16章95話 久々の宴会
全員で外に移動する。もうかなり暗くなってきていて、空には月と星が輝いていた。既に設置されていたランタンで皆の足元を照らしたら、働くなとログマに咎められた。
皆が設営してくれた野外調理セットと、料理が並べられたテーブルの周りに着席。各自好みの酒を注いだコップを差し上げる。
音頭をとってくれたのはカルミアさん。
「では、メリプ市原状復帰と全員生還を祝しまして! ――かんぱーい!」
「乾杯ー!」
スパークルとの合同打ち上げを除けば、社外での宴会は俺の入社歓迎会以来だ。自然と、当時と今を比べてしまう。
――大事な仲間が出来てしまったものだな。
彼らと飲む酒が美味しいことも、自然に笑えることも、弱さを隠さなくていいことも、明日からも共に過ごせることも、しみじみと嬉しくて苦笑いを浮かべた。
俺がこの幸せを素直に喜べないのは、恐れているからだ。もう二度と、大事な存在に傷つけられたくないのだ。大事な居場所も、失いたくない人も無かったなら――彼らから離れてしまったならば、不安と苦痛を回避出来る。
……だがそれでも、ゼフキに引っ越した時の虚無感と孤独感を考えれば、今の方が絶対に幸せだ。
現状の理解は比較的スムーズに進められる。だが同時に、今後どうしたらいいかは分からない。だから俺は、不安に怯え、痛みに備えながら、幸せに苦笑するという中途半端な状態に漂っている。
自分の生きづらさに強い憂鬱が湧き上がり、コップを持つ手が強ばる。誤魔化すようにコップを勢いよく空けて、すぐに注ぎ足した。
四人が用意してくれた料理は美味しかった。たまに芯のある大きめの野菜や小さな卵の殻などが入っているのは微笑ましく見逃した。
調理用の鉄板で肉と野菜を焼いてくれたのはログマだった。カルミアさん曰く、彼は肉や魚の汁を触りたくないだけで、料理自体は普通に出来るんだそうだ。彼はほぼ常に黒手袋をしているから潔癖なのかと一瞬思ったが、皆の手料理に抵抗はなさそうだし、戦闘による生々しい傷や血に触れる事も嫌がらない。何か彼の中のルールがあるんだろう。
旅行の疲れからか、皆少し酒の回りが早い気がした。酔ったケインがウィルルと抱き合い仲良くはしゃいでいるのはなんとなく目に優しかった。
酒が入ってから話す、と言っていた彼と目線を合わせると、白々しく逸らされた。
「ちょっとカルミアさん。そろそろいいんじゃないの?」
「うー、そうね……。そうなんだけどね……。流れとか雰囲気とかあるだろう?」
「どうしたんだよ、うじうじして。らしくないなぁ」
言いながらも、盗賊団の仕事の前に息子の話をしてくれた彼の雰囲気はこんな感じだったかもな、と思い出していた。
カルミアさんは、酔いを感じない困り顔で俺に助けを求めた。
「じゃあルークが良い流れを作って! ――そうだ、今日、働かないでみて、何か思ったことあったら聞かせてよ」
「えっ」
眉を顰める。自分語りをするのは嫌いだ。
不満だったが、テーブルを囲む皆の目線がこちらに向いてしまったので、話すことにした。
「そうだなぁ。とりあえず、今まで俺がどれだけ自分を蔑ろにしていたか、ようやく分かったよ」
俺はコテージを出て走り回ったことや、自分の素直な気持ちを確認できたこと、少しずつ生きやすい方向へ変わっていこうと思えたことを話した。
「カルミアさんの言葉が良いヒントになったよ。ありがとう」
「どういたしまして。でも俺そんなこと言ったっけ?」
「えぇ……」
そして、美味しい料理の数々を見ながら、こうつけ加えた。
「……あと、働かなくて済むって、とても楽だね」
ログマが吹き出し、ウィルルがきょとんとしている。それらは俺がズレたことを言った時の反応だったから不安になったが、その思考は瞳を輝かせたケインの声に遮られた。
「ルークすごいよ!」
「えっ?」
「今までのルークなら『申し訳ない』『仲間外れ』『タダ飯喰らい』とか言って自滅して沈んでたと思うよ!」
相変わらずケインの言葉は色んな意味で鋭い。少しの胸の痛みを感じながらも、彼女の意図だけに集中して返答した。
「確かにね。でも今回はそういう言葉は浮かばなかった。自分に集中する良い機会を貰えたんだと思う。皆、ありがとうね。料理、どれも凄く美味しいよ」
特に頑張ったのであろうウィルルが嬉しそうに身体を弾ませ、他の皆も微笑みで応えてくれた。
……これを皆から聞けば、カルミアさんが話しやすい流れを作れる気がする。さっき手帳と向き合っていて浮かんだことだ。切り出してみるか……。
「それでね、色々整理出来たけど、分からないことも沢山あるんだ。一つ、この機会に皆に聞いてもいいか?」
皆の頷きを確認し、問う。
「――皆には目標って、ある?」




