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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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14章80話 ルークの過去 -暴行-

14章 負った傷



 視界が真っ暗だ。何の音も光もない。眠るには最高だ。身体にはボロボロで血に濡れた装備が張り付いているのを感じる。だがもう痛くなかった。



 嫌いな声が、また頭に響く。


『俺にしては良い終わり方だったな』


癪に障る言い方をしやがって。


『なのに、残念だ。生きてるよ。仲間に助けてもらったもんね』


え……嘘だろ。やり遂げたよ? 綺麗に終われたと思ったのに。


『結局は逃げ切れなかった。まだまだ、もっと、キツい思いをする事になるね』


勘弁してくれよ、本当にもう嫌なんだ。充分頑張ってきたじゃないか。


『ほら、折角だしさ。過去でも振り返って、これからのしんどさに備えような。走馬灯みたいなもんだよ』


過去だって? やめろ、やめてくれ、そんなもの――。




 無情にも視野が明るくなった。


 石の床の冷たさと、全身の鈍い痛み、男達の嗤う声を感じ取る。床に伏せたまま頭を擡げて睨んだら、頭を踏みつけられた。


「なんだその目。まだ殴られ足りねえか」


「……サボってねえで仕事しろよ……」


「そんなこと言っちゃっていいんだっけ?」


 脇腹を思い切り蹴られて、息が詰まる。仰向けになって視界が開けたら、ここがどこか分かった。兵団の備品倉庫だ。何かの用事でここに来たら、押し入られた。丸腰だった事は、本当に失敗だった。


 俺を囲む四人の顔がよく見えた。下品に俺を見下して嗤っている。無性に腹が立つ。



 同期入社が三人と、一年上の先輩が一人。元々、気が合わないグループだった。


 俺が最近兵長に進級した時は、散々悪口を言ってくれていたらしい。嫌われる事もあるよなと気にしないようにしていた。危害を加えてくるわけではなかったし。


 ――こうなってしまえば、憎くて仕方ないが。



 右腕を踏まれて、力なく呻く。腕はやめろってんだよ、商売道具だぞ。


「反応悪っ。ウケんだけど」


反応できてた時もウケるって言ってただろうが。



 部屋の奥から汚い声がした。

「もういいや。飽きた」


「え、本当ですか? まだこいつ生意気っすよ」


「少しずつ長く続けるからいいんだよ。弱っていくところを楽しむんだ」


「うっはは、エグぅ。賛成! 流石です」


 歯が軋む。弱ってたまるかよ。


「腰巾着共が……無能でもなれる一等兵から上がれねえくせに、調子に乗りやがって……」


 胸ぐらを掴まれて上半身が浮き、頬に短剣を添えられる。


「口を裂かれたいか? 綺麗な顔を台無しにしてやる」


「おい、一応顔はやめとけ」


「どうせ精霊術で治るだろ?」


「ハハ、こいつ、回復術はしょぼいんだよ。目立つ傷はよそうぜ。大事になると面倒だ」


「……あぁそう」


 胸ぐらを乱暴に手放され、床に手をつく。



 奥の方にいたらしい汚い声の持ち主が、頭の近くに来た。


「僕に逆らったこと、もう謝れる?」



 こいつは、ロハ市の土地を沢山持っている地方貴族の一人息子、ウッズだ。完全にコネ入社な上、たるんだ身体でお飾りの上等兵に進級しやがった。だが、誰も文句は言わなかった。


 噛み付いたのは、俺だけだ。部下が嫌がらせに遭ったり、身勝手な行動のせいで殉職者が出たりして、許せなかった。


 俺は兵長として皆を守りたかった。だから後悔はない。



「悪い事をしてねえのに、謝るかよ……」


「謝れって言ってるの!」


 デブのくそ重い蹴りが腹に沈む。蹴り上げらた身体は横に吹っ飛んで、壁に酷く打ち付けられた。咄嗟に腹筋に力を入れていたが、流石にキツかった。


「ごっ――がっはげほ! おえっ……ぐうう……!」


 加減の分からねえ奴。躾られてない、力がある子供だ。タチが悪い。



「今日はここまでだけど、覚悟してね。もう許さないよ」


 丸まってえずく俺を置いて、五人は去った。



 心も身体も痛い。良いようにやられた。無力感が何より辛かった。


 掌を自分に向け、しょぼいと言われた初歩の回復術で癒す。七割くらいは治せただろうか、しかし酷くやられた腹周りだけはアザが残りそうだ。この、絶妙にダメージが残る力加減をされていた事がムカつく。



 ……仕事に戻らなくては。用事はなんだっただろう?


 よろよろと立ち上がった所で、また真っ暗になった。




 俺の声がする。


『馬鹿をやったよな。損したと思わない?』


別に……。


『仲がいい人達にも見て見ぬふりされて、微妙に距離を置かれたな。俺は皆のために動いたけど、皆は俺のために動いてくれなかった』


まあな。でも皆に殴られて欲しいわけじゃなかったし。


『これは暴行事件だってロハ支部の防衛団員に訴えたこともあったよな。ただのいじめだ、職場で対処しろってあしらわれたけど』


……あれはまあ、今思えば、利権に執心する防衛戦士団を頼った俺が間違いだった。


『裁判にでも持ち込めばよかったんだけどね。証拠はいくつかあったんだし。でも大金もないし知識もなかった』


そうだよ。当時の俺には一人で抵抗することしか出来なかった。


『はは、全部無駄骨だったよな。結局、部下への嫌がらせも、無駄な怪我人も無くならなかったじゃん』


結果論だろ……。俺があいつを咎め続ける事を救いに思っていた部下は沢山いた。負けられなかったんだ。


『ま、そういう事にしておこう。……次のは、結構キツいよ』


次? 待って、やめて、もういいから!



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