表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/133

10章50話 エースのレヴォリオ

10章 業務提携、開始



 昼食後に会議室に集まり、レイジさんが司会台に立った。


「今日集まってもらったのは、仕事を受けるかどうかの相談だ。春頃、お前らの仕事が北区の報道紙に取り上げられたろ。あれからいくつか、大きめの仕事の相談が来るようになったんだ。一つ、お互いの条件が合う話があってな」


 レイジさんが俺に渡した紙を、正面の黒板に光術で投影した。


「映してもらってる通り、株式会社スパークルとの業務提携だ。ゼフキの西にあるメリプ市の、ニーモ遺跡原状回復依頼」



 冬頃、ニーモ遺跡の結界が老朽化した所から風竜ふうりゅうが入り込んだ。今では住み着いて、ニーモ遺跡全域が不浄エリアとなっている。


 湧き出たモンスターは多く、竜は言うまでもなく強力だ。既に、メリプ市内の軍事系企業三社が返り討ちに遭った。このまま不浄エリアが広がれば、メリプ市民は別の街に移らなければいけない。


 市は帝国防衛統括機関に相談したが、対応は支援金の支給のみだった。ニーモ遺跡は帝国の史跡だが、解決に手間がかかる上に、権力者とその富との関係が浅い事案だからだろうとの事。


 ……あの機関はせっかくエリート集団なのに、民衆の声への反応がにぶい。民間企業以上に、権力と金との結び付きが強いのはなんなんだろうな。


 だがまあ、その支援金のお陰で、兼ねてから付き合いがあり、軍事企業激戦区のゼフキでもそれなりの実績をもつスパークルに声をかけることが出来た。


 そして現在に至る――という事情らしい。



 ニーモ遺跡は、俺でも知っている観光名所だ。そんな事になっているとは、知らなかった。


「スパークルへの直接依頼かつ大型案件だから受けたが、納期や他の仕事との兼ね合いで人が足りなくなったと。そこでうちに手伝って欲しいって話」



 レイジさんは指を三本立てた。


「達成目標は三つ。風竜を含めたモンスターの掃討そうとう。戦利品の回収。遺跡全体の浄化だ。市が行う清掃も手伝う可能性がある」


 そして、と彼は指を一本にした。


「お前らに確認したいのは一点。準備後二週間、泊まりでの仕事になる。これに参加できる人数」


 内容を考えれば長期出張は自然な事だけど、俺達にしては大掛かりな案件だ。


「稼働人数次第で報酬も変わるし、業務提携自体を断る可能性もある。通院予定の調整も必要だと思うが、行ける人は手を挙げてくれ」


 自然と全員が手を挙げる。レイジさんは嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「いいね、積極的で助かる。じゃあ、このまま詳細の説明を始めるぞ」





 ケインは目線を石畳に向けたまま、誰にともなくぼやいた。


「はーあ。行くって決めたのは自分だけど、気分乗らないな」


 大量の矢を背負う後ろ姿が、眩しい朝日に照らされている。大きなバッグとリュックを携えたウィルルに顔を覗き込まれ、ケインは続けた。


「多分、竜以外のモンスターも、風属性が多いよね。私、風術しか使えないのに」


「でも、ケインちゃんは弓矢が凄いもん、平気だよ。索敵は同属性の方が反応強いし」


 ケインが苦笑する。


「ありがとね。頑張る。――ただ、心配はそれだけじゃないの。スパークルはエースの独裁になってるって聞いてさあ」


 これには俺が反応した。


「独裁?」


「そう。レイジさんは、エースが凄腕としか言わなかったけど。あくまでも友達づての噂だし、嫌な人じゃないといいなー」


無理もない不安だと思う。俺も、少し心配だ。



 いつもより少し重装備のカルミアさんが笑った。


「まあ、まだ分からないさ。俺は少し楽しみだよ。メリプは観光産業が活発だったから宿や食事は良いはず」


 装備も荷物も少なく見えるログマが、呆れた声を出す。


「所詮はうちの金で借りれる宿だぞ。期待できない」



 北区と西区の境にあるテクサッソ大通りで馬車を頼み、防壁へ。門をくぐり、水堀の上にかかる大きな橋を抜け、草原に設けられた街道を辿って西へ進む。




 メリプ市に着いたのは昼前だった。


 行き交う人の身なりや、家屋の大きさを見るに、ゼフキ程ではないもののかなり栄えているように見えた。遠くに見える高台の、防壁に囲まれた建物がニーモ遺跡だろう。その裾野に広がるように、広大な石造りの街が形成されていた。


 ただ、街の規模や店の数に対して、行き交う人が少なすぎるのが気になった。やはり、観光客が居ないからなのだろうか。


 遺跡までは、広場を幾つか経由するものの太い一本道が通っていた。


 その一本道を遺跡がかなり近くなるまで歩き、拠点となる少し大きめの宿屋に辿り着く。宿泊荷物を預け、スパークルと合流する約束の飲食店へ向かった。




 スパークルは先に着いていた。七人の男女が、お洒落なレストラン前に集合している。近づくこちらに気づいて、何人かが礼をしてくれた。


 一応リーダーなので先頭に立ち、得意の愛想笑いで挨拶する。


「スパークルさんですよね。お待たせしてすみません、イルネスカドルです。今日から、よろしくお願いします」


 燃えるような赤毛の青年が、俺達に爽やかな笑顔を向けた。


「スパークルです。よろしくお願いします」


 都会的で見栄えがする鎧を身につけた、いかにも戦士と言った風貌。それでいて垢抜けた精悍な顔付きと、美しい所作。


 ――彼がエースだろう。今のところ、人格の難は見受けられない。



 予約していた飲食店は、昼時にも関わらず人が少なく空いていた。


 十二人で長テーブルに腰掛ける。ウィルルはフードを被ってガチガチになっていたのでケインの隣へ促した。出された水を飲みながら食事を待つ。


 ……俺の向かいは、エースの青年だ。



 彼は友好的に声をかけてきた。


「御社のリーダーの方ですよね。俺、うちの軍事統括リーダーの、レヴォリオって言います。お名前をお聞きしても?」


「ああ、申し遅れました。弊社の本部チームのリーダーをやらせてもらってます、ルークです。よろしくお願いします」


「こちらこそ!」


 爽やかな笑顔のレヴォリオさんに尋ねる。


「スパークルさんは今日で三日目でしたよね。進捗を伺いたい」


 彼は力強く頷いた。


「遺跡の周囲を彷徨うろついている小型を片付けて、結界を張り直しました。現在モンスターがいるのは、階段を登った高台の上、遺跡内のみです」


「周囲の安全が確保されたのは大きいですね。助かります」


「いえいえ。今日は俺達は休ませてもらうので、遺跡の入り口から進めてもらえますか」


「わかりました」


 仕事は予定通り進んでいるようだ。レヴォリオさんも懸念とは逆の好青年で、ほっとした。



 レヴォリオさんは屈託くったくのない笑顔で言った。



「いやあ、皆さん病人には見えないですね」



 心臓が跳ねて、愛想笑いが強ばった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ