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1 甘いのは、甘酒だけでいいです←息子のぼやき

重光先生が地元に帰ってきたのに、金沢へ法事に行って戻ってきて以来姿を見せなくなった商店街では……。



メーカーから届いたビールケースを裏の倉庫に入れていた店主である(かん)は、心配そうな嫁の(ゆき)に呼び止められた。

額に浮かんだ汗をぐいっと袖で拭うさまは、そこらにいる親父なのだが嫁も含めて童顔夫婦。

まるでバイト生にしか見えない。


「何? 先生が風邪?」

「そうらしいのよ、金沢が寒かったらしくて」

嫁である雪は、携帯を持ったまま心配そうに頬に手を当てる。

その仕草可愛いなぁとか脳内沸騰させながら、それでも一大事な内容に眉を顰めた。

国会議員の重光先生は、この商店街の人々がこぞって応援している議員先生だ。

堂々とした格好のいい外見と議員としての政治手腕は、とても昔の……いやいやこれはナイショにしておこう。

燗は内心うししと笑いながら、手にはめていた軍手を取ると雪に右手を差し出した。

「甘酒だな、甘酒。おい、ちょっと電話とってくれ」

甘酒……? そう言いながら、雪は店用の子機を燗に渡した。

何かぶつぶつ言いながら番号ボタンを押す燗に、おずおずと話しかける。

「でも、風邪薬飲んでるときにお酒は……」

薬にアルコールはまずいんじゃないかしら……、そう言う雪の頭をわしゃわしゃと燗は撫でた。

「米麹使って、ノンアルコールの甘酒作ってる蔵元が金沢にいるんだよ。金沢でもらった風邪は金沢の甘酒で治すってな(▼∀▼)ニヤリッ」

飲む点滴と言われている甘酒だ、ノンアルコールなら体にいいだろう。

なんでもないようにそう言いのける燗を、雪は尊敬のまなざしを向けた。

「あなた素敵(^・^* )」←目がハート

「やめろよ、照れんだろ」

止めろと言いながらも、にやにやと雪の頭を撫でる燗。

これが、本当に五十代夫婦なのだろうか。


「くはぁ……、ねみー」


昔ながらの傾斜のきつい階段を気だるそうに降りてきた息子は、ここの跡取りである(じょう)

二十五歳という年齢より若い目に見えるのは、確実に両親二人のDNAのせいである。

トントンとかったるいリズムで階段を降り切った息子の目には、朝っぱらからいちゃこらしている両親の姿。

店先でなぜか電話を持った燗が、雪を撫でていちゃこらしてる光景。

胃からせりあがってきそうな何かをぐっとこらえて、視覚の暴力を何とか我慢する。

……店先でやめろ阿呆夫婦……

そう呟きながら、醸は啖呵きってここから出て行った姉・(ぎん)を思い出した。


――自分の親で砂吐けるわ!


そう一言怒鳴って、さっさと出て行ってしまった姉。

それからも普通に家族関係が続いているのが凄いと思うが、両親にしてみたら「子供の癇癪」程度でなんの痛手もないらしい。

姉は姉で、「別に目の前でいちゃいちゃしてなきゃどうでもいいし。むしろ、好きよ両親。ただ、そばにいたくないだけで」とのたまう。


そんな家族に挟まれて、今日も醸は呟くのだ。




――姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。

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