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【バレンタイン特別編】チョコレエトと算盤~新妻の百貨店経営奮闘記~  作者: けもこ


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4/7

第4話:フェアーなるものをやってみませう

このお話は、今後発表予定の『結婚と算盤~新妻の百貨店経営奮闘記~』の中の一部です。

シーズンなので、ちょっとだけ公開することにしました。

いずれ公開する本編(たぶん4月か5月)を思いながら読んでいただけると幸いです。全7話

二月十四日。


朝から幾志屋百貨店は、甘い匂いに満ちていた。入口の回転扉のあたりまで、カカオの香りが流れてくる。

人が流れ込むたびに、その香りが通りへと流れ出て、さらに人を誘う。


売り場には赤い布を張り、舶来菓子の箱を山にし、真ん中に「バレンタイン・フェアー」と片仮名の札が立っている。


洋帽を深めに被り、梅と一緒に客のふりで売り場に紛れた。

梅は落ち着きなく周囲を見回し、完全に“怪しい女”になっている。


「梅、堂々としんしゃい。客は、店の中では誰より強い立場なんやけん。いっつもそう言うとるやん」

「そうは言うても、慣れんもんは仕方なかですし……」


梅は、レースのついた帽子の縁を下げるようにして触って、そうモゴモゴと呟く。


売り場には、若い女学生、モダンな洋装のご婦人、着物の奥さまたち。

連れられてきた男性の姿も、いつもより多い。ネクタイを緩めながら落ち着かなさそうに婦人たちとともに菓子箱を見ている。


――よし

私の胸の奥で、勝利の鐘の音がした。


「奥さま――」


津角井さんが、普段の涼しい顔で足早にやってきて、耳元で囁いた。


「二社。新聞社の記者が、奥さまの写真を、売り場に立って撮りたいと言ってきております。お話も伺いたいそうで」


前回の文芸展の時は、東日のあの生意気な記者に「女を売り物にするのは、いいやり方ですね」と言われ、自分が前に出ることを日和ひよってしまった。

でも、だいたいが商売の為に実家から売られてきたのだ。何を構うことがあるか、と後でひどく後悔したのだ。


「いいよ。撮らせて。できれば、お客様に商品を手渡しするとこがいいね」

「しかし、奥さま、お顔が――」

「百貨店の女社長が考えた企画なんて、話題になるでしょ? 顔が売れたら、もっと商いが回るわよ」


津角井さんは、目を丸くして、観念したように息を吐いた。


「承知いたしました」


記者たちは、若い女社長が考えた『恋人たちのための企画』に驚きながらも、「これは話題になる」と目が光っている。


「奥さま、バレンタイン・デーをなぜこういう形で?」


売り場の傍に立って、興味津々のお客に笑顔を見せながら、質問に答える。


「日本女性の奥ゆかしさと西洋の習慣が混ざったら、きっと新しい恋の仕方が生まれるに違いないと思いましたの。きっとお客さまに喜んでいただけるはずと」


「なるほど、新しい恋ですかー」そう言って軽い調子で記者が笑う。


「バレンタインデーは『恋人同士の気持ちの贈り合い』と宣伝にありますが、奥さまにとって恋は商いですか」

「恋も商いも、相手の心を読むところから始まります。相手をよく知りたいと思う気持ちは、どちらも一緒かもしれませんね」


そう笑って返すと、横から、例の東日の記者が声をかける。


「奥さま、お久しぶりです。東日の佐竹です。恋する気持ちを『モノ』で押し付けるというのは、日本女性の奥ゆかしさに合っているのでしょうか?」


彼のその言葉に、うっすらと場の空気が緊張する。

――ほんと、こん人は、なんか私に恨みでもあるとやろかね


周囲の冷えた空気には気づかないような素振りで、ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべた。


「このフェアーの本筋は『気持ちの贈り合い』なんですよ。日本女性は気持ちをわかって欲しくて、相手の言葉を待ってしまうでしょう?」


周囲で話を聞いている女学生が、2人で手を取り合って頷いている。


「恥ずかしくて口に出せない気持ちを……特に“甘い気持ち”をモノで渡せたら、恋は苦しい物では無くて、幸せな物になりませんか? 殿方も、気持ちを受け取れないと思われたら“贈り合い”なんですから、お返しは無しにしたらいいだけです」


記者から視線を外して、周囲の客を笑みをたたえた表情で見まわしながら、さらに続ける。


「花の命は短いですから。美しく咲くために女性には、たくさんの甘い気持ちが大事ですわ。 それに、もし、殿方から素敵なお返しがあったら、一生の“2人だけの”思い出になりますしね」


その言葉に、どこかから拍手が沸いて、それは次第に広がり大きなものになった。


◇◇◇


昼過ぎには用意したチョコレエトはすべて売り切れて、つられてそれ以外の洋菓子も飛ぶように売れていった。


「奈江さまは、ほんと、商売上手と思います。凄かですね。でも、なんか、奈江さまが恋とか語っとるの聞いた時は、嘘っぽくて笑ってしまいそうでした」


フェアーの賑わいをフロアの端で見ながら、梅がそう話しかける。

ほんと、この子はいつも一言多い、とそう思う。

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