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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第2部 不器用で温かい仲間達

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5章27話 俺の話



「おいおい! 散々飲んだだろ? また吐かないでよ?」


「もー、約束したから四杯までにするよ」


「二杯までだろ! 飲みすぎても三、四杯って言っただけ!」


「じゃあ今日は飲みすぎちゃうってことで四杯までね!」


「ああもう! この大酒飲み!」



 なだめる俺に反して、皆乗り気だった。


「賛成ー! 私、話し足りないし飲み足りない!」


 嘘だろケイン。ワインを沢山飲んでいただろう。


「私も、皆ともっとお話したい気分ー。楽しかったの」


 俺もウィルルと同じ気持ちではあるけど。


「……茶でいいなら」


 ログマ? 酒を飲まずとも皆と話したいってこと? もしかして、もう正気じゃないのか?


 カルミアさんが唖然とする俺の肩を抱く。


「一人だけ不参加でいいのー?」


「うぐ……それはやだ……」


「決まりー! 各自準備して食堂に集合ね。俺の手持ちの酒を持っていくから、つまみだけ持ち寄ろう」




 いつもの窓際の食卓ではなく、反対側のスクリーンの影にある懇談スペースに集まる。


 六つのソファとローテーブル、少しの雑誌が置いてある本棚があるが、俺がここを使うのは初めてだ。


 カルミアさんが持って来た甘いお酒を、冷えた牛乳で割る。一応、飲みやすくて弱いお酒にしようね、と言っていた。ログマはやっぱりお茶にしていた。明るい所で見たら顔がほんのり赤かった、少し飲みすぎたのだろうか。



 全員でグラスを差し上げて、もう一度乾杯。


 持ち寄ったナッツの袋を広げる俺に、ケインが身を乗り出した。


「ねえねえ。私、ルークにもっと色々聞きたかったの。上の人がいない時なら、ぶっちゃけて話せるでしょ?」


 カルミアさんが笑う。


「おー。俺とおんなじ。結局あまり知り合えないまま、重い仕事に入っちゃったからねえ」


 顔を顰めた。


「これ以上何も出ないよ。それに皆、俺を虐めるじゃん」


「アハハ、ごめんごめん。優しくするから。ちょっとだけだから」


 ほんのり嫌な言い回しだな。



 渋々、甘い酒を啜りながら皆の言葉を待つ。皮切りはウィルルだった。


「ね、ね。ルークは最近まで病気じゃなかったんでしょ。いつからなの?」


 ……こういう話をすると、ネガティブな反応をされた事しかない。話したくないと感じた。



 だが、話してみたい気持ちも少しあった。ずっと一人で抱えて、誰にも分かって貰えなかった、俺の話。


 ――もしかしたら、病気を理解する皆なら分かってくれるのではないかと、正直期待している。



 少し音量の下がった声で返答した。


「……二年前だよ」


「ふぇ、最近なんだね」


 俺にとっては長すぎる二年だったのだが。まあ、皆の社歴から考えれば、比較的短いか。病歴に善し悪しなどないとは思うが、皆、苦労してきたであろうことには違いない。


 ケインが上目遣いでおずおずと尋ねてくる。


「……きっと、きっかけがあったんでしょ。ここに来るまで、何があったの? 話せる範囲でいいから、聞いても、いい?」


 ぐぅと呻いた。最もキツいところであり、最も分かって欲しいところ。――最も弱く、脆いところだ。


 でも、皆の視線は真剣で優しい。俺の事を知りたいと、言ってくれているんだ。今まで関わった人達は、頼んでも聞いてくれなかったのに。


 そう思うと真摯に答えたい気がして、もじもじと手を揉み、目を泳がせながら話した。


「えっと。ざっくり言うと、前職の兵団で目をつけられて、散々……色々とやられた。一年耐えたけど結局辞めた。多分、それが一番のきっかけなんだけど――」


言語化すると辛くなって、ふうと息をつく。


「辞めて引きこもった先が悪かったよ。今度は家族に心をやられちゃった。家庭環境には恵まれてたと思うんだけど、精神の病気には強い偏見があったんだよな」


 微かに息が震えていて恥ずかしかった。多分バレているが、誤魔化すように、酒を啜る。


 ――少しだけ、飛ばして話す事にした。飛ばす部分はあまりに直近の事だ。キツ過ぎて、口に出せない。


「あー、そんで、まあ。家を出るって決めて、ゼフキでの仕事を探してたら、イルネスカドルの求人を紹介された。精神疾患者限定で、戦闘経験と役職経験のある人材。俺じゃんって思って飛びついた。――そんな感じ」


 ログマがふうんと鼻を鳴らした。


「そういう募集をかけてたんだな。道理で。突然リーダーですって入ってきたからな」


「そうだね、あの時は驚かせてごめん」


 ふと思い立ち、俺から皆に尋ねる。


「なんで新参者の俺がリーダーなんだろうね。皆しっかりしてるし、凄く強いじゃないか。わざわざ俺をリーダーに立てなくても良かったんじゃないかと思ってる」


 ログマがニヤッとこちらを見た。


「本当だよ。お前なんか要らねえ」


「……そこまでは思ってなかったんだけどな……」


 しょぼくれた俺から目を逸らし、彼は続けた。


「だが少なくとも俺は、リーダーなんて御免だね。俺は一人が一番楽なのに、組織を束ねるなんてダルすぎる」


「そっかあ。強いのにな」


「戦闘力とは別の話だろう」


 納得はできる。ログマが仲間を率いる姿を想像できない。



 でも、じゃあ彼は?


「カルミアさんなんて適任じゃないか? 人格者だし、古参だし、強いし」


カルミアさんはぶんぶんと首と手を振った。


「ないないない! 本当にそういうの苦手なんだ。できなくはないかも知れないけど――」


「けど?」


 雰囲気が少し陰り、目が合わなくなった。


「俺は、上に立つ資格、ないよ……」


 何故そんな事を言うのだろう。自信のなさではない気がした。彼が自分をそう思う何かがあって、それには触れてはいけないような。曖昧な返事をして、ナッツをつまむしかなかった。



 女性二人に目を向けたら、聞く前にケインが笑った。


「私達は向いてないよ! ルルちゃんは涙脆い!」


「えへへ。ケインちゃんは怒りんぼー」


 消去法で納得させられてしまった。



 腕を組み唸る。四人ができないにしても、俺以外のもっと強い人を採用した方が良かったんじゃと思ってしまう。だってメンバーが強いから。俺で良かったのかな……。


 その自信のなさを見透かされたのだろうか、ログマが不機嫌そうにこちらを見る。


「さっきお前、役職経験があると言ったよな。実績は充分理由になるだろうが。うだうだ言わずに骨身ほねみを削れ。苦労させてやるからよ」


「苦労をかけないって言うところじゃないのかよ……」



 そんなログマに聞きたい事があった。答えてくれるかは分からないが。


「ログマ、この場で話したい事があるんじゃないのか」




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