悪役令嬢に転生してしまいました ~処世術で追放エンド回避する~
公爵邸の応接室。
午後の陽光がカーテンを透かし、部屋を淡い金色に染めていた。
クロエ・ヴァン・ルクセンベルクはソファに優雅に腰掛け、扇子を軽く振っていた。
向かいに座る第二王子レオンを見ると、彼女の表情は一瞬で柔らかくなる。
「レオン様、今日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございますわ」
クロエは微笑み、紅茶のカップをそっと持ち上げた。
レオンはいつものように、静かに頷いただけだった。
「……ああ。問題ない」
その短い返事に、クロエの頰がほんのり赤らむ。
彼女は本当にレオンが好きだった。
第二王子であろうと、地位や派閥を超えて、心から惹かれている相手だった。
「……レオン様にそう言っていただけると、とても嬉しいですわ」
レオンは内心で何も感じていなかった。
(いつもの甘い言葉か。面倒だが、公爵家の後ろ盾はまだ必要だ)
応接室のドアがノックされ、使用人が入ってきた。
「失礼いたします。お嬢様、今日の学園関連の書類をお持ちしました」
使用人が差し出したのは、学園入学前の事務手続きの書類。
中には、平民出身の生徒名簿も含まれていた。
クロエは書類を一瞥し、眉をひそめた。
「……平民がこんなに増えているのですか? ヴァン・ルクセンベルク公爵家が学園に多額の寄付をしているというのに、こんな下賤な者たちを入れるなんて……」
使用人は慌てて頭を下げた。
「は、はい……王立アカデミーの方針でございまして……」
クロエは扇子をパチンと閉じ、冷たく言い放った。
「方針? ふん、そんなものなど、私の父上が一言言えば変わるはずですわ。
入学前に、目障りな平民は適当に遠ざけるよう、手配しておきなさい」
使用人は震えながら、
「かしこまりました……」
と退出した。
レオンは紅茶を一口飲んだだけで、何も言わなかった。
表情一つ変えず、ただ静かに見ている。
クロエはすぐに表情を和らげ、レオンに向き直った。
「レオン様には関係ありませんわ。私はただ、公爵家の名に恥じないよう、学園の秩序を守りたいだけですの」
レオンは小さく頷くだけだった。
「……そうか」
内心では、別の計算が働いていた。
(公爵家の影響力は、学園内でもまだ使える。この婚約は、少なくとも第一王子派閥への牽制になる。
それだけだ)
クロエはレオンの手を取ろうとしたが、レオンは自然にカップを持ち替えてかわした。
「レオン様……」
レオンは淡々と、
「学園が始まる前に、書類の確認は済ませておいた方がいい。俺もそろそろ失礼する」
そう言って立ち上がった。
クロエは少し寂しげに、
「……もうお帰りになるのですか?」
「そうだ。また学園で会おう」
レオンは一礼して部屋を出て行った。
表情に感情の揺らぎは一切なかった。
クロエは一人残され、扇子を握りしめた。
「……レオン様は、いつも落ち着いていらっしゃるわね....そんな姿も素敵だわ......」
――その日の帰り道
馬車が揺れる中、彼女は窓の外を見ながら呟いた。
「レオン様は……きっと、私のことを大切に思ってくださっているはず……」
そんな甘い思いに浸っていた刹那、馬車の揺れが激しくなる。
「一体なんなんですの!?この揺れは!馬車もまともに走らせることができないの!?」
「も、申し訳ありませんお嬢様!昨日の雨で道がぬかるんでいるようでして」
「そういった道でも快適に馬車を走らせることがあなたの仕事でしょう!!」
クロエは思うままに使用人を叱る。
「も、申し訳ありません」
全くこの使用人も使えない。屋敷についたら即刻首ね―
さっきの甘い気持ちを思い出そうと切り替えていたその瞬間、馬車が跳ねた。
””ガタン!!””
その勢いでクロエ・ヴァン・ルクセンベルクは土下座をするように前の座席に頭をぶつけた。
「いたっ……!」
視界がチカチカする中、突如、頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。
――これは……私?・・ん?私は今日いつも通りに会社に行って帰ってきて・・ご飯食べたてたら急に眠たくなって・・・あれ・・?
意識が混濁する中、馬車は公爵邸に到着し、クロエはふらふらしながら部屋に戻された。ベッドに横になると、すぐに看護のためのメイドが呼ばれた。




