『初依頼と、“軽いはずだった”討伐クエスト』
朝の薄光が宿屋の窓から差し込み、段野 真はゆっくりと体を起こした。
「……ギルドの空気、まだ慣れないな」
思い返せば昨日だけで精神がすり減った。
受付嬢の決めポーズ、依頼者たちの語尾、リュミナスのテンション。
すべてが“当たり前”として成立しているこの世界。
(酒場ノクターン亭だけは、普通だったけど……)
束の間の癒しがあった分、今日が余計に億劫に感じる。
■ギルドにて──
「おはようなのだ、真よ!」
入口をくぐると、いつも通りリュミナスが“存在感100%”で待ち構えていた。
「おはようございます……って、もうちょっと普通に挨拶できないんですか?」
「む? これでも抑え気味なのだが?」
まったく抑えられていない。
彼が“本気”を出したらどうなるのか想像したくない。
「さて、初依頼だが……今日はこれを推すのだ!」
リュミナスが差し出した依頼書には、こう書かれていた。
《草原のスライム討伐・三体》 報酬:1000ルーラ
※初心者向け。危険度は低い。
「おお、普通っぽい! こういうのでいいんだよ……」
「左様である! 序盤の定番、だが侮ることなかれ!」
(いや定番とか言わなくていいから……)
真は半ば諦めるように、依頼を受理した。
■草原──“軽いはずだった”
青空の下、爽やかな風が吹く草原。
スライムの一体ぐらい楽勝だろう──そう思ったのだが。
「真よ、前方にスライムを補足したのだ!」
リュミナスが指を差す先には……
薄青いゼリー状の球体がぷるぷると震えている。
「よし、蹴れば消えるよな」
真は恐る恐る近付き、足を振り上げる。
その瞬間。
「……!?」
スライムが跳ねた。
真の足を避けるように、信じられない角度で。
「え、ちょっ──」
次の瞬間、スライムは分裂した。
二つ、三つ……四つ。
「増えたぁ!?」
「おお、これは“跳躍型分裂スライム”であるな!」
「初耳なんですけど!?」
リュミナスが呑気に解説する間にも、スライムは跳ね回り、狙いを定めて真の足元に飛びついてくる。
「冷たい冷たい冷たい! 靴に入るな! 気持ち悪い!」
(ラノベ的な“序盤モンスターが強い”展開じゃん……嫌いなやつだよこれ!)
ようやく一体を殴り飛ばし、何とか三体を討伐した頃には、真はもうぐったりだった。
■依頼完了──しかし
ギルドに戻ると、受付嬢が元気に迎えてくれる。
「おかえりですわっ! 初心者さんなのに、すごいじゃありませんかっ!
スライム三体も きっちり 倒せるなんてっ!」
(だからそのポーズやめろって……)
報酬を受け取り、深いため息をついた瞬間。
背後から声がかかった。
「おい、そこの新人か? 良い腕してるじゃねえか」
振り返ると、筋肉質な男が腕を組んで立っていた。
年齢は三十代後半。ギルドの“ガチ勢”らしい雰囲気。
「ちょっとした護衛依頼があってな……短期でいい、引き受ける気はねえか?」
真は思わず目をそらした。
今日はもうこれ以上ラノベテンションに巻き込まれたくない。
しかし、隣でリュミナスが目を輝かせている。
「むむっ! これは“物語が動き出す”やつなのだ!」
「動き出させなくていいっての……!」
だが、男は真にだけ目を向けて言った。
「お前……この世界に慣れてねえだろ。
危険な依頼じゃない。俺がフォローしてやる」
思わず息を呑んだ。
この人だけ、やけに“普通”の話し方だ。
(……これ、受けたほうがいいのか?)
真が迷うところで──




