表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第2部 不器用で温かい仲間達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/310

6章31話 馴れ馴れしいんだよ!




 何やら穏やかじゃない雰囲気に、慌てて声をかける。


「ロ、ログマ……? どうしたんだ」



 ログマの返事はなく、前(かが)みになった身体を両腕で抱えて震えていた。シルバーグレーの髪が前へ垂れ、表情が見えなくなる。


「はっ、はあ……ぐ……」


 彼の苦悶の声に顔色を変えたケインは、慌ててペンダントを背後に隠した。



 カルミアさんが彼の背中をぽんぽんと叩く。


「しんどかったね。無理に見せてごめん。――でも、これを一番探したかったのは、ログマだと思ったんだ」


 荒く息をして胸元を押さえるログマは、声を絞り出した。


「……いわくつきってだけだ……」



 俺が聞いても、いいだろうか。……きっと、嫌ならまた悪口を言われるだけだから、聞くだけ聞いてみよう。


「ログマ。事情を話してくれないか」


「……誰が、お前に」


 やっぱりダメか。腕を組んで、別の質問をする。


「今日はもう帰るけど、明日は教会にペンダントを届ける事になるだろ。その時のお前が心配なんだが、大丈夫か」


「それはお前らだけで行け。全員揃う必要はないだろ」


 ため息をついた。全部突っぱねられるなあ。



 ……いつもならここで引き下がる俺だけど、放っておけなかった。きっとこの依頼は、ログマの人生において重要だという直感があったから。


 もう、小細工はやめだ。素直にぶつかってみよう。


「……気を悪くするだろうけど、言う。何があったかは分からないけど、お前は孤児院を嫌ってはいない筈だろ。なんで行かないんだ」


 ログマは身体を起こして直立し、案の定、白い顔で睨んできた。


「面倒臭いから行きたくねえだけだよ。分かったような口をきくな」


「見ていれば、少しは分かる。一人が楽だと言ったお前が俺達を頼った。手紙が届くように、教会に住所を知らせていた。デコイス市に着いてからは、たまに上の空で穏やかな顔をしてた」


「チッ……ジロジロ見んなよ、気持ち悪ぃな」



 俺も、故郷や家族には複雑な思いを抱えている。今は、ログマみたいに誰かから手紙を貰ったとしても、その為に頑張ろうなんてとても思えない。


 でも、ログマは違った。自分のプライドを傷つけながら人を頼り、体調不良を抱えながら、危険を冒して、働きに来た。


 どんな感情や事情を抱えていたとしても、ログマがそれらと向き合う時だろうということには変わりがない。


 ……だから、お節介だと分かっていても、伝えたかった。



「せっかくここまで来たんだろ。会いに行こうよ。……俺が孤児院の人なら、立派に働いているお前の顔を見たいよ」


「あぁ? 人の顔を見て何の意味がある? お前の妄想だ。俺もあっちも、そんなの求めてない。物があれば充分だろ」


 彼の顔が苦しそうに歪んでいる。心は痛んだが、どうしても気づいて欲しい。一気にまくし立てた。


「それは違うよ。孤児院を出てから六年経ったんだろ? それでも、孤児院の人達はずっとお前を気にかけてる。彼らは、デコイス市の軍事系団体に頼ればいい話を、お前に持ってきた。お前の金銭事情を心配してか、単に会いたいのか、信頼されているのか知らない。でもそれはさ――」


言葉に力を込める。


「愛されてるって、事じゃないか」



 ログマは、俺の襟元を掴んで激昂げきこうした。


「ああ、ああ! 本当にお前は気に食わねえよ! また燃やされてえか? 想像だけで好き勝手言ってくれやがって。お前みたいなゴミに何が分かる!」


「そりゃあ分かんねえよ! お前は何も話してくれないからな! でも俺は、お前を大事にしてくれる存在がいることに気づいて欲しいんだ!」


 ログマは俺を鋭く睨みながらも言葉を続けなかった。俺の胸ぐらを掴む拳が震えているのは、どの感情によるものなのだろう。



 掴まれている拳を握り、まっすぐに目を見つめた。


「……お前、無愛想で刺々(とげとげ)しいだろ。人と距離を保つだろ。他人にも、そうされてきたんだろうと思ってたんだ」


 彼は答えない。皆も、何も言わない。


「俺はお前の、周りを全部敵だと思っているような態度を見ていると苦しかった。仲間だって、味方だって思って欲しかった。でも、難しいのもなんとなく分かった」


 俺はきっと、彼が嫌がる事ばかり言っている。俺みたいな気に入らない奴に距離を詰められるのは、大嫌いだろう? ごめんな、ログマ。身勝手で。仲間を放っておく事が辛い、弱い奴で。


 苦い顔で笑って見せた。


「そんなお前がさ、大事にされていて、お前もまた気にかけている存在があるんだって。お前に味方がいるってことが、すげえ嬉しかったんだよ」


 ログマは俺の手と襟元を振り払い、自分の胸へ手を当てた。息を荒くして俯き、また前髪で表情が見えなくなる。


 逃げないでくれ。どうか、聞いてくれ。


「味方と思えるのが俺達じゃなくたっていい。だけど、大切な人達とは向き合って欲しい。後で後悔してほしくない。お前が孤児院のために探したペンダントを、お前の手で渡しに行って欲しい」



 沈黙が流れる。


 森の静寂が妙に優しく感じた。木々が風に揺らされるざわめき。鳥の声やどこかのせせらぎの音。その全てが、口論する俺達を丸ごと包んで、繫ぎ止めてくれているような気がした。



 やがてログマはふらふらとしゃがみ込んで、頭を抱えてしまった。


 ログマの後ろから寄ってきたカルミアさんに、肩をぽんと叩かれる。


「ルーク。ストップね」



 はっとした。俺の悪い所が出て、ログマを追い詰めてしまった。


「う……ログマ、ごめん。俺、また熱くなっちゃったな」


 カルミアさんは優しく微笑んだ。


「ルークは大事な事を言ったと思うよ。――大事だけど、凄く難しい事をね。ログマに、時間をあげよう」


そして片膝をつき、しゃがみこむログマの背をさする。


「ログマ。無理に受け入れなくていいよ。でも、君は賢い。ルークの言う事だって理解はできると思う。少しでも飲み込めれば、きっと糧になるよ」


 ログマは舌打ちをして、カルミアさんの手を振り払った。


 そして立ち上がり、俺の腹を蹴り飛ばした。


「うぐ!」


 革鎧越しでも痛かった。素直に尻餅をついてしまった。全力でやりやがったな。また油断していた。惨めだ……。



 ログマはえりを正しながら、不機嫌に吐き捨てた。


「どいつもこいつもうぜえな。馴れ馴れしいんだよ」



 ずっと黙っていたウィルルが、不思議そうに言った。


「ログマって、お仕事を最後までやる人だよね?」


「は? 何の話だ? そりゃあ金を貰うんだからやらなきゃいけねえだろ。それくらい分かる」


「そうだよね、前もそう言ってたこと、あったもんね?」



 きょとんとしたまま続ける。


「ログマが貰った仕事なのに、報告に行かないの?」



 ケインが吹き出した。俺もにやりと笑った。ログマにとっては痛い言葉だろうが、これはある意味助け舟かも知れない。


 ログマはぐっと呻いて黙った後、目を逸らしたままケインに掌を見せた。


「寄越せ。……明日までに、少し考える」


「うん。預けるね。しっかり持っててよ!」


「分かってんだよカス」


「は? 今夜は背後に気をつけてね」


 物騒なやり取りに震えた。


「やめてやめて……。ほら、宿に帰ろ。――皆でさ」





 疲れてぐっすりと眠っていた筈が、深夜に目を覚ましてしまった。久々の中途覚醒だ。


 俺には眠剤を必要とするほどの睡眠障害はないが、慣れない街と口論で少し精神に負担がかかったのだと思う。


 薄目を開けると、枕元の灯りがともってぼんやり明るかった。俺は真ん中のベッド。右側を横目で見ると、酒の入ったカルミアさんが口を薄く開いて静かに寝ていた。



 そして左側に目をやる。――ログマがベッドの端に腰掛けて起きていた。


 ストレスをかけたからなあ。元々不眠なのに、余計眠れなくしてしまっただろう。


 でも、ごめんと声を掛けるのは俺の自己満足だ。カルミアさんも時間をあげようと言っていたし、きっとそっとしておいた方がいい。


 寝たままのフリを続けて、黙って寝直そう――。目を閉じようとして、気づいた。


 ログマの手には、あのペンダントが握られている。


 うつむく彼の表情は見えないが、その丸まった背中は酷く寂しそうに見えた。



 ……いつか、話してくれるかな。俺を仲間だと、味方だと認めてくれるだろうか。


 俺、散々酷い態度を取られているのに、お前の事、何でか嫌いになれないんだ。悪い奴じゃないって、なんとなく分かるんだ。まあ、もう少し、優しくして欲しいけどな。


 目を閉じた。時計の音だけが響く、静かな夜だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ