表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―  作者: 篠宮 楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/34

つかまえた。

神山さま「日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ」の最新話に天衣ちゃん視点が同時公開となります♪

お楽しみいただければ嬉しいです^^

醸は全力疾走で、神神飯店まで走って行った。

ほんの少しの距離だというのに、なんだか今日は遠く感じる。


さすがに今日は店に出ていないだろうと思いつつ、辿りついた神神飯店の入り口をくぐると……

「醸兄?」

――いるし。

勢いのまま来てしまったことを少し後悔しつつ、ホントに天衣は働き者だよと内心ひとりごちる。

そんな醸を不思議そうな表情で見ていた天衣は、はっ……と我に返ると手に持っていたお盆をぎゅっと胸に抱きこんだ。

「ど、どうしたの、醸兄。今日は配達終わってるよね?」

「なんで天衣はここにいるんだ」

「は?」

「顔色、少し悪い。そういう時は休むべきだろう」

さっき見た時よりはよくなっている様な気がするけれど、それでも少し青く見えるのは勘違いではないだろう。

天衣から視線を外すと、何事だろうとこちらを見ている玉爾に向けて醸は頭を下げた。

「天衣に用があるので、ちょっと連れて行っても大丈夫ですか?」

「私も今日は休む言った、でも小天聞かないね。連れてってくれる嬉しいよ」

「オンマ?!」

驚いたように声を上げた天衣の手から、醸はお盆を取り上げて玉爾に渡す。

厨房から顔を出した開に気付いて、醸は再び二人に対して頭を下げた。

「すみません、突然来て勝手を言って」

「ん? 気にしない、大丈夫ね。小天、よろしく」

「オンマ! 私行くなんて言ってな……!」

「じゃ、すみません」

天衣の腕を掴んで外に出ようとした醸は、慌てて立ち止まった彼女に引っ張られるようにして足を止めた。


「天衣?」


少し声を和らげて名前を呼べば、天衣は真っ赤な顔で醸を見上げた。

「ねぇ、醸兄! いったい何? 私、仕事中!」

「仕事言っても、片付けだけよ。酔っ払い小天要らないよ」

「オンマ!」

焦ったように声をあげる天衣を見下ろしながら、醸は自分の心の中が落ち着いていくのが分かった。


いや、落ち着いたわけではない。


あぁ、早く。

天衣に伝えたい。


焦る気持ちと。


言いたいことは、言うべきだ。

悪いことをするわけじゃない、別に誰がいてもいいじゃないか。


ある意味、開き直りのような気持ち。



店には、数人の客が面白そうにこちらを見ている。

商店街の住人もいれば、見たことのない顔もいる。

こうやって人が集って、この商店街はずっとずっと続いてきたんだろうな。


その中で、俺達もずっとずっと……



「天衣」



まだ玉爾に向かって何か言っている、天衣の名前を呼ぶ。

いきなり呼ばれて驚いたのか、肩を震わせて天衣が醸を見上げた。

その顔は真っ赤で、パニックに陥っているのか潤んでいる目が揺れていて。

言葉にならないような声を上げて、掴まれた腕をそのままに後ずさろうと懸命になっている。


……可愛いなぁ。



「俺、天衣が好きだ」



顔がにやけてるのが、自分でもわかる。

天衣がそんな俺を見て、呆けたようにきょとんとしているのがこれまた可愛い。



「天衣、好きだ」



両親の激甘会話を聞くのが嫌だったけれど、なんてことはない。

好きな人に、好きと伝えるのは自然な事じゃないか。


――もう、あんな思いはしたくない。


好きだと気付いたその瞬間に、想いも告げる事さえできずに終わらなきゃいけない苦しさなんて。

あんな思いは、もうたくさんだ。




「遅いよ、醸。待ちくたびれたね」

いきなりの言葉に呆気にとられている天衣に変わって声を上げたのは、玉爾だった。

醸は何か決心したように顔を上げると、開と玉爾に改めて頭を下げた。

「俺に天衣をください」

「……え?」

やっと我に返ったのか、天衣が呟く。

「え、ください? え?」

恋人関係をすっ飛ばして両親に結婚の承諾を求めた醸に、意味が分からず瞬きを繰り返す。

その言葉に、あぁそうか……と醸は天衣を見た。

「ごめん、先に天衣に承諾を得ないとな」

そう言うと、上体を屈めるようにして天衣と視線を合わせる。




「天衣、俺と結婚してください」




「え、は? 結婚!? え、ちょっと待ってよ、醸兄!」




突然の言葉に当たり前のように動揺する天衣を、醸はじっと見つめる。

「俺とじゃ、駄目か?」

「いやいや、駄目とかじゃなくって! ……そんなんじゃないけど!」

「だって、誰にも天衣を盗られたくないから」

「えぇぇぇ!?」

一体、醸に何があったのか。さっきは自分とダイサクの事を誤解してたはずなのに、なんでいきなりこんなことになるのか。

ダイサクと醸の間にあったことを知らない天衣には、まったく理解できない。

それに――


「醸兄って、こんなこと言う人だった!?」


さっきから駄々漏れになっている醸の言葉が、あまりにも甘すぎる。

いつも燗や雪が吐く激甘会話を嫌がっていた醸が、言っているとは思えない。


醸は少し不思議そうな表情を浮かべて、そうだよなぁと呟く。


「俺も不思議なんだけどさ。でも、好きな人に想いを告げられることって本当に幸せな事だと思うんだ。それが自然のことのように思える。だから、ちゃんと自分の言葉を伝えたいと思って」

「ででで、でも! あの! いきなり結婚って!! 私、何もまだ……!」

「天衣」

しどろもどろと続く天衣の言葉を、醸は名前を呼ぶことで押しとどめた。


「天衣。俺、天衣が好きだ」


「……」


改めて想いを口にした醸を見上げていた天衣は、きゅ、と、醸の服の裾を掴んだ。

「天衣はさ、俺が嫌い?」

「……私も……その……醸兄が好き……だよ……」

そして、やっと小さな声で恥ずかしそうに、その想いを口にする。




その仕草に、醸は目を細める。

思わず抱きしめたくなる衝動をなんとか抑えて、肩に手を置いた。


「俺と結婚してください」


「……えっと、でも、あの」


天衣は困ったように視線を彷徨わせる。それに気付いた開が、嬉しそうな声で笑った。

「醸なら、小天が遠くに行かなくてポクはウレシイアル」

「パーパ……」

「大体、醸、遅すぎるよ。うちの娘待たせすぎね。小天がハルモニ(お婆ちゃんの意)なるか思ったね」

「オンマ、ハルモニって……」

両親に交互にそう言われて、天衣はますます醸の服を掴む手に力を込める。

醸はその手に触れると、ゆっくりと指を外して両手で包み込んだ。


「天衣、俺と結婚してください」


天衣は真っ赤になった顔を醸に向けて、こくりと頷く。


「……はい」






醸は、やっと天衣を捕まえた。


醸、砂吐き覚醒w


神山さん、いろいろとありがとうございました♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ