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HEROES  作者: 根谷 司
3/4

香椎学園ルート1・2〜闇討ちジャック〜

香椎学園ルート1の中編です。

異様に小刻みなのは最初だからです。あしからず。

 夕暮れも深まり、遠くのビルの隙間にまでおいやられたオレンジが、碧い空と見事なコントラストを描いていた。

 今はまだ5時少し過ぎたぐらいだが、5月中旬では十分日没に値するだろう。


 傑流の白い髪がオレンジを反射する。

 黒いヘアーバンドがどこか情緒的な雰囲気を醸し出し、シルバーブラウンの目には憂いがある。


 窓の外を眺めながら、傑流は黄昏れていた。

 普段見る事の無い空。あれはこんなにも綺麗だったのか。ああ、生きてるって素晴らしい。


「……おい傑流。俺と景色を交互に見て悟りを開くのはやめろ」

 ベッドで横たわる聖斗に言われ、傑流は我に――

「はっ、すごいよ聖斗! 僕、今なら住職になれる!」

 ――帰っていなかった。

「本当に悟りを開いてたのかお前は……」

 呆れる聖斗。傑流は今度こそ落ち着きを取り戻し、

「……ごめん」

 と、姿勢を正した。


 ここは、2人が通う香椎学園の保健室だ。

 香椎学園は割と大きめの私立校で、校舎自体は歴史のある場所。

 数年前に理事が変わったとかで学校名もその時に変わったらしいのだが、ただのいち生徒でしか無い2人にとってはどうでもいい事だ。

 問題なのはそこじゃない。この場所が保健室だという事だ。


 放課後、美合と決闘をした2人(といっても、一方的にやられただけ)は、その場にほうけていた美合を放置し、旧校舎を後にした。

 そして、生徒の身体に刺さったままの木片を取り除くため、保健室へ来たのだ。


 設備が整っていて良かった。傑流の家程では無いが、学園の保健室の割に良い器具を使っている。

 医務の先生は不在だったのだが、前にも何度か聖斗が怪我し、傑流の家で手当てをする事があったため、経験を経て対処する事が出来た。


 だが、いつ見ても慣れないものだ。

 普通、怪我をしたら痛がり、傷口に消毒を塗れば苦痛に表情を歪ませるものだろう、と、傑流は実体験からそう思っていた。

 事実、普通はそういうものなのだが、傑流は聖斗と姉兄としか関わっていない。そのため、他人がどうとかという、いわゆる常識を知らないのだ。

 だから自分の体験ぐらいしか参考にするものは無いのだが、怪我をしたら痛い、という常識は、もしかしたら自分だけにしかない非常識なのでは無いだろうか。そう思ってしまう程、聖斗は痛がらないのだ。


 刺さった木片を抜き取ると、そこからは当然血が溢れる。中には毛羽立った木片もあり、それを引き抜いた際はとてつもなくグロかった。

 見ていただけで痛くなった傑流は、途中で何度悲鳴を上げそうになっただろうか。

 にもかかわらず、聖斗は痛そうな顔ひとつしなかったのだ。


「……本当に、生きてるって素晴らしい」

「おい、悟りを開くなと言ったはずだが」

 遠い目をして窓の外を見る傑流。その彼を睨みつけた聖斗は、自分の発言が不毛だと気付いたのか、怒るのを止めた。


 治療は30分程前に終わっていたのだが、すぐに動いては塞がる傷も塞がらないという事で、今は休んでいる所だ。


「でも、冗談は抜きにして、綺麗だよね」

 傑流は空を見ながら言う。

「なんだ、ロマンチストに目覚めたのか?」

 冷やかす聖斗。

「違うよ。ほら僕、こんな時間まで校舎に居る事なんて無かったから」

「あー、成る程な」

 聖斗は納得して頷いた。

 聖斗はたまに放課後も校舎に残る事があったが、傑流には全く無かった。だから、夕暮れに染まる校舎というのが新鮮だったのだ。


「なんかこう……、クイッとしてグイッ、な気分だよ」

「それで伝わると思っていたのなら今すぐ精神病院に行ってこい」

 見るからに統一性の無い手振りをしながら言う傑流に、聖斗はツッコまざるを得なかった。

 ふと、保健室の入口が開いた。

 2人が同時に入口を見ると、そこにはヘアピン少女――月島美合が居た。


「あれ、月島さん、どうしたの?」

 傑流は身構えるでもなく、少なくとも1時間前に決闘した相手に向けるとは思えない、警戒心のカケラも無い調子で言った。

「怪我でもしたのか?」

 対する聖斗も、友人やクラスメートに向けるような口調で問う。そこに、勘違いで怪我を負わされた恨み等は込められていない。


 2人があまりに自然な態度を振る舞うため、逆に美合が身構えてしまった。

「……あんたら、あたしの事を心配するような立場?」

 皮肉を込めた口調。それは、本来ならば恨むべき対象であるはずの美合に、心配したりするのはおかしい事だ。と言いたいのだろう、と、聖斗は理解した。

 だが、

「確かに、聖斗も怪我をしてるからね。自分の状況を棚に上げて心配されても、余計なお世話だよね」

 と、傑流はなんの裏も感じさせない微笑みを向けた。


 あまりに無頓着な傑流に、聖斗はため息をつき、美合はほうける。

 我に帰った美合は、

「そういう事じゃ無っ」

「つまりこういう事だ」

 美合が否定をしようとしたのを遮り、聖斗が言った。

「俺達に敵意は無い。お前にももう敵意が無いのなら、俺達はもう敵じゃない」

 つまり、と、聖斗は少しの間を置いた。

「警戒が必要な関係では無いという事だ」

「っ!?」

 美合は反論を失った。

 こいつらは何を言ってるんだ。ありえない。そう思ってるのがはっきりと解るような表情だ。


「信じられない、と言いたげな顔だな」

 ベッドから上半身を起こした聖斗。シャツを着ていないその身体の至る所には、複数の包帯が巻かれている。

 聖斗も、美合の考えている事が解らなくも無い。自分達(聖斗と傑流)が、様々な面において普通では無い事を自覚しているし、美合が警戒心を解かない理由も見当がつく。だからこそ、聖斗は言った。

「結果として間違いでしたとなったわけだが、お前はこの学園の風紀のために戦おうとしたんだ。風紀のために戦おうとしない人間に、お前を責める権利は無い」

 俺達も含めてな、と微笑む聖斗。その後ろで、傑流はうんうんと頷いている。


「そんな……、そんなの、おかしいわよ……」

 俯いた美合。彼女の心が揺れている、というのは、その震える手足からはっきり伝わってきた。

「あんたらは、あたしのせいで怪我をしたのよ!? あたしが間違えたせいで、あたしが馬鹿だったせいで、理性が効かないせいで!!」


「ああ、そうだな。それで?」

 相手によっては、聖斗のこの質問返しは皮肉になるかもしれない。

 だが、理性の効かない、言いたい事を言う欲求の強い美合にとって、皮肉にはならないと聖斗は解っていた。


 聖斗の読み通り、美合は続けた。

「傷付けられたら恨む、殴られたら殴り返す、傷付け返すのが当たり前でしょ!? 仕返しするのが……、制裁を、罰を与えるのが普通でしょ!?」

 美合は理性が効かないからこそ、簡単にボロを出し始めた。

 だが、まだだ、と、聖斗は思考の回転を早めた。


「まあ、そうだな。――だから?」

 聖斗は聞きに徹した。

「罰を与えなきゃ、罪は罪のままなのよ! 償いをしたって、罪悪感は消えないの! 同じ痛みを与えなきゃ、恨みは消えないんだ! だから――」

 徐々に荒くなる美合の口調。同時に、美合の本音が顔を覗かせ始めた。

「――殴りなさいよ。同じ痛みを与えなさいよ。……じゃなきゃ、あたしがすっきりしない」

 決意の篭った目。仕返しを受ける覚悟が、そこから伺えた。

 おそらく美合は、聖斗にダメージは無かったとはいえ、木片の処理をするために聖斗が保健室に来ている事を見越し、制裁を下してもらうために保健室に来たのだろう。

 ならば、どの手間なども考慮し、仕返しをするのが道理だと聖斗は思った。


「なら、甘んじて仕返しをさせて貰おう」

 聖斗が言った。

「ちょ、聖斗! でも月島さんに悪気は無かったんだよ!?」

 傑流が立ち上がった。

 確かに、聖斗は怪我をした。だからといって怒ってもいないし、美合に悪気は無いのは解っているはずだ。

 それなのに、わざわざ仕返しをする必要な無いはずだ、と、傑流は主張する。

 だが、

「そんな事は関係無いんだ」

 聖斗は言った。

「悪気が無ければ罪にならないか? 罪が無いのに罰を受けた俺達には、月島が同じ過ちを繰り返さないためにも、けじめを付けさせる義務があるんだ」

 だから、と、聖斗は意味ありげに笑い、傑流を見た。

「小林もこう言っている事だ。俺達と同じ痛みを、受けて貰おうじゃないか」


 念を押すような聖斗の口調に、傑流は呆気に取られた。いや、正確には、聖斗の台詞、もっと言えば二人称に、気を取られたのだ。


「えっと……」

「さあ、傑流。仕返しをしてやれ。この女――小林に、復讐だ」

 小林って誰? と言おうとした傑流にそれを言わせず、聖斗はさらに唇を吊り上げ、笑う。


「……そうだね」

 聖斗の意図を理解した傑流は頷いた。

 そう、目には目を、罪には罰を。過ちには過ちを。

「じゃあ、小林さん、僕たちはまだ、大事な事を聞いてないよ」

 傑流は美合を見ながら言った。


「……え?」

 呆気に取られる美合。2人が何をしたいのか、何を言いたいのか解らないという表情だ。


「だからさ、小林さん。本当に僕らに悪いと思ってるなら、言わないといけない事があるんじゃないかな」

「ちょっと待ちなさいよ、あんた達は何を言ってるの? あたしは……」

「勘違いするなよ小林」

 わざとらしく名前を言い、美合の言葉を遮ったのは聖斗だ。

「同じ痛みを受けたいんだろ? お前の望み通り、同じ痛みをくれてやる。だが残念ながら俺達は、お前の攻撃に肉体的痛みを感じていない。お前がもしも肉体的苦痛を望んだのなら、それはお前の自惚れだ」

「……どういう事なの?」

 どこか虚ろげに、美合は呟いた。

 美合の攻撃でダメージが無かったというのは解ってはいたが、改めて言われるとタネが気になるものだ。

「あれでダメージが無いなんて、ありえないわ」

 自分の能力に自信があったからか、その口調は妙に卑屈になった言い方だった。


「ありえないなんて事は無いだろう」

 聖斗は言った。

 聖斗は自分の情報は最低限漏らさない主義だが、この場合は言ったほうが良いだろうと判断したのだ。

「俺は、痛みを感じない。そういう体質なんだ」



 そういう体質。つまり、異変体質。


「……え」

 美合の思考が停止した。

 異変体質者は近年、増加傾向にある。

 今でこそ、ちゃんと生まれてくる事が出来る異変体質者は50人に1人だが、今まではもっと少なかった。授業でやった内容によると、15年前までは150人に1だったらしい。


 つまり、今16歳である聖斗達の年代の異変体質者は、50分の1ではなく、150分の1の存在なのだ。


 ちなみに、香椎学園は1学年約300人だ。

 確率で言うなら、異変体質者は1学年に2人。出会ってもおかしい事ではないが、美合が驚いたのはそこでは無い。


「……そんな能力を持っておきながら、どうして、あたしと戦おうとしなかったの?」

 そう、痛みを感じないという事は、攻撃に対して怯んだり、動きが鈍る事が無いという事だ。

 戦いに有利な能力を持ちながら悪としても正義としても戦わないのは、今のご時世、ナンセンスだ。


「それは、何を言いたいんだ?」

 聖斗は聞き返した。

 なんとなく解ってはいたが、確信を持てなかったのだ。

 美合は食ってかかるような口調で、

「痛くないなら、痛みや苦痛で動けなくなる事は無いわ。なら、近接戦に持ち込めばあたしを倒せたはずでしょ」

 と、皮肉を言った。

 聖斗はため息をつくと、

「お前が、こと戦闘に於いて弱点にはならないと言った理性の欠陥。それが今日の決闘で油断を煽り、敗北を招いたのと同じように、短所が無力であり、長所が有力であるとは限らない」

 と、傑流と目を合わせながら言った。


 傑流と見つめ合う事5秒。首を傾げた傑流の反応で気付いた。

「――というか……」

 聖斗はため息をつき、

「戦えないんだ。俺は」

 と、言い直した。


「戦えない? それって、障害のほうが関係してるの?」

 美合は眉を寄せ、尋問するかのようなきつい口調で聞く。

 異変体質者は、普通なら持ち得ない特殊な能力を持つ変わりに、必ずなんらかの障害を背負う。

 ここに一切の例外は無く、社会的には異変体質者=障害者と考え、福祉を受ける対象だと言い張る団体も少数ながら居るほどだ。

 だが、

「これ以上は、聞かせるつもりは無い」

 聖斗は答えなかった。


 このご時世、どこから個人情報が漏れるか解ったものじゃ無いし、どんな些細な情報が命取りになるか解らない。

 だから、例え同級生や友人であろうと、最低限の個人情報以外は他人に与えないのは当たり前だ。信頼していても念のため、と言う大義名分の元、血液型や誕生日さえ知らないけど親友、というのも少ない話では無い。


「……そう。すごく聞きたいけど、無理に言わせたらそれこそ犯罪になるから、仕方ないわね」

 そういう社会背景もあってか、美合は引き下がった。


「さて、じゃあ今度はこっちが聞く番だ」

 聖斗はベッドから抜け出し、そのまま座った。

「まず、お前はここに何をしに来たんだ?」

 聖斗は既にしてやったり顔だ。本当はもう美合が何をしに保健室に来たか解っているのだろうが、美合の心を揺さぶるためだ。


「何をって…………あ」

 どうやら、本人も何をしに来たのか忘れていたようだ。

 だいたい、見た限り美合は怪我をしていない。怪我人でもなく保健委員でも無い人間が保健室に来る用事といえば、保健室に来ている人間に用事がある場合しか無い。


「えっ、と」

 美合は急にもじもじし始めた。

 セミロングの髪に不自然な程セットされたヘアピン、猫のような印象を受ける大きな瞳。

 強気な態度が一蹴され、弱々しい一面が顔を出す。

 赤面した顔とその態度が合わさり、いわゆる乙女らしさがあった。


 理性が効かないとどうなるかを想像した聖斗だが、その想像は具現化せずに終わった。

 聖斗は精神的に追い詰めるのは得意だが、哲学を学んでいるわけじゃない。

 だから、どこまでが理性なのか、計り兼ねていたのだ。


 少なくとも恥じらいはあるのか、と感心した聖斗の横で、

「ああ、そういえば月島さんって女の子だったんだ。すごく男らしさがあったから、忘れてたよ。ね、聖斗?」

「最悪の1人ごとをありがとう。死にたいのならお前1人で死ね」

 あれ、聖斗に語りかけたはずなんだけど……、というかどうして死ねとかっていう話しが出てくるの? と本気で懸念する傑流を軽く無視し、聖斗は美合を観察した。


 予想外だったのは、傑流の発言で美合が怒らなかった事だ。

 美合はまだ赤面して、何かを言おうとして、留まってを繰り返し、地上に上げられた魚のように口を開閉している。


(面白そうだな)

 聖斗は少し遊ぶ事にした。


「おい、小林」

 呼ばれて美合はハッとした。いや、実際呼ばれたのは美合の名前では無いのだが、流れで反応してしまったのだ。

「随分と覚悟の要る用事らしいな。まさか、告白でもする気なのか?」

 その言葉でさらに赤面した美合を見て、顔にペンキでも塗ったのかと聖斗は思った。


「そ、そそそんなわけないじゃない! だ、だいたいねぇ、あんたらみたいな携帯ストラップヲタクとか凶刃極悪オーラを身に纏ったバンダナ男に、こ、告白なんて、するわけ無いじゃない!」

「……あれ、なんで僕らはこんなに嫌われているの?」

「女を男だと思っていたと本人の前で言ったやつには妥当だが、俺のは随分な不可抗力だな」

 赤面したまま今度は怒る美合。


「告白じゃないのなら、妥当、十文字九音の共闘依頼か?」

 次の聖斗の問いに、美合は表情を渋らせた。

「なんでそんな事する必要があるのよ。あたしは共闘者なんて居なくても勝てるわ」

「さっき俺達に負けたばかりなのに、随分な自信だな」

 限界であろう色まで赤面していた美合から、一気に血の気が引く。


「そ、それは……」

 口ごもる美合。

 聖斗は止まらない。


「ちなみに、ここに居るこの男、仁間傑流は軍人体術サンバットコンボを極めた師範代だ。お前を羽交い締めにした時の力がその証拠だ」

「そうなの!?」

 体術とか、極めた、とかに反応したのか、美合は興味ありげに目を輝かせ、身を乗り出した。

「もちろん嘘だ」

「はぁぁあ!?」

 即座の前言撤回に、悶絶するほどの怒気を撒き散らす美合。


 百面相。美合を例えるならその一言に尽きる。そして何よりも真っ直ぐな飛行機雲だ。

 もとより素直な――通り越して愚直な――性格なのだろう。それに相乗して理性の欠落。

 感じた事を、抱いた想いを、疑念を、隠すつもりも、誤魔化す能力も無いのだ。


「さて、と」

「あんた、あたしで遊んでるでしょ……」

 聖斗の腹の中に気付いた美合が言うが、聖斗はそれに答えない。

「告白でも共闘依頼でも無いとなると、あとはなんだ?」

 これが本題だ、と語る堂々とした口調に、美合は少し気圧された。


「まさか、僕達を今度こそ仕留めに……!?」

「そんなにボケ役に回りたいのならとりあえず生まれ変わって来い」

「あれ、なんかいつもより酷くない?」

「空気を読まない馬鹿は死ななければ治らない」


 聖斗が作り上げた空気にヒビが入る。

 美合に与えた重い空気。

 脅すような――尋問するような空気が崩れた。


 しかし、それも計算の範囲内、いやむしろ、計算通りだった。


「ハハ……」

 美合の顔が僅かに綻ぶ。

 睨み合っていた聖斗と傑流が揃って美合を見ると、

「そうよ、こんな馬鹿面の奴らが、狡猾な十文字九音なはずが無かったじゃないの。あたし、馬鹿だなぁ」

 独り言のように呟いているが、その言葉はしっかりと2人に聞こえている。


「そう、そうよ。用事。今思い出したわ。勘違いしないでよね、今まで忘れちゃってたような、どうでも良い用事なんだから」

 精一杯の演技だろう、と、不器用さの滲み出る美合の態度に、聖斗は微笑む。


 あえて急かさず続きを待つと、美合は勢いよく、頭を下げた。


「ごめんなさい!! 知りもしない相手に挑もうとして、負けて、しかも人違いでした、なんて、最悪よ、最低よ! 人の話を聞こうとしないで、怪我をさせてしまった……。本当に、ごめんなさい!!」


 誠意、必死さ、申し訳なさ、罪悪感、責務感、全てが詰まった、心からの謝罪。

 そう、全てが詰まったであろう台詞。


 もう一押しだ、と、聖斗は崩していた表情を戻した。


 美合の心を動かす事には成功した。

 あとは、色々と紐解きながら条件を揃えるだけだ。


(ここからは、2対1だ)


 聖斗の胸中は、誰にも解らない。


 ≦≡1≡≧



 風紀委員。

 学園の風紀を守るための人間が、学園の風紀を乱す失態。誰が許そうと、自分自身が許せない事だ。

 美合は頭を下げたまま、唇を噛んでいた。


 許せない。――自分自身が、許せない。

 これからしようとしている頼み事も含め、最悪だった。


 謝罪の後の僅かな沈黙。保健室に外の闇が入り込んで来ているようだ。

 いつの間にあんなに暗くなったのか。そんな事を考えて、少しでも感情を隠そうとした。

 隠さなければ、そうやって違う感情で塗り潰さなければ、理性の効かない美合は感情が爆発してしまうのだ。



「ねぇ、聖斗。もうっ」

 何かを言いかけた傑流の台詞が、不自然に止まった。

 顔を上げずに視線だけ動かすと、聖斗が人差し指で傑流を制しているのが見えた。


「……それだけか?」

 人差し指を降ろして聖斗が言った。

 彼の発言は、たまに解らない時がある。

 誰に言ってるのかとか、何を言いたいのかとか。


 だから、考えなければならない。

 考えてから回答しなければならないというのは解ってはいるのだが――

「それ、だけじゃ……無い……」

 言ってしまった。

 理性が欠落しているからこそ、ボロが出るというのはある。

 しかし、全く理性が効かないわけじゃない。感情を抑える事が出来れば、理性を効かせられる。


 聖斗の喋り方は、それを与えてくれないのだ。

「他の用事は、口止め、で間違いないな?」

「!?」


「なんで……」

 美合は後ずさった。

 クセなのだろうか。聖斗は何度目かのため息をつく。

「簡単な哲学だ。お前の行動が、風紀委員らしく無かったからな」

「……人は見かけによらないわね」

 眉をひくつかせる美合。

「そう言うな。自覚はしてる」

 聖斗は見るからに体育会系だ。そんな彼から哲学という言葉が出ると、むず痒さを隠せない。


 しかし、さっき聖斗は戦えないと言っていたのを美合は思い出す。

 今時、不良に絡まれたり他人と喧嘩をした事の無い高校生は極めて稀だ。

 そんな社会で戦わずに生きていくには、理論しか無い。

 だから知識を身につけたのだろう、と、美合は勝手に納得し――

「いや、売られた喧嘩を理論攻めで返す程、火に油な行為は無いと思うぞ」

 ――全ての思考がだだ漏れになっていたため、聖斗につっこまれた。


 とにかく、と、聖斗は話を切り替えた。

「お前は言ったな。罪状を認めさせるための決闘だと」

 捏造という言葉を知ってるか? と聞き、美合が頷くよりも先に、

「それは風紀委員がやる事じゃない。いや、やっていい事じゃないんだ」

 と、言いきった。


「つまり、あの決闘はお前の独断だ。――そしてお前は間違いを犯し、一般生徒を傷つけた。普通なら風紀委員はクビだろう。そして、それがお前に対する罰になるはずだった」

 もはや独壇場。

 聖斗を止める口実を、美合は持ち合わせて居なかった。

「そのはずなのに、お前は俺達に罰を求めた。――クビになりたくないから、バレないで事を済ませたかったんだろう?」


 美合は黙った。

 普段の美合なら、逆上していたかもしれない。

 だが、今はそれが出来なかった。

 理性が効いてるとかの問題ではなく、ずばりと核心をつく聖斗に恐怖したのだ。


「さて、本題だ。俺達を口止めしたければ、お前が今日とった行動の理由を……納得の出来る言い訳をしろ。今、この場でだ」

 聖斗への恐怖も引かぬまま、聖斗は言葉のバトンを美合に渡した。


 独壇場から急に回ってきた自分の番に、美合は戸惑った。


「さあ、十文字九音に固執する理由を――言え」

 聖斗が唇を釣り上げた。

 ――慣れている。と、美合は率直に思った。

 自分がこういう状況に慣れている、という意味では無く、聖斗が人に揺さぶりをかける事に慣れている。という事だ。


「あたし、は……」

 後は、自然と口が動いていた。

「あたしの両親は、犯罪者に殺されてるの」

 これは、今から7年前――judgmentが縮小を余儀なくされたあの事件から3年後の話よ、と、美合は語り出す。


 ――異変能力者が差別に値する障害者であることを、いや、化け物であることを自覚したのは、小学校下級生だった時だ。


 理性が効かないとはいえ、まだ欲求のままに動く小学生の中ではそこまで目立つ事は無かった。

 しかし、あたしの能力は鉄を分解してしまう。

 今となれば理論を理解出来るが、当時のあたしは勿論、回りの誰も、何故鉄が崩れるのか解らなかった。


 着いたあだ名は『腐り虫』

 あたしの鉄分解の能力は、物を腐食させる能力だと、同級生達が判断したのだ。


 イジメ。有り体に言えばそうなるかもしれないが、実情は違った。

 同級生達は、同学年達は、いや、教師を含む全ての人間は、あたしに恐怖を抱いていた。


 能力は、開花した段階から強いわけじゃない。

 鍛えれば強くなるし、使いまくれば疲労する。いわゆる運動のようなものだ。


 当時のあたしの能力は、鉄を破裂させる事は出来なかった。いや、出来るとさえ思わなかった。

 回りの人間同様、鉄には限らず、触れて息を吹き掛けた全ての物が崩れ落ちるようになると思っていた。


 度重なる無視。犯人の解らないイジメ(おそらく、同級生全員によるもの)。使ってる教科書はボロボロで、机(他の生徒は木と鉄を組み合わせたものだが、あたしに限り木製)には掘り込まれたタチの悪いメッセージが綴られていた。

 それでもあたしは、折れなかった。


 イジメに耐えられなくて、理性の効かないあたしは何度も泣いて、何度も発狂した。

 その度に煙たがる回りの態度は悪くなったが、それでも、自殺しようとか考えた事は無かった。仕返しもだ。仕返しをしたら負けだ。ヤツらと同じになるから。


 その日もいつも通り、登校時とは違う姿(トイレに入ってる最中に水をかけられた。なんて古臭いイジメだろう)で帰宅したあたしは、理性が効かないせいでとめどなく溢れる涙を、せめて袖で拭いながら家のドアを開けた。


「おかえり、美合」

 玄関で靴を脱ごうとするあたしに、台所に立っていたお母さんが言った。

 そして、僅かに目を細め、あたしに近寄る。


「た、ただいま、お母さん」

 恐る恐るあたしは言う。

 今日、水をかけられてびしょ濡れになったあたしは、教師に見つかった。

 トイレで水をかけられたと説明したのに、『お前はまた何かしたのか!』と、あたしが怒られた。またってなんだ。あたしはいつも通り何もしていないのに。


 そんな事もあり、大人への信頼も無くしかけていたあたしを、

「もう大丈夫よ」

 お母さんは言いながら、抱きしめた。


「今日もよく耐えたわね、偉いわ。流石、あたし達の、お父さんの娘よ」

 お父さんの娘。その言葉があたしの頭にこだました。

 お父さんは警察だ。正義の味方だ。そのお父さんの娘であるあたしは、正義の味方になれる血を持っているのだ。


「でも、あと一ヶ月頑張って。なんなら、あと一ヶ月、登校しなくてもいいのよ?」

 あたし達は一ヶ月後に引っ越し、異変体質者だけが通う私立の施設学校に転校する。それまでは待って欲しいとの事だが、

「ううん。あたしは学校に行くよ。あんなワルモノに、負けたくないもん!」

 あたしは言った。


 この引っ越しは、本当なら必要ないものだ。

 だが、異変体質者はどこに行っても差別を受ける。だから大抵の人間は、高校に上がるぐらいまでは能力を隠して生きている、というのは後になって知った話しだ。

 その異変体質者であるあたしが差別を受けない場所。――つまり、施設学校へ転校させるため。


 しかし、施設学校は多くない。

 少なくともあたしが住んでいる場所には無く、結構遠くに行かなければならない。

 それでも、お父さんとお母さんはあたしのために引っ越しをしてくれるというのだ。

 あたしの味方。あたしの正義。温もり。

 ああ、あたしは幸せ者だ。

 お父さんとお母さんが居れば、あたしはどんな辛さも耐えられる気がした。 


 夜になった。

 お風呂に入って、お父さんが帰ってきて、ご飯を食べて、布団に入った。


 あたしは、異変体質者。

 あたしが間違えても分解しないよう、部屋にあるものは全て木製だ。

 この檜の香りが、あたしは好きだ。両親の愛が具現化した香りみたいな気がして、大好きだ。


 お父さんは、寡黙な人だ。

 あまり喋らないし表情にも出さないが、寝る前は必ず頭を撫でてくれる。

 その大きな手が、あたしは大好きだ。

 独りになった部屋で、まだ頭に残る掌の感触。

 悪い気分じゃない。はずなのに、なんだか今日は少し寝付きが悪い。


 寒い。

 トイレに行きたい。

 そういえば、窓を開けっぱなしだった。

 窓に近付くと、変な臭いがした。斜向かいにある小さな工場から漏れた臭いだろう。

 窓を閉めようとしたら、庭に何かの影が見えた気がした。猫でも迷い込んだのだろう。


 猫の姿を見たくて身を乗り出そうとしたけど、夜中の外気が異様に肌寒く感じて、やめた。

 窓を閉めたけど、やっぱりすぐには寒さが引かない。


 寝付けないくせに身体は重い。トイレに行くのも億劫だけど、理性が無くても恥は恥。オネショなんて絶対嫌だ。


 トイレは1階。あたしや両親の寝室は2階にある。


 廊下に出ると、部屋以上の暗闇だった。

 月明かりも無い、完全な闇。

 怖いけど、変に明かりを付けて両親を心配させたくなかった。


 廊下は部屋と変わらず異様に寒くて、階段を降りる時は手摺りが無いと転びそうな程身体がだるかった。


 お父さんかお母さんが消し忘れたのか、トイレだけ電気が付いたままだった。そしてトイレに入ったら、廊下以上に寒かった。そして、また部屋と同じ匂いがした。斜向かいの工場の匂いだ。

 窓が完全に開いている。外気も、斜向かいの工場の匂いも、全部がそこから入ってくる。


「くっくっく……、あのくそサツ公」

 そういえば、どうしてこんな時間に工場から匂いがするのだろう。と、外から声が聞こえた瞬間、思い出した。


(……え?)

 トイレの裏は、普通は人が入らない、狭い縁側みたいになっている。

 むしろ私有地だ。そこから、両親以外の声が聞こえるなんておかしい。


「……おれをしょっぴいて5年も拘留しやがったんだ……。礼はたっぷり、弾まねぇとなぁ」

 ガソリンの匂いに、何かが加わった。

 そして、何かの音がした。

 火を付けたマッチを水に落とし、鎮火したかと思えば一気に広がるような、そんな音。


 見ると、窓の外が一気に明るくなっていた。


 ような、では無かった。実際に火が着いた音だったのだ。

「くたばれ、クソ野郎」

 吐き捨てる外の男。

 火を付けた。

 火災? 違う、放火!


 あたしは言葉を失った。

 数秒間固まって、逃げなきゃ、と思った。

 トイレから出て廊下に出ると、あたしは家から飛び出した。


 遠くでバイクが走り去る男が見えた。――あれが、犯人。


 どうして、あたしはこんなにイジメられなければならないのだろう。

 ただでさえ学校でいつもイジメられているのに、唯一の安らぎである家にまで来るなんて……!


(あれ?)

 何かがおかしいと思った。いや、何かが足りないと思った。

「……いや」

 火は、もう家を囲んでいた。

「いやっ」

 早すぎる。火はこんなに早く回るものだろうか。1分しないうちに、あたしの家は、今も中に両親を残したままの家は、炎に囲まれていた。


「いやぁぁぁぁあああ!!!!」


 あたしの安らぎが、幸せが、平穏が、支えが、生きる意味が、価値が、その夜、全て奪われた。

 失うのに要した時間は、僅か数分だった。


 私はその場で、気を失った。




 目が覚めた私が居たのは病院だった。

 火傷は無かったけど、風邪を引いていたらしい。

 そういえばあの夜、妙にだるかった事を思い出す。

 あとついでに、学校のトイレで水をかけていた事も。


 しかし数日間、あたしは何も出来なかった。

 病院のベッドで休み、風邪は治った。……治らなかったのは、心のほうだと気付いたのは、随分と後になってからだった。


 入院して一週間、警察の関係者と、お父さんのお父さんが来た。

 遅すぎる事情聴取をしにきた警察と、あたしを引き取りに来たというおじいちゃん。


 あれは火災では無く放火だ、と、犯人の声を聞いた、とあたしが説明すると、警察の人はそれを嘲笑した。

「キミは、あの夜から既に風邪を引いていたんだよね?」

 はい、とあたしが答えると、

「なら、意識が朦朧としていたのも仕方ないね」

 哀れむ目で、憐れむ目で、警察の人はあたしを見下す。


「それに、聞いた話しだと、キミは理性の欠落した《異質》らしいじゃないか。それなら、幻覚や幻聴を体験しても仕方がないよ」


 違う、あたしにそんな障害は無い。

 理性が効かないというのは、感情の制御が出来ないという事だ、と、当時のあたしが言えるはずも無かった。知らなかったのだから、仕方がない。


 でも、何を言っても、警察の人はずっとそんな調子だった。

 初めから聞くつもりなど無かったのだ。

 一応形上だけ聞いて、全てを否定するつもりだったのだ。

 全てはきっと……あたしはが《異変体質者》だから。……《異質》だから…………。



 ――こんなものよ。と、美合は話しに括りを付けた。


「だからあたしは犯罪者を許さないし、怠慢な組織も許さない。蔓延る悪を、証拠がなんだと言い訳を付けて捕まえようとしないヤツらなんて同罪だ、共犯者だ! 人の物を奪ったヤツは、相応な何かを奪われなきゃいけないの!」

 美合はどうやら、過去の傷をえぐって歯止めが効かなくなっているようだ。


「だからあたしが変える! 証拠も掴めない風紀委員も、十文字九音も、他の不良も! あたしが罰を与えるの!」

 

 聖斗は深くため息を着いた。

「何よ、不満?」

 話しが逸れていた事を思い出し、美合は少し縮こまった。

 だが、

「いいや、満足だ」

 聖斗は言いながら、立ち上がる。

「今回の事は誰にも言わないと誓おう。な、傑流」

 傑流に見遣る聖斗だが、傑流はそれに気付かない。

 なんだか目を開けたまま寝ているようにも見えるし、何かを考え込んでいるようにも見えなくはない。


「おい。おい、傑流!」

「――っ……あ! え、えっと、いや、僕は男だよ!?」

 ついに声を張り上げた聖斗。ようやく反応した傑流だが、いったい何を考え込んでいたらそんな返事になるのだろう。いや、確かに中性的な顔立ちではあるのだが。


「そんな事は知ってる。行くぞ、傑流」

「? ああ、……うん。――え?」


 少しほうけた傑流は、

「行くって、どこへ?」

 と、聖斗に聞いた。

 本当に、どこまで的が外れた感性をしているのだろうか。

 傑が、少なくとも人とはズレた感性を持っている事を知っている聖斗は、もう今日何回目か解らないため息をつき、

「帰るんだ。話は終わった」

 と、歩き出した。

「え、でも……」

 傑流は名残惜しげに美合を見た。

 しかし、

「月し――小林の顔を見ろ。疲れきっているじゃないか」

 今、言い直す必要はあったのだろうか。聖斗は存外根に持っているようだ。

「あ、うん。そうだね」

 納得した傑流は聖斗に続いた。


「ち、ちょっと待ちなさいよ! あんた、怪我は!?」

 引き止める美合。聖斗は身体中に包帯を巻いているのだ。痛みを遮断出来るとはいえ、安静に越した事は無いはずだ。

 聖斗は振り返る事もなく、

「痛みは無くても怪我は怪我だ。しかし、いつまでもここに居るぐらいなら病院に行くさ」

 と、意味有りげに言い、廊下に出た。

 その後に出た傑流がドアを閉めると、保険室は一気に静かになった。


 時間は、6時だ。そろそろ、運動部の活動が終わり始める。

 だいたい忙しくなるのはこの時間だ。血の気の多い運動部員達が問題を起こさないよう、風紀委員が見回りをするのだ。


 しかし、美合は動けないまま、その場に腰を落とした。

「……あれ」

 たった1時間立って話していただけのはずだ。

 それにも関わらず、美合は疲労していた。


 床に汗が落ちた。それが自分のものだと気付くのに、少しの時間を要した。

 そして、思い出す。

 ――凶刃で極悪なオーラ。

 聖斗からなのか、傑流からなのか解らないが、あの2人のどちらかから、異様な気配を感じたのだ。


 旧校舎裏で、なんの疑いもなく襲い掛かった最大の理由ともいえる。あのオーラは普通では無い。

 風紀委員として様々な不良と対峙した事があったが、どれとも当て嵌まらない、比べ物にならないオーラ。

 あれは一体なんなのか、美合は考えていた。


 何分そのままで居ただろうか。少し外が騒がしいと思ったら、保険室のドアが乱暴に開かれた。

「月島君、こんなとこに居たんだね!」

 聞き覚えのある、普段は落ちついているはずの男性のその声は、やけに慌ただしかった。

 見ると、風紀委員の腕章をした中肉中背の3年生が居た。


「本城先ぱ……っその人は……!?」

 本城和馬(ほんじょうかずま)。風紀委員の副委員長であるその男の腕には、美合と同じ色のリボンをした女子が担がれていた。


 和馬は気を失ったその女子を保険室のベッドに寝かせ、用具箱を漁り始めた。

「おや、珍しく整頓されているね……。相川先生らしくないけど、今は助かる」

 相川先生とは、がさつで有名な保健室の女性教諭(独身)の事だ。


「……サボりは良くないっす、月島先輩」

「うひゃあ!?」

 突如後ろからかけられた声に、美合は飛びのいた。

「お、驚かせないでよ、剛大!」

 居たのは、小柄だが筋肉質な男子生徒。風紀委員の腕章があまりにも似合わない、赤いモヒカンみたいな髪型の1年生だ。


 海原剛大(うなばらごうだい)。名前負けする身長と声量の、控え目な少年だ。


「……今日1日、何やってたんすか」

 剛大に聞かれ、美合はビクッとした。

 十文字九音との決闘のため、風紀委員室に寄っていなかったのだ。

「いやー、あのー」

「そんな事はいいから、手伝って貰えるかな?」


 和馬に言われ、美合はハッとした。

 和馬が女子生徒の袖を捲ると、そこには無数の痣がある。

「どうしたんですか、その子」

 別に誰かが保健室に担ぎ込まれるのは、こんなご時世なだけあって珍しくは無い。だが、その女子生徒が喧嘩をするような、または巻き込まれるような活発な感じには見えない。

「倒れている所を見つけたんだよ」

 和馬は随分と慣れた手つきで手当をしていく。こういう形で担ぎ込まれた生徒を、何人も手当してきたからだ。

 そこらへんの保健委員よりは有能だろう。


「……柴田舞惟、2年生っすね」

 生徒手帳を見ながら剛大が言った。

「……記入欄の欠席枠は、ハンコーひとつ無いっす」

「善良な生徒、と見て良さそうだね」

「……破損物欄、謹慎欄、赤点欄、どれも未記入なので、間違いは無いかと」

「模範的な生徒、という事か」

 手当をしながらの和馬と、生徒手帳のページをめくりながらの剛大の間に無数の質問が通う。


「そんな子が、どうして?」

 美合は怪訝な顔を浮かべた。嫌な予感に鼓動が速まる。

「……帰宅部、っすね……」

 剛大が付け足した情報に、和馬の手が止まった。


「…………やられたね」

 和馬が悔しそうに呟く。

「どういう、事ですか?」

 美合はまだ飲み込めていない。

 和馬は深呼吸をしてから美合を見て、言った。

「この子を発見した時間はたった今さっき。部活動に参加していない生徒が居るはずも無い時間だよ」

 そして、と、和馬が置いた少しの間に、美合の鼓動はどんどん速まっていく。

「発見した場所は、普通の生徒が出入りするはずの無い場所……旧校舎だよ」

 嫌な予感は――

「犯人は確実に、闇討ちジャックだろうね」

 ――最悪の形で的中した。



 ≦≡2≡≧



「ねぇ、僕はミイラの知り合いを持った覚えは無いよ」

「黙れ人外」

 翌日、学校に登校した聖斗と傑流が教室で顔を合わせた時、最初の挨拶である。

 流石にこれが日常という事は無いが、似たようなものだ。


「梶原、お前、いくら仁間が天然だからって、人として扱わないのは非道だぞ」

 聞いていた男子生徒が、引き攣った笑みを浮かべている。――これは非日常だ。普段は傑流に挨拶を飛んで来ない。


「え、非道なの?」

「妥当だろ」

「いや、ちょっと待った。梶原はともかくなんで仁間まで首を傾げるんだ?」

 傑流の天然ぶりに唖然とする男子生徒。確かにこれは人外の疎さだ、というのが顔に出ている。


 順番はおかしくなったが、包帯だらけの聖斗に見舞いのような言葉を述べ、今日1日も頑張ろう、と気合いの入った挨拶を2人に飛ばし、男子生徒は早々に席へ向かった。


 聖斗は今、ミイラ状態だ。

 昨日の帰宅後、聖斗は本当に病院に行ったのだ。

 そこで大袈裟な治療を施して貰えった結果、ミイラになったわけだ。別に水分が蒸発してホラーな状態になったわけでは無い。


 聖斗も傑流も、聖斗のミイラ状態を除けば、いつも通りだ。

 そう、いつも通り、

「はっ、ねぇ聖斗! 僕すごい事に気付いたよ!」

「……一応、聞いてやろう」

「今なら僕でも聖斗に勝てる!」

「……俺に怪我が関係あるとでも思っているのか?」

「…………無いね」

 いつも通りだった。


「今日の放課後、ディアーに行こうよ」

 傑流が話しを切り替えた。ディアーとは、異変体質者がマスターをやっているカフェの名前だ。

「一昨日行っただろう」

「食べ損ねたじゃないか」

 そう、2人は一昨日買ったアイスを、傑流は落とし、聖斗はヤクザのあんちゃんにぶっかける事で食べれず仕舞いだった。

 そのリベンジをするべく、傑流の提案。

「……そうだな」

 まんざらでもなさそうに、聖斗は言った。


 2人は、正義の味方では無い。なろうとも思わない。

 judgmentが就職希望である聖斗だが、正確にはjudgmentの事務職を希望している。

 喧嘩や事件事故を含め、戦う事を避けるために最も有効な手段。それは、戦う組織の裏方に回る事だ。


 戦いは前衛が引き受けてくれる。自分達はそれを後押しする。

 そのためのjudgmentだ。


 だから、昨日の美合の話を聞いて、2人の考えや日常が変わるわけじゃない。

 正直、今時美合みたいな境遇の人間は少なくない。全ての者を救おうとしたら、破滅するだけだ。


 よって、聖斗と傑流はいつも通りだ。今までと変わらない、日常。

 ……しかし、他までいつも通りとはいかなかった。


「ま、舞惟!? どうしたの、その怪我!」

 教室の入口で、そんな慌ただしい声が聞こえた。

 2人が釣られて見ると、

「…………な、なんでもないよ」

 と、泣き出しそうな声で言う舞惟の姿があった。

 腕にはギブス。足首に包帯。頬にはガーゼ。いつもより着太りしている制服。ただ事では無いだなど、一目瞭然だった。


「…………」

 2人は黙った。教室の入口の会話に、意識を取られたのだ。


「なんでもないわけないじゃない! だって、その怪我……」

 舞惟には人望がある。当然だ。今時珍しい、無遅刻無欠席で成績優秀、人なつっこくて勤勉。それでいて謙虚、嘘だってつかない。誰からも信用される、通称最高の学級委員だ。

 そんな彼女が、まるで暴力を受けたかのような怪我をしてきたのだ。心配しないほうがおかしい。


「これは……その……」

 クラスの皆に騒がれ、本当の事を言うまいとしてた舞惟も折れたのか、口を開いた。

「十文字、九音に……」

 出てきたのは、学校七不思議みたいな名前だった。


 全員が息を飲んだ。

 十文字九音。その天才的頭脳が故に登校義務を免除され、登校しないで放課後だけ現れ人を襲うという。

 十文字と九音の始めの数字、十と九を合わせて読み、風紀委員さえ反抗現場を押さえられないその手口から、こう呼ばれている。

 ――闇討ちジャック、と。


『ついに一般生徒まで……』

『こんなに良い人に手を出すなんて、許せない!』

『許さないからって、どうにか出来るのか?』

『それは無理だけど……』


 当事者である舞惟を置き去りに盛り上がるクラスメート達。

「大丈夫かな」

「やめておけ」

 そのクラスメート達のほう、舞惟の元へ行こうと立ち上がった傑流を聖斗が止めた。

「あの状態の舞惟にお前が話しかけたらどうなる?」

「…………」

 言われて傑流は黙った。

 そして、諦めて席に座り直す。


「まあ、舞惟の仇討ちは風紀委員に任せよう。……それで、アイスは何が食べたい? 店で迷いたくないからな、早めに決めておこう」

 聖斗が、何かを噛みしめるような口ぶりで言った。

 何かを期待しているような、何かを含めた言い方だ。


「ねぇ聖斗、なんかさ、昨日から口の中に変な味がするんだ」

 黒いバンダナを深く被り直しながら、傑流は恥ずかしげに口を開く。

 しかし、その口調には何かを堪えるような震えがあったのだが、それよりも、傑流の下唇が切れ、血が出ている事に聖斗は気付いた。


「どうした、我慢出来ないのか? なら授業をふけって口直しに行くか?」

 血を拭け、とポケットティッシュを傑流に渡しながら聖斗は聞く。

「いや、放課後まで我慢する」

 噛みすぎて切れた下唇を拭きながら、傑流は首を横に振った。


 いつも通りの会話。いつも通りの2人。

 そう、いつも通り――

「だからお願い聖斗。放課後、僕を止めて」

 ――いつも通りの、お願い。


 聖斗はため息をついた。

 呆れたため息ではなく、やっとか、と言いたげな、待ちくたびれたというようなため息だ。


「いいだろう。――止めてやる」


 2人は正義の味方じゃない。なりたいとも思わない。

 だからこそ2人は、いつも通りだ。


 ≦≡3≡≧



 そして放課後になった。

 アイスを食べに行く約束を傑流としていた聖斗だが、彼は今、1人で校内を歩いていた。


「ったく、傑流のせいでフラフラだ」

 頭を押さえ、首を振る。偏頭痛ではなく、酔いのような感覚。耳鳴りが酷く、船の先般に立ったかのように頭が揺れる。


 痛みを感じない聖斗は、その分他の感覚が鋭い。

(他の奴らは、耳鳴りしかしないんだろうな)

 なんとなく自嘲して、聖斗は旧校舎へ向かうための渡り廊下へ差し当たった。


 聖斗は携帯電話を取り出した。

 鉄製の人型ストラップが大量に連なっているのに、本体にはなんのデコレーションもされていない携帯電話。


 ちなみに形は単純な折りたたみ式だ。

 小型化した携帯はシャープペンの芯のケース程まで縮小している(電子ディスプレイ=空気中に画面とキーを展開させる装置がついている)し、ある種の防具になるような強度のものもあるし、リストバンド型で、思考や声に反応するような物も出ている。


 だが、聖斗はあえて、普通の――少し旧型の――携帯電話を所持している。

 それにはちょっとした理由があるのだが、それは今はまだ関係無い。


「さて、と。ここに来るのは初めてだな」

 旧校舎の集会場。朝礼等は、今は体育館で行われている。だが、旧校舎が旧で無かった時はこの集会場で朝礼等が行われていた。


「まるで要塞だな」

 硬く閉ざされた鉄製の扉を見て、聖斗は苦笑した。

 大きさ的には砦という表現が近いが、どちらにせよ学校にはあまりに似合わない存在だ。


 ため息をつきながら携帯を開いた聖斗は、メールの受信ボックスを見た。

『差出人、傑流。――旧校舎の集会場に居る』

 傑流が場所を間違えていなければ、ここで良いはずだ。

 聖斗はその砦を見上げ、次に全体を見渡した。


 周りを少し歩いて、開いてる窓を探すが、ありそうには無い。窓

「…………時間が惜しいな」

 呟いてテープとハンカチを取り出し、窓に当てる。

 音が散らないように殴ってガラスを割るが、内側には柵がある。人間が通れる隙間では無い。


 聖斗はそこに、携帯のストラップを2つ抜き取った。

 ふと、ガラスを殴った際に切れたらしく、拳は僅かに出血している事に気付いた。

 手間が省けた、と、聖斗は思う。


 ガラス割りの消音に使ったハンカチで血を拭い、抜き出したストラップに付ける。

 その見るからに奇しい手順の後、2つのストラップを集会場の中に落とした。


 急いで扉の前に戻り、目を閉ざす事10秒。

 硬く閉ざされていたはずの扉が、内側から開いた。


 中は暗かった。だが見えない程ではなく、まるで礼拝堂のようなその空間は、外観とは大きく食い違った、神々しさを持っていた。


 扉を開けたのは、等身大の鎧だった。

 鎧、といっても、武士や騎士を連想するような鎧では無い。

 赤や青、黄色を大胆に使った、まるで戦隊ヒーローの装備のような鎧なのだが、普通ならば驚くべきことに、鎧の中身が無かった。


 だが、聖斗は無関心にそれを通過し、中に入っていく。

 鎧はそれを止めるどころか、突如として、消えた。


 集会場の奥には、複数の人影があった。


「誰だ?」

 人影が言った。

「名乗るつもりは無い」

 嘲笑気味に笑いながら、聖斗は人影に歩み寄る。相手の姿はまだ、はっきりとは見えない。


「てめぇ、どうやって入った」

 違う声が言った。

「教えるつもりは無い」

 抑揚の無い声で返しながら、聖斗はただ、歩み寄る。姿が見えてきた。5人の男。ネクタイの色からして、全員3年生だ。


「ナメてんのか、てめぇ!」

 違う声が喚いた。

「そんなつもりは無い」

 距離は結構近くなった。

 見えたのは、男達の手には金属バットやナイフやカメラ。その足元には――涙を流す、半裸の女子生徒。


「風紀委員なはずねぇよな。何しに来た」

 リーダーらしき男が、向こうから歩み寄ってくる。


「止めに来た」

 聖斗は堂々と、そう言った。

「ああん?」

 5人のうち1人が、リーダーに続く。


「ったく、無勢に多勢で攻めて脅迫……。情けないな」

 ため息をつく聖斗。

「すましてんじゃねぇぞ、てめぇ。やっちまいましょう、リーダー」

 不良達はついに、カメラを持った奴、以外の4人で、聖斗を取り囲んだ。

 リーダーらしき男は、本当にリーダーだったようだ。


(婦女暴行……、あのカメラが脅迫のネタか。なら――)

「すましてなんかいない。だが、大丈夫なのか? 今から俺を口止めのためにぼこるのなら、扉を閉めたほうがいいだろう。大声を出されたら、先輩方も困るだろうしな」

 聖斗の言葉に、3年生達は一瞬の沈黙の後、口々に堪えた笑い声を吹き始めた。


「ご親切にどうも。だが、安心しろ」

 リーダーの、ナイフを持った男が聖斗に歩み寄る。

 そして距離を詰めきった所で、聖斗の太ももにナイフを突き刺した。

「――生意気な後輩を黙らせてから、ゆっくり閉めるからよぉ」

 3年生達は、堪えるのを止めて高らかに笑い出す。


「警戒しないわけないだろバァカ! そんな言葉を聞いて、罠が無いと思う程馬鹿じゃないんだ!」

 ヒャッハッハ、と、甲高くて耳障りなリーダーの笑い声。

 その甲高さ故に、他の3年生の笑い声よりも余計に響く。

 だが、

「なら、警戒心が足りないな」

「!?」

 脚にナイフを刺されて前屈みになった聖斗だが、彼はそのまま倒れず、痛そうな顔ひとつせず、立ち直った。


 怯む3年生達。しかし、リーダーが気付く。

「……異質か」

「それは差別用語だぜ。先輩」

 痛みを感じない聖斗の異変体質。

 リーダー以外は僅かに後ずさるが、リーダーは顔色ひとつ変えずに、

「痛覚の遮断ってやつかぁ? 便利そうな能力だが、痛めつけまくれば、なんの意味もねぇよな?」

 と、脚から引き抜いたナイフに血が着いているのを確認した。

 そいつは得意げに続ける。

「痛みは無くても怪我は怪我。骨が折れたり、筋繊維が切れたり、神経が限界を超えればなぁんの意味もないよなぁ?」

 そう、怪我は怪我。リーダーの言う通りだった。


「なんだ、ビビらせんなよ」

「つまり見かけ倒しって事だろ」

「なら、やる事は簡単じゃねえか」

 リーダーの説明を聞き、さっき後ずさった3年生達も口々に言いながら、聖斗に詰め寄る。


 リーダーはナイフに着いた血を舐め、イカレた口調で言う。

「それに、異質は障害も伴うらしいじゃねぇかぁ、え? 弱点がありますよって、わざわざ教えてくれなくてもぉ、こっちで勝手に探すからぁ、安心して……記憶がトぶ程痛めつけられなぁ!!」

 聖斗の胸倉を掴み、頬にナイフを突き付ける。

 その目は人を傷付ける事に慣れた目だが、今時珍しくも無い。だから、というわけでは無いが、聖斗は顔色ひとつ変えなかった。

 いや、むしろ彼は、僅かに微笑んだ。


「何か、勘違いをしてないか?」


 その台詞と同時に、3年生達の後ろで、何かが倒れる音がした。


「あぁ? てめぇ何が言いてぇ?」

 リーダーはさらに、聖斗に顔を近付ける。

 だが、

「黒岩さん、須藤が!」

 リーダーの変わりに音がしたほうを確認した3年生が声を荒げた。


 聖斗の胸倉を掴んだままリーダーらしき男――いや、あの間抜けな3年生曰く黒岩は、示されるがまま、視線を移した。


 硬い何かが潰れる音がした。

 黒岩が見た光景は、倒れた仲間と、踏み潰されたカメラと、中身の無い派手な鎧。


「な!!」

 唖然とする4人の3年生と、悲鳴を上げる1人の女子生徒。

 聖斗はその隙に、黒岩に掴まれた胸倉を放し、距離をとった。

 途中脚がふらついたが、転ばずに済んだのは幸運だ。


「しかし本当に情けないやつらだな。挟まれただけで動揺し過ぎだ」

 聖斗が言う。

 聖斗と中身の無い鎧に挟まれた3年生達は、左右を交互に見た。

「まさか、どっかに仲間が隠れてやがんな?」

 黒岩が言った。

 聖斗は、

「仲間なら居ない事も無いが、少なくともここには居ない」

 と、正直に答えた。


「ハッ、ナメんじゃねぇよ俺だってなぁ、超能力は障害も含めて1人1対だって事ぐらい知ってるんだよ」

 黒岩が言う。

 そう、超能力と障害は1人1対まで。その制限に関する理論はまだ証明されていないが、統計上確実だ。

 だが、だからなんだ、と聖斗は返す。

「なら、考える事はひとつだろ? 闇討ちジャックさんよ」


 3年生達は黙った。反論を考えているのか、もしくは本当に身に覚えが無いからか。

 証拠は無いが、後者はありえない。この男達が確実に闇討ちジャックだという事を、聖斗は知っていた。


「さて、まずは前哨戦か」

 少しずつ強くなる耳鳴り。

 聖斗は首の骨を鳴らし、携帯電話を取り出す。


 言い訳や反論などさせるつもりは無い。

 脚からの出血をハンカチで拭き取ると、それを、2つのストラップに垂らした。


 そのストラップを携帯から引き抜くと、ヒーロー達を象ったストラップが見る見る大きくなり、あっと言う間に大人1人分の大きさになる。


「な、な、な……」

 動揺して後ずさる黒岩とその部下達。

 聖斗は言った。

「どうせもうすぐ、思い出したくもない程の体験をする事になるだろうから、特別に教えてやる」

 抽象的なストラップが、今や完全に、中身の無い鎧だ。


 全部で3体。

 不良達を取り囲む、聖斗の操り人形。

「俺の能力は人形の操作。特定の造りをした人形に限り、俺は縮小、巨大化、操作が出来る。……その代価が、受信神経の不通なんだよ」


 あうあうとうろたえる3年生達を見て、聖斗はようやく演技を止めた。

「……そういうわけで……」

 敵の心理を揺さぶるための笑顔は消え、怒り狂った般若のような顔になる。

「覚悟してもらうぞ」

 各ルートの最初、いわゆる香椎学園ルートのprologueなので、メインの3人をフルに使う、とか、活躍させる、というより、各キャラの心に触れて貰うための物語にしてみました。


 そのため、ちょくちょくメイン視点を変えたわけですが……。

 はい、阿保な傑流はともかく、美合はなかなか難しいです。

 理性が効かないって、どこまでやってええんや? てかやらなきゃいけないんや? と、悶絶しながら書いてみましたが、実は、問題はこいつではありません。


 ここまで読んで下さっている方は、もしかしたら解ってくれてるかもですが、最大の問題児は聖斗です。はい。

 こいつはどこまで見越してるんだ? というキャラで、腹黒さと爽やかさを両立させたキャラにしないといけないわけですが……。難しいですね。はい。


 一応追説ですが、聖斗は心を揺らすのが得意、とか、哲学が得意、という描写があります。

 しかし同時に、哲学を習っているわけでは無い、という、矛盾にも思える描写が入るわけですが……。これはいわゆる、習ってないけど得意、っていう事です。


 ややこしいですが、そのうち詳しい描写が入ります。



 さて、次回は『香椎学園ルート(1・3)〜人造亜人』を予定しています。

 香椎学園ルート1の完結編です。

 是非是非、お楽しみ下さい。

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