。

「あぁ……」

「?」

ちょっとじと目の様な表情で俺を見上げるのは、なぜだろう?



天衣の何か言いたそうな視線を笑顔で押し切って、醸は話を進める。

「気に入った?」

「うん、収納もあるし、何よりお風呂場に洗濯機を置くスペースがあるのがいいね。これなら着替えをポンと放り込んですぐ洗濯できるし」

その言葉に、醸は自営業ならではの間取りを思い浮かべた。

店のスペースありきで作るから、どうしても居住スペースは優先順位が下がる。

営業中に作業しやすいように、作ってあるわけだ。

そう考えると、確かに店から離れて住むのもいい経験かもしれない。


――初めての経験を、ひとつずつ天衣と重ねていける。



醸は天衣の了承の返事を聞くと、後ろに控えていた不動産屋の社員に声をかけた。

「じゃぁ、契約と言うことでお願いします」

既に仮押さえする時にあらかた必要書類は聞いているから、本契約はスムーズに進むだろう。

けれど何も知らない天衣は、驚いたように声を上げた。

「今から? 結婚式は……6月だったよね」



……うん、俺の性格分かってるね!


怒涛のプロポーズのせいで、天衣の中の俺はだいぶ猪突猛進に見えている事だろう。

それは否定しない!

けれど、これ以上天衣の意思をさておいて強引に進むのは、さすがに駄目だよな。

そこは分かってるつもりだよ!



醸は安心させるように大きく頷いた。

「もちろん、6月だよ」

「じゃぁ、なんで今から? まだ2月だよ」

だよな、そう思うよな。

最初に俺も疑問に思ったし。


醸は部屋探しを始めた時の自分を思い出しつつ、あのな……と口を開く。

「2月だからだよ。希望が丘で家を探すなら、遅いぐらいだ」

と、不動産屋で説明してもらった「今が部屋探しのラストチャンス!」な事情を、本契約後は4月まで入居を待ってくれるサービスと共に説明した。


「空家賃払うのも、もったいないしね」

醸自身も一人暮らしをしたことがないから、楽しみに思う自分もいる。

でも――


納得したように「ふぅん」と呟く天衣に、醸は仮押さえをした時から考えていた事をこのタイミングだとばかりに口にした。

「だからさぁ、毎日天衣がご飯作りに来てくれると俺うれしいなぁ」

そしてそのまま泊って行ってもいいんだけど! むしろ泊まろうぜ!

「……」

……後半は一応口には出さずにいた自分、エライ。


思わずといった風に目を見開いた天衣は、少し考えながら小さく頷いた。

「ご飯? 良いけど夜はちゃんとウチに帰るよ」 

口に出さずとも己の本音が天衣にはバレバレだったようで、きっちり釘を刺されてしまいましたー。


……ちっ、同棲とか良い響きなのに。


まぁ、ご飯は作りに来てくれるっていうしね。

楽しみだしね。

まぁほら……俺、天衣より少しは長く生きてるから、なんとかできると思うんだよね。


え、何をって?


もちろん、ご飯を作りに来た天衣を帰さないよう言い包めることだよ!


脳内でこの先の幸せな同棲生活を展開していた醸は、ふと視線を感じて我に返った。



「……」


「……」



じっと見つめ合う、醸と天衣。



「……」


「……」




何故だろう、口に出していないのに脳内妄想が天衣にばれている気がするのは。



「……よしっ」



何かを決意したような天衣の視線に、そんな顔もかわいいなぁ……と醸はだらしがなく相好を崩した。









「お盆?」

数か月後、自宅のテーブルに置いてある銀のお盆に首を傾げる事になるとは、この時の醸が気づくはずもない。

醸、お盆でたたかれても喜ぶと思うよ←w

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