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2 甘酒入荷。

店の前に、白い軽トラが軽い音を上げて停車した。

丁度居酒屋とうてつの配達を終えた燗が、JAZZ Bar 黒猫に納める品物を取りに帰ってきたのである。

そこには、店先でお客を送り出したのであろう嫁の雪とその向こうに重そうな荷物を持って歩き去っていく女性の姿が見えた。


「お、ありゃ先生んとこの可愛い秘書さんじゃねーか」

軽快な音を立てて軽トラのドアを閉めた燗が、振り向いた雪に声を掛ける。

にこやかに笑いながら振り向いた雪は、燗の手にある伝票を受け取りながらちらりと荷台に視線を向けた。

「あら。とうてつさんちの納品終わったの?」

出ていった時とは違い荷物の少なくなっている荷台に、雪は目を細めてお疲れさまと続ける。

燗はもう片方の手に持っていた風呂敷包みを軽く持ち上げて、ニヤリと笑う。

「あぁ。うめぇアテもらってきたぜ」

とうてつの女将、藤子の作る食事はどれも美味い。

その中でも篠宮家の胃袋をつかんで離さないのが、新鮮な魚介や女将手作りの旬の野菜で作る小鉢料理。

今日は新鮮なイカを使った塩辛と、菜の花の炒め物。

くんくんと風呂敷包みの近くで鼻をひくつかせた雪は、嬉しそうに跳びはねる。

「まぁ、嬉しい! あとでお礼言わなきゃ。そうそう沙織ちゃん、今から先生のお見舞いに行くんですって」

途中から視線を道の通りを歩く女性……重光先生の新しい秘書である沙織へと向ければ、つられたように燗も目を向けた。

「あー、お嬢さんにはあの甘酒重いかなぁ」

よろよろとしているのは、見間違いではないだろう。

可哀そうな気がするが、ここは見守ることに決めた。

けれど雪はそういうこともできない様で、おろおろと燗と彼女の間で視線を行ったり来たりしている。

「あなた、ちょっと行って持って行ってあげれば?」

「そんなことしたら、馬に蹴られらぁ」

嫁の優しい言葉を少し茶化した風に拒否すると、きょとんとした雪は見る間に目元を綻ばせた。

「……やだ、そういうこと?」

「まだまだあめぇな、お前。先生見てれば分かんじゃねーか」

「まぁまぁ、若いっていいわねぇ」

「何言ってんだ。お前だっていつでも若くて綺麗だよ」

「……やだ、あなたってば……」

恥じらう可愛い雪を今日も見れて、燗はとてもご機嫌だ。



かさりかさり。


でも。


忘れてはいけない。


ここに、息子が一人いる事を。


伝票整理中だった醸は、キーボードを渾身の指さばきで叩き倒していた。



カタカタカタカタ!!



普段では鳴らないだろう大音量キーボードぶち叩き状態だというのに、それで自分の存在をアピールしているのに、両親には伝わらない。

それどころか、むしろ余計に二人の世界に飛んで行ってしまった。


カタカタカタカタカタ……カ、……。


敗北を感じ取った醸は、そのままパソコン机に突っ伏した。



「頼むから姉さん帰ってきて。俺嫌だよ、この二人と一緒にいんの……orz(切実)」




篠宮酒店は、今日も平常運転です。

今回はここまで☆

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