12章68話 リーダー討論会
「分かってる……て訳じゃ……」
自分の意見に自信はない。あの会議ではたまたま俺の進め方がハマっただけだ。そのまぐれを自慢げに語るようで、抵抗を感じた。
でも、決して謙虚ではないレヴォリオが、自分の失敗と向き合うために俺を頼っている。その努力の片鱗に、多少偉そうでも応えたいと思った。
「どうすべきって話じゃないけど……俺なら、まずは後ろ向きになってる原因を取り除くかな。今回なら、心身を回復させることは必須だ」
「ピンと来ないな。俺は前向きにするために鞭打った。あれじゃダメなのか」
「……正直悪手だったと思うよ。鞭で無理やり前を向かせたって形だけだ。士気が上がったとは言えないと思う。やっぱり、自発的なやる気を引き出したいよな」
「じゃあルークならどうする」
「うーん、とにかくメンバーの話を聞くよ。意見や要望があればなるべく取り入れて、配慮する」
「心身の回復にしろ、意見や要望にしろ、メンバーが自分達のことをリーダーに配慮させるなんて、自己管理の怠慢なんじゃないか?」
「えぇ? 俺はリーダーだからこそ配慮するべきだと思ってんだけど……。勿論、自己管理できるところは頑張ってもらうけどさ」
「ワガママを聞いて何になる。気の緩みと甘えを助長するだけだ」
「ワガママじゃないだろ。えーと、例えばレヴォリオの上司が俺だったらどうする? 攻め気のお前が慎重な上司に抑えつけられたらやる気なくすだろ。メンバーの意見を尊重して、納得感を持ってもらうことは必要だと思うよ」
レヴォリオは、ふうんと相槌を打って目を伏せた。俺もその隙にため息をついた。彼の断定口調は少し心に悪い。
彼はぶつぶつと何か呟きながら少し考えた後、閃いたような顔で目を上げた。
「――ルークは実際に、そうやってメンバーの士気や意欲を引き出してるんだな?」
「う、うん! あっいや俺が引き出してるっていう言い方は違うか? うん、でもまあ、うちはそれで上手くやってる――と思うよ!」
首を縦に振ったり横に傾げたりしていたら、ふっと笑われた。
「さっきの、ペコペコして伸び伸びと、て話もそれか。メンバーを尊重するのは、士気を下げないための考えって事だろ」
「そうそうそう! それ!」
「さっきから変な反応だな。口下手な奴」
ぐっと言葉に詰まった。言い返せない。
「多少、納得はできた。ルークみたいな甘ちゃんが、今回のメンバーに合っている可能性はありそうだ。俺も試しに、もう少しあいつらに配慮してみるか」
レヴォリオは微笑んだ。
「俺にはない視点が得られた。助かったぜ」
それを聞いて、少し可笑しくなった。
「俺も、レヴォリオの威厳を見習いたいと思ってたところだったんだ。俺もお前みたいに、自分の意志に芯を持ちたいな。今日は会話できて参考になったよ。……助かったのはお互い様かな」
彼は目を丸めた後、からからと笑った。俺も釣られて笑ってしまった。
レヴォリオが、躊躇うように少し目を泳がせた後、尋ねてきた。
「気を悪くするかもしれないが、聞かせてくれ。――今の、意欲の話、ルークの病の回復には繋がらないのか」
その答えは、既に俺の中にあった。苦笑するしかない。
「残念ながら。俺には、闘病に対する士気も意欲も充分あるよ。なのに、なかなか良くならなくてさ。他に必要なものがあるんだろうね。ホント厄介だよ、強敵すぎる」
レヴォリオは無言で俯いた後、ビールを飲み干した。
そして、ジョッキを音を立てて置いた後、彼自身へ、ビッと親指を向けた。
「鞭打って欲しい時は、呼べよ」
真剣な表情と鋭い眼差しがやけに温かく映った。彼なりのエールなんだろう。その気持ちが、素直に嬉しかった。
「あっははは! お前の鞭、絶対痛いだろ! ――ありがとうな。頼らせてもらうよ」
結局、会計に立ったのは二人とも酩酊し始めた頃だった。レヴォリオは俺を制し、スパークルの接待交際費として精算すると言ってくれた。
会計の対応をしてくれたのは、料理を持ってきてくれた若い女性店員だった。彼女は可愛らしくはにかみながら、財布をしまったレヴォリオに話しかけた。
「あ、あの。よろしければ、今度一緒にお食事でもいかがですか」
突然の甘い展開に高揚し、両手で口元を押さえてレヴォリオを見た。レヴォリオの顔には、爽やかに光る営業スマイルが貼り付けられていた。
「それは身に余るありがたいお誘いです。ただ、婚約者を悲しませたくないので、すみません」
「そ、そうでしたか。突然ごめんなさい。――ご来店、ありがとうございました!」
店を出て少し歩き、吐き捨てる。
「絶対幸せになれよ。お前なんか大嫌いだ」
「どういう感情だよ」




