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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第2部 不器用で温かい仲間達

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7章36話 リーダー、奔走する




 握った剣を腰の高さに添え、木陰から駆け出す。俺の全身がウィルルの物理防御シールドに包まれた。ありがたい。



 小型は群れさせなければどうとでもなる筈。向かうはフォースパファー。


 俺を視認した貝型がもぞもぞと寄ってくる。こいつらは動きがのろいが、身体に取り付かれると皮膚を削り取られる。距離感が肝だ。


 川縁にいた魚型もこちらに気づき、頭をもたげて水弾を放つ。避けた弾が地面にぶつかる音は重く、食らったらそれなりのダメージになりそうだ。



 ――様子見がてら、肩慣らしをしようか。足元の貝型へ、膝を折って剣を振り下ろす。

「ふっ!」


 体重をかけた剣撃は、少しの抵抗の後、殻を割った。その後柔らかい身を斬るのは造作もなかった。両断された貝型はさらさらと空気に溶けた。この脆さなら、士気の下がっているカルミアさんでも苦にならないだろう。



 ジグザグに走って小型の攻撃を避けながら近づくと、河の流れの中を悠々と泳いでいたフォースパファーがついにこちらを向いた。そして、身体を大きく膨らませた。――まさか。


 咄嗟に横に跳ぶと、俺のいた位置に黒い体液がばしゃっと音を立てて撒き散らされた。すぐに霧になって消えたが、遠くから毒を吐く事ができるという事実には変わりがない。自分の体液を吐き出すなんて、力技を使いやがる。


「反則だろうが……!」


 三種のモンスターそれぞれの攻撃を躱して不規則に動きながら、剣先を天へ上げる。剣に太陽の光エネルギーを集める。


「おらっ!」


 その場で身体をひねり、剣とともに一周横回転。一応、霊剣士の範囲攻撃だ。


 俺を起点に光と熱のエネルギー波が広がり、周りの巻貝型と小さい魚型の数体が黒く弾けた。パファーの身体にも横一直線の焦げが刻まれた。よし、効くらしい!


 パファーがブオオォと声を上げる。水中のようにくぐもったその響きには怒りを感じた。

 警戒を強めて二歩跳び下がる。それは正解だった。

 奴は俺と同じように回転し、毒を吐き散らした。俺の位置の手前まで飛沫ひまつが届いた。


「チッ、真似すんな!」



 背後からログマが駆けてきた。


「そのまま駆け回って翻弄しろ! 火霊力を溜める時間が欲しい」


「了解!」


「あの飛び散らし方だと、誰かが毒を食らうのは時間の問題だ。一撃で決める」



 会話のために立ち止まっていた所を、魚型の放った水弾に捉えられる。俺の反応は遅れたが、大きな氷の盾に守られた。


「ウィルル! 助かった!」


「ろっ、ログマのことは私が守るね!」


「頼む!」


 ログマの背中へと駆けてくる彼女を尻目に見ながら、足元へ剣先を向け弧を描く。集まって来ていた貝型を三体まとめて斬り払った。さっきより体重がかかっていない攻撃だが、威力は充分のようだ。



 背後から、よく通る声が響いた。


「ルークごめん、近くまで行くね! 一回止まって!」


 ケインの声に従い動きを止めると、すぐ隣まで来た彼女がパファーへ左腕を伸ばした。その手首に光る翡翠ひすいのブレスレットが光り、目に見える緑色の風の渦が奴の正面に展開された。


「私はこの術を維持する。毒が飛ぶ範囲と量を抑えられる筈!」


「その手があったか! 助かるよ!」


「でも歯と体当たりには効かないからね、注意だよ!」


「ありがとう、気をつける!」


 ケインの後ろまで駆けてきたカルミアさんが苦しそうな吐息が混じる声で言う。


「俺はケインの周りを守ることにするよ……!」


「了解! 困ったらすぐ呼んで!」


 言いながら再び駆ける。体制が整った今、向かうのは水辺。魚型の水弾が他四人を妨害するのを避けたい。パファーとの距離が縮まってしまうが、ケインを信じる!



 ――剣で媒介できない分威力は落ちるが、久々に使ってみるか。誤差よりは効くって所をログマに見せつけてやる。


 張り付こうとする貝型と水弾、幾分減った毒の飛沫を避けながら、目を細める。心の中の怒りと戦闘意欲に集中すると火の精霊が力を貸してくれて、強く握った右拳が炎を纏う。多少熱いが、辛抱だ。


 水辺に跳ねる小型の魚とゆらゆらとこちらへ狙いを定めるパファー。高めた炎の感情のままに、奴らに向けて腰を捻って拳を突き出した。


「せああぁ!」


 俺が空を殴りつける軌道に沿い、炎が走る。その炎は狙い通り魚型五体を焦がして消し飛ばし、パファーの口元と膨らみ始めていた腹部の一部を焼いた。


 これで魚型は全滅させた。思った以上の効果だ。属性相性と位置が良かったのだろう。もしくは、思ったよりも俺が怒りを溜め込んでいたのかも?



 ふうと息をついて後ろへ数歩跳ぶと、ケインとカルミアさんが唖然としてこちらを見ているのが視界の左端に入った。


 貫禄を示すはずが、つい不安で挙動不審になってしまう。


「な、何?」


 ケインがううん……と首を振り、カルミアさんが呟く。


「随分と肉体的な精霊術の使い方だなって……」


 恥ずかしくなって少し顔が火照った。自覚はある。


「俺が剣無しで精霊力を込めようとすると、こうなるんだよ……。でも、ロハでは割と強かったんだからな!」


 誤魔化すように、足元の貝型を一体斬り払った。



 パファーは、河の中でのたうっている。火傷のダメージで多少の隙が生まれているようだ。


「よし、この調子だ。もうちょっと頑張ろ、二人とも」


「うん! 任せて!」


「はぁい、頑張るね……はぁ……」




 右端へ目を向け、ウィルルとログマの様子を確認する。


「えいっ! それ……! そこっ!」


 気合いを感じる表情のウィルルが杖を振ると、あちこちに光属性の小型シールドが生じる。シールドは白銀に光り、近寄った貝型を光の反射の要領でバチンバチンと弾き飛ばした。


 そして、カルミアさんが飛んできた奴らをハルバードの鎌で裏返して突き、難なく霧散させる。彼らの連携により、大量にいた筈の貝型は数えられる程に減っていた。



 ウィルルは、ヒーラーの範疇はんちゅうを大きく超えて働く。今やっていることは護衛と攻撃補佐、本来はターゲッターとサポーターの役割だ。


 以前、回復術が一番好きだと言ったことに偽りはない筈だ。だが、仲間の役に立とうという強い気持ちが、多彩な技の習得を可能にしているのだろう。彼女のたゆまぬ努力の結晶だ。


 そのウィルルと背を向け合うログマは、赤く煌々《こうこう》と光って見えた。よく見れば、携帯用らしきルビーの短杖を握っている。集中が深まり張り詰めている雰囲気。術が発動できるまで、長い時間は掛からないだろう。



 パファーは俺の事しか見ていない。敵対心を引き付けられているという事だ、ターゲッター冥利に尽きる。まあ、本業はショートレンジアタッカーなんだが。



 再び駆け出そうと前に踏み込んだが、膝とかかとを内側に絞って急停止する。奴が膨らむスピードが段違いに早い。


 緊急回避だ! 横に大きく跳んで、川砂利の上で身体を転がす。


 さっきまで俺がいた位置に、黒い毒弾が激しく打ち付けられた。


「ふう――これは危ねえな」


 視界の両端には仲間達。狭い範囲で回避するのは難易度が高い。接近して体当たりなどに備える方がリスクは低い筈。



 すぐに体勢を整えて全速力で駆け出した。


「ケイン! 接近戦に持ち込む! ウィルルに物理防御は張ってもらってるから、風術を解除してカルミアさんと君の防衛に回って! サポートありがとう!」


「了解! 気をつけて」


 河の流れの真ん中にいるパファーへ、白銀の光を纏わせた剣を構えて走る。もちろん斬れないからハッタリだ。


 攻撃が必要ないならこれも使えるな。ブーツに水術力を付与して、岸辺から波打つ水の上へと走る。流れや波は無視できないが、水中に入るよりは有利だ。



 間が詰まると、奴は大きく尾ひれを持ち上げ、歯を剥き出して水を蹴った。なるほど、歯と体当たりの合わせ技か。


 左脚を踏ん張って右横へ跳んだが、それだけでは奴の大きな身体を躱しきれず、もう一歩大きく跳んで伏せた。……水の上であることを忘れて。


「ぶっ!」


 ドバシャッと派手に河に飛び込んで非常に決まりが悪い。



 だが、慌てて岸へ上がると、パファーは川砂利かわじゃりの上でジタバタと暴れていた。岸側の俺へ突っ込んだのだから当然ではあるが、幸運だ。そちら側にいたケインとカルミアさんも巻き込まれていなさそうだ。



 低く張りのある声が聞こえた。

「――ルーク、ご苦労」


 ログマの足元から、炎が導火線のように地を這う。それがパファーに届いた瞬間、彼は杖のルビーを頭上まで掲げ、雄叫びを上げた。


「おおおおお!」


 パファーの身体を炎が取り囲み、天高く太い火柱が立ち上った。熱風が俺にも強く吹きつける。



 やがて炎が鎮まった時、そこには黒く焦げた地面以外なにも残っていなかった。





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