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【バレンタイン特別編】チョコレエトと算盤~新妻の百貨店経営奮闘記~  作者: けもこ


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第1話:バレンタインとはなんでせう

このお話は、今後発表予定の『結婚と算盤~新妻の百貨店経営奮闘記~』の中の一部です。

シーズンなので、ちょっと先走って公開することにしました。

いずれ公開する本編(たぶん4月か5月)を思いながら読んでいただけると幸いです。

二月の東京は、寒さのわりに雪が少ない。


ちなみに、東京より西にある為、暖かいだろうとよく言われるが、博多の冬は案外よく雪が降って、この時期には、まだ、路面電車が雪を掻いて走っている。


岸田家に嫁入りしてはや半年。


夫の朔之介さんに任された(贈られた?)幾志屋百貨店は、最初の出だしこそ、まぁアレな感じだったが、最近は役員の中にもいくらか話のできる人が増えて、やりやすくなりつつある。


支配人の津角井(つづのい)さんが味方になってくれたのは、実に大きい。


――津角井さんが朔之介さん信望者でホント良かった。


最初の文芸展の開催の時には、随分と衝突もしたが、結局、朔之介さんの「奈江のしたいようにしたらいい」の一言に、津角井さんはあっという間に矛を下した。


さて、今日は、お義母さまにお茶のお稽古をつけていただく予定だったのだが、急に鎌倉のご親戚がこちらにおいでになって、その方と浅草詣でに行ってしまわれたので、何もすることが無くなった……はずだった。


――はず、だったのに。


久しぶりに、家人のいない家でダラダラしてやろうと、朝から寝巻のままでベッドでゴロゴロとしていると、「奈江さま。こちら、奥さま宛てでございます」女中頭のトメさんが、銀縁の盆に載せて茶封筒を差し出した。


中にあったのは、薄い洋雑誌だった。表紙には、赤いリボンを結んだ菓子箱と、頬を寄せ合う西洋の男女。描かれている絵だけで、甘ったるい空気が伝わってくる。


「これ……誰が?」


「奥さまの百貨店の、舶来品係からでございます。『奥さまがご興味あるかもしれぬ』と」


つまり幾志屋百貨店の舶来品係が、わざわざ持って来てくれたということだ。


クッションを二つ背もたれにして、ベッドの中で足を伸ばして座り、雑誌をめくる。


見開きに、細い字で「St. Valentine’s Day」とある。いくつかある写真には、男が女へ花束を渡し、女が男へ小箱を渡している。

その小箱の横に、――chocolate――という英語が見えた。


「セント…バレンタインズ、デイ…… 聖なるバレンタインの日?」


梅が、朝食の後片付けをする手を止めてこちらを覗き込む。


「奈江さま、それ、何ですか?」

「西洋のお祭りらしい。恋人同士が、チョコレエトや花を贈り合う日……やて」

「へえ。西洋の人は、ようけ甘いもん食べますもんね」


梅は、そんな実も蓋もない感想を言う。

だが私は、その写真の“chocolate”の『小箱』に目が釘付けになった。


恋人同士が甘い気持ちを贈り合う日。

西洋の人は、自分の恋人を“sweet heart”と呼んだり、“honey”と言ったりする。

好き合う気持ちを、甘い物、と考えるのが西洋風なのだろう。


恋人同士……

――それには、夫婦も含まれるとやろうか


ふと、朔之介さんの端正な顔が浮かんだ。


祝言の席にもおらず、夜も帰らず、夫というより、どこか上の方で采配を振るう殿上人みたいに実感が無い人。

結婚して二週間経って、初めて会った時は随分と驚いたし、腹も立ったけど、何ていうか掴めないけど憎めないという、そんな感じが近い?


好きか嫌いかとか、そういう次元はまだやって来ないが、少なくとも商売の大先輩で尊敬すべき点はたくさんある。


――それに、何といっても、とんでもないよか男やし


彼の切れ長な美しい眼差しが脳裏に浮かんだ。

どちらかというと、夫婦というよりは、主人と飼い犬的な?まぁ、私が犬の方なんやけど。


だからこそ。贈り物という形なら、こちらから「夫婦」を確かめに行けるのではないか。

そう思った瞬間、胸の奥で別の火が点いた。


――あ、これ、商いになる

そして、恋だの愛だのの前にそう思う自分は、根っからの商家の娘であることを思い知る。


贈り物は、財布の紐をほどく口実になる。まして甘い菓子。女が好んで、男に贈る。互いに贈り合うなら倍売れる。

私は雑誌を閉じ、梅を見た。


「梅。明日、百貨店行くばい」

「……またですか」


梅の声が、ちょっとだけ遠い。連日あちこちの店に偵察として付き合わされて食傷気味なのだ。


「客としてじゃなか。社長として行くけん。明日、津角井さんに会いたいて、誰かを言伝にやって」


ひらめきはすぐ確信に変わる。確信に変わる思いは、なんかわからないが筋が通っている時なのだ。


――朔之介さんから貰った大事な店なんやけん、あの人が誇れる店にしたい


考えの中心に朔之介さんがいることは、「まあ、あん人は飼い主やけん」と思って、見て見ぬふりをすることにした。

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