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希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―  作者: 篠宮 楓


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吟の帰還 4【商店街夏祭り企画】

醸、燃え尽きる……開幕w

その頃。


姉さんが、帰ってきたんだ!


何も知らない醸は逸る気持ちを何とか抑えながら、軽トラを裏の倉庫に停めに行く。

挙動不審な母親、父親のご機嫌を取るための塩辛、家族人数分に見合わない量の料理。

それが三つ巴戦を繰り広げているけど、とりあえず置いといて。

メールや電話じゃない吟に会えるのが年単位ぶりの醸の心は、浮かれていた。


――浮かれていた。



そう、浮かれていたのだ。




いそいそと裏通りを抜けて倉庫前に軽トラを置くと、裏庭から雪が顔を出して走ってきた。

「醸くん、お疲れ様!」

カタカタとつっかけを鳴らして駆けてくる雪に、醸は軽トラから飛び出すように降り立った。

「姉さん帰ってきた?」

開口一番そう問いかけてきた醸に、雪はにっこりと笑いながら荷台に載せてある料理を持たせる。

醸は地団駄でも踏みそうな位、じれじれと雪の返答を待った。

「居間にこれを置いてからにして頂戴?」

「で、いるの? いないの?」

「ちゃんとお料理運んでくれたら教えてあげる」

それ答えになってるじゃんか!!

内心の歓喜を隠すこともなく目を輝かせた醸は、持てる限りの皿を両手に載せて裏口から店内に入る。

そのまま居間の上り口に皿を置くと、店先に視線を向けた。

そこには。

「姉さん!!」

久しぶりに見る、姉、吟がいた。

醸の声に少し驚いたように肩を震わせた吟は、ゆっくりとこちらを振り向く。

喜び勇んで駆け寄っていった醸は、腹に重い一撃を受けて床に沈んだ。


「ぐぅっ……」


いつもの癖でとっさに腹筋に力を入れたものの、久しぶりの感覚は痛みとなぜか喜びを醸にもたらした。

這いつくばっている醸を見下ろしながら、吟は眉を盛大に顰めて右の拳を左の掌に打ち付けている。

「いつまでたってもうるせぇな、醸。お前、少しは成長しろよ。二十五にもなって「姉さん!」とか言って飛びついてくんなってーの。どこの変態だ」

「その口調、まごうことなく姉さん……」

床に片手と両膝をついて痛みと喜びに耐える姿は、若干……いやドン引き大賞だろう。

しかしこれが篠宮酒店の通常運転だったわけで、なんの不思議さもなく雪はその光景ににこにこと笑みを零す。


しかし、それについていけない人が一人。


「……大丈夫ですか」


低く響いた声に、醸の動きが止まった。


篠宮家の男は、燗と醸のみ。

その内の一人、燗は今まだ祭りの準備で帰ってきていない。

で、もう一人は自分。

だとすると――


――こいつは、誰だ?


忘れかけていた三つ巴の喧嘩をしていた塩辛やら雪の態度やらが、脳裏をぐるぐる回り始める。

吟の足の横に見える、革靴を履いたでかい足。

それがゆっくりと自分に近づいて、そして……しゃがんだ。

視界に入り込んでくる、大柄な体。無表情ともとれる落ち着いた表情の男。


「醸くん、だったよな。大丈夫? 吟の拳は痛いだろう」


……吟?


ぴきりと、こめかみに筋が浮いた気がする。

醸は勢いよく立ち上がると、まだしゃがんでいた男を見下ろした。

そいつはそのままの体勢で、醸を見上げる。

「姉さんの愛情表現だってわかってるので大丈夫です、それであんたは誰ですか」

普段の温厚な醸は姿を消し、冷たく見下ろすその表情に男は微かに首を傾げる。

そのまま吟に視線を移せば、肩を竦めた彼女が盛大に溜息をついた。


「だから当日まで言わなかったんだよ。おい、醸」

ため息交じりの言葉は、最後、醸に向けられた。

男を見下ろしていた醸は、吟に呼ばれて嬉しそうな顔を向ける。

この後、何を言われるかも知らないで。


そう、醸は浮かれていたのだ。






吟は立ち上がった男を親指で指差すと、口端を軽く揚げた。




「私、これと結婚するんだわ。反対するわけねぇよな、醸」




………………




「は?」




浮かれた後には落とし穴が待っているという事さえ忘れて。


最後の吟に笑顔を向けてる当たりを、神山さんちの天衣ちゃんが目撃した模様(▼∀▼)ニヤリッ

詳しくは、神山 備さま「日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ・【商店街夏祭り企画】決戦は金曜日(前日)」をお読みいただければと思います♪

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