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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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15章90話 ケインの家族



 なかなか深いところへ立ち入れなかったケインの話を聞ける事は、素直に嬉しかった。



 えっと、と彼女は考えながら話し出した。


「恨んでるって言っても、何かあったとかじゃなくて、そもそも家族が嫌いなんだぁ。――私の家はかなり裕福で、お金や生活には苦労しなかったんだけど、父さんがヤバい人だったの」


「ヤバい?」


「うん。暴力暴言は毎日。それに、酒乱。カルさんみたいな明るく楽しい感じじゃない、怒り狂って暴れるやつね。あとは、金銭的、時間的な束縛。でも、外面そとづらはよかった。最悪だよ」


 やっぱり、風竜の襲撃の時に零していた父親への恐怖が、ケインに大きな傷を残しているんだ。


 ケインは気まずそうに笑った。


「この間は恥ずかしいところ見せちゃったね。石が沢山飛んできて、父さんに物を投げられた事を思い出しちゃって、わーってなっちゃった」


「……恥ずかしいなんて、言わなくていい」


 あの時の様子を見れば、そんな軽い話じゃない事くらい想像がつく。何でこんなに、淡々と話すんだろう。



 ケインの声の調子は変わらないが、足元や手元は落ち着かないと言った風に動かされていた。


「中途半端に良い家柄だから、父さんなりにプライドがあるみたいでさ。学業、武技、教養とかは熱心過ぎるくらい叩き込まれたよ。私は四人兄妹の末っ子なんだけど、兄さん姉さんに比べて私が無能だから、随分酷く怒られたなー」


「は? ケインが無能? ありえねえよ!」


「ふふ。ありがとね。……でもやっぱり、兄さん姉さんには敵わないんだぁ」


 顔を顰めた。親に家庭内で格差をつけられたら、自信もなくなるよな。



 あっ、とケインが思いついたように言った。


「もう一個、父さんに不満があるの! 私の名前、男っぽいって思わなかった?」


「ああ……まあ、同じ名前の男性を知ってる」


「でしょう。私が生まれた時、父さんがもう女の子はいらないって暴れたから、母さんがせめて名前だけでも変えて機嫌を取ろうとしたの。それで『ケイト』の予定を『ケイン』に変更したんだって。ほんといい迷惑」


 名前と性別まで……。


「……そうなんだ。でも、凛々しくてカッコいい名前は合ってると思うな」


「えー、複雑ぅ」


「え? ご、ごめん!」


「あはは! 冗談! 褒めてくれてるって分かるよ、ありがとね」



 そしてケインは、むっとして続けた。


「しかもさぁ、聞いてよ。お金や生活には苦労しなかったって言ったでしょ。それが逆に私の首を絞めたの」


「どういう事?」


「周りから羨まれて、愚痴を言うと甘えだ、自慢だって言われた。誰にも何も分かって貰えないなーって、家族以外も私の味方じゃないんだーって、苦しくなっちゃった」


 聞いている俺も辛くなり、胸を押さえた。甘えという言葉には俺も追い詰められた。彼女にかけられる言葉がない。



「まぁ、周りはどうでもいいけどさ。やっぱ一番の元凶は家族だからねー」


 ケインは三本の指を順に折った。


「父さんは言うまでもなくクズ。母さんは優しく慰めてはくれるけど、父さんの言葉と暴力は絶対に止めない。上の兄さんは不出来な私が虐げられる姿が心の支えになってる」


少し上を見て考えながら、また指を折る。


「下の兄さんは事なかれ主義で私の事には触れたくない。姉さんはプライドが高いから、馬鹿な妹が邪魔」


 全ての指を折り込んだ華奢な拳を握りしめ、ケインは自嘲気味に笑った。


「私の病気なんて許されるわけないよね。矯正とか言って暴力は酷くなるし、薬は捨てられるし、人格否定は凄いし! 病人が一発で泣き出すような仕打ちばっかり。どんどん悪化しちゃったよ」


 彼女の中指が夜空に向かって立ち上がる。


「最後には酒の勢いで玄関からぶん投げられて、二度と帰って来るな出来損ないって言われたから、誰が帰るかって返した。それっきり。バタバタして大変だったけど、家を出られて良かったとは思ってる。……今の住所を把握されてるのだけは、何の執着なんだかよく分からないけど」



 突然、淡々としていたケインの声が湿った。


「……私の情けない本音、少しだけ、聞いてくれる?」


「聞きたいよ。話してくれ」


「ありがとう……」



 壁にかけたケインの指に力が入った。



「……本当はね、もう心底嫌になってるの。産まれてきたくなかったって」





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