13章72話 開戦!!
彼は大剣を振りかざしながら複合型へと駆ける。
ヤツは無数の目をカッと開眼し、しなる触手や棍棒を巻きこんだ肉の塊を伸ばした。
しかしそれらは次々と弾け、黒い霧となって風に熔けていく。影に隠れたログマが紫に光る水鉄砲を向け、水と炎の複合術による弾を放っている。それが着弾した触手は体液を沸騰させられ、爆ぜたのだった。
雄叫びをあげるトラクさんが重い一撃を食らわす。
「おぉりゃあ!」
複合型の複数の口から、ぎゃられらという奇声が響いた。
ヒュッ、ヒュンッという音が何度も空を切る。
ケインの矢が、大量の目玉を次々と射る。その度に、ヤツは苦しみ身じろぎする。トラクさんはその隙を突いて、果敢に足元を攻め続けていった。
その背後、少し離れた広場では、風竜がトラクさんへ狙いを定めていた。大きく開けた口の先に、大きな風属性の刃の塊が形成されていく。
「せあぁっ!」
その増大が途切れ、消えた。竜は哮り立つ。
カルミアさんが、黄金に光る槍先で竜の右足を貫いたからだ。
「ふふん、効くでしょ! 覚えたてだけどね!」
――俺が教えた、地霊槍士の初歩技。通常の物理攻撃に精霊力を乗せ、属性付与と火力上昇を行ったのみだ。しかしカルミアさんの熟練の腕、知識、属性相性により、威力は跳ね上がっているようだった。
風竜が足元のカルミアさんを潰そうと右腕を振り上げたが、狙いがブレて地面を打った。
「あらあら。そんな雑な攻撃でいいのかしら?」
ヤーナさんが白銀の光を纏う杖を竜へ向けていた。盲目の光術。風竜の視界を光に包んでいた。
未だ視界が悪い筈の風竜が、首元から下を膨らませていく。カルミアさんが叫んだ。
「範囲攻撃が来る、喉を!」
「私がやりますっ!」
テレゼさんがルビーの腕輪の右手を向け、掴むようにぐっと指を曲げる。風竜の首元から煙が立ち上った。空気を中途半端に吐き出した竜に、大きな隙が生まれる。
ゴウッと凄まじい音がした。
風竜の背後の観覧席上部、折れた柱を登った高所から飛んだのはナウトさん。とんでもない飛距離の跳躍は、風術を自分の身体にかける大技だ。
「やあああぁ!」
竜のうなじから地面へと、体重と重力の目一杯乗った斧が一直線に走る。硬いはずの鱗が砕け散って、黒い体液が吹き出た。竜は、地を震わすような怒りの咆哮を上げる。
理想的な初動。拳をぐっと握った。
「皆、最高だ……!」
俺達リーダーは戦局を見て動く予定だ。レヴォリオへ顔を向ける。
「試合の時、お前の一撃は重かった。そして俺の強みは速さだ。硬い竜を、お前に任せていいか? 俺は手数の多い複合型へ行く」
「俺も同意見だ。さっさと片付けてこっち来いよな」
「任せろよ」
向けられた彼の拳へ、自らの拳をゴツンと合わせる。そして俺は複合型へ、レヴォリオは風竜へと駆け出した。
レヴォリオが叫ぶのが背後に聞こえた。
「合流までの時間を稼ぐ! 俺とカルミアが前線でお前らを守る、都度指示は出す! あとは、好きにやれ! お前らならできる!」
好敵手の頼もしい声に、背を押してもらえたような気がした。全速力で駆けて、俺を狙う触手と棍棒を置き去りにする。あっという間に眼前に迫った肉塊へ、思い切り飛びかかった。
「ふっ! ――おらぁ!」
側面の太い触手の根元を深く突き刺し、ぐりっと捻った。
吹き出す黒い霧と悲鳴を浴びながら着地して、腹の底から叫んだ。
「トラクさん、ケイン! こっちはこの三人だ。時間はかけられない!」
そう、可能な限り早く倒して合流しなければ。
「トラクさん、足元で攻撃を続けて下さい! 俺は核を探ります!」
「了解! 下の方の核はさっき潰したから、身体を登って上の方を探ってくれ!」
「仕事が早いですね! 承知しました!」
ケインを肩越しに見る。
「ケインも弓と風で攻撃に手を貸してくれ、回復は余裕がある時でいい!」
「分かった、任せてよ!」
そして後ろを振り返る。
「ログマ――」
もうこちらへ駆けてきていた。
「お前らに付く! 早く合流すべきだ。竜の方の戦況が悪化した場合にはそっちに行く」
「了解! 頼む!」
頼もしい仲間達と共に、巨大な肉塊へと愛剣を構えた。




