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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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11章60話 紙一重



 戦利品を回収して十字路に引き返し、正面の構造物に目をやった。ここからでは戦闘の音は聞こえない。


「彼らは無事かな……」


 俺の呟きに応えたのはログマだ。


「奴らは人数が多いし、何より健康だ。人より自分達の心配をしろ。今の俺達では、些細ささいな戦闘も命取りになる。早く帰投するぞ」


「そうだね……」


 出入り口の階段へときびすを返す。


 幸い、帰路では全くモンスターと遭遇しなかった。今日の討伐で全体数を減らせたということの現れだとすれば、長期戦の甲斐があったというものだ。




 階段が遠目に見えた頃、最後尾のウィルルが泣きそうな悲鳴を上げた。


「ああっあっ、皆、逃げなきゃ!」



 言われて振り返ると、遠くに、こちらへと走るスパークルの七人の姿が見えた。そしてその背後上空に、巨大な若葉色の竜が翼を広げていた。



 恐怖が今一度湧き上がる。とても迎撃できる状態じゃない。スパークルを助ける余力もない。まだ距離はあるが、さっきの攻撃範囲を考えれば、ここも射程範囲内の可能性がある。



 気づいたら叫んでいた。


「とにかく走れえぇ!」


弾かれたように一斉に駆け出した。


 俺達がほぼ横並びで階段を駆け降り始めた少し後、爆風の唸りが頭上を掠める。


 俺達は口々に悲鳴を上げながら一目散に階段を降りた。




 竜は階段には現れなかった。スパークルが遺跡周囲に結界を張り直したと言っていたから、そのお陰だろう。


 平地に降り立ち、全員、肩で息をする。俺はさっきの怪我による貧血もあって膝が笑い、立つのも覚束無かった。


 座り込んで、階段を見上げる。


「スパークルの人達は……」


 彼らの状態は気にかかると同時に、考えたくなかった。



 息が整った頃、絶望的な気持ちで再度見上げると、階段の上に揺れる人影が五つ見えた。



 足を奮い立たせ、つまづきながら、長い階段を駆け上がった。


「皆さん! お怪我は!」


 先頭のレヴォリオは、姿勢は崩れていないものの切り傷と土埃だらけで、苦い顔をしていた。


 他の四人のメンバーも満身創痍だった。ターゲッターとアタッカーに、血に濡れてぐったりとした男女二人がそれぞれ背負われている。装備からして後衛だろうか。中でも、若い男性を背負うターゲッターは、自身も顔じゅう血(まみ)れなのが目立った。


 俺は階段に座り込む彼らに、順番に水筒の水を渡した。次に駆け上がって来たカルミアさんがそれに続く。



 レヴォリオに尋ねた。


「何があったんだよ?」


 彼は口をへの字に曲げて忌々しげに言った。


「予定通りあの建物の中で討伐を進めていたら、突然天井の穴からヤツが覗いた。守りと妨害を駆使して撤退したが、不意を突かれたもんだから噛み合わなかった。そしてこのザマだ」


「そんな……」


 かける言葉が見つからなかった。



 背負われた二人へ、ログマが白く光る手をかざす。そして、顔をしかめた。


「ひとまず止血したが、あんまり良い状態じゃないぞ」


 続いて、ケインの風術が二人を包む。


「これで少しは軽くなるかな。私達にできるのは応急処置だけです。体力を回復して、病院へ向かいましょう。ルルちゃん、お願い」


 言葉を失っていたウィルルがはっとして杖を掲げ、広範囲の体力回復霊術を発動した。


 カルミアさんがターゲッターの男性に声をかける。


「俺が代わりに運びます。貴方も傷が深そうだ」


「悪いですね……頼ります」



 なんとか立ち上がった彼らを支えて癒しながら、病院へ急いだ。





 自力で歩けた五人は、手当てと簡単な検査を受けた。俺達は軽傷だったので遠慮した。背負われていた二人は、命こそ無事なものの重傷だそうだ。


 十人揃って、重傷の二人が治療を受ける病室の外で意識が戻るのを待った。状況をうれいて沈んでいた俺に対して、隣に座るレヴォリオはどちらかというと苛立っていたと思う。



 先に意識を取り戻した若い女性は、ベッドの上でレヴォリオを責めた。深く傷つき包帯に巻かれた腹部を押さえ、綺麗な金髪を乱して泣きながら。


「竜の動きを窺いながら少しずつ進もうって、言ったじゃないですか! 索敵の余裕がなくなったのは、リーダーが先を急いだからです!」


 レヴォリオは冷たく言い放った。


「無理な指示は出してない。普段のお前らなら余裕だった筈だ。それにお前らも結局は従った。独断じゃない」


 彼女が震える声を張り上げる。


「メンバーの調子を考えて下さいよ! 皆、今朝の時点で、本調子じゃないって言ってましたよね? 仕事を沢山進めたくても、違う日にするべきでした!」


「調子なんてものは、各自管理して間に合わせるものだろう。それに、昨日は休みを設けた。更に配慮しろって言い出したらキリがなくなる」



 胸が締め付けられた。どっちの言い分も分かる。


 今日の俺はレヴォリオと同じ考えだった。俺の調子が悪いのは俺の責任で、それを配慮してもらうのは違うって。


 ……でも、不調を隠したまま皆が気づいてくれなかったら、こうなっていたのは俺達かも知れない。



 彼女は涙に濡れた青い瞳でレヴォリオを睨んだ。


「そうやって……! 自分は正しい、仲間が悪いって思うなら、一人で行って下さい! 私、もう貴方と働きたくない!」


 レヴォリオは動じない。低い声で彼女をさとす。


「正しいか悪いかなんて話はしていない。問題は風竜をおびき寄せた事、それに気づけなかった事。それは俺の指示とは別問題だ。俺に当たるな」



 どうしてもレヴォリオの言葉が冷たく感じられて、最早言い返せず泣き続ける彼女側についた。


「レヴォリオ。原因は色々あるだろうけどさ、メンバーの調子を考慮しなかったことは、リーダーの不手際かも知れないよ……」


 彼は答えず、ベッドに背を向けて吐き捨てた。


「……残り十人は、明日の十時、俺達のホテルの会議室に集合だ。打ち合わせをする。俺はこれから上長に報告しておく」


そしてそのまま出ていってしまった。



 残された俺達の雰囲気は最悪だった。スパークルの面々がベッドの彼女に優しく声をかける。隣のベッドには、意識の戻らない若い男性が、頭部に包帯を巻かれて眠っていた。




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