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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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34章278話 一般人で侵入者、陽動役で抑止力



 俺は三十分もせず、朱のマントに軽量の金属鎧――防衛戦士団員の正装に変装した。身につけてきた自前の装備と合わせれば、小慣れた団員に見えなくもない。



 鏡の中の自分に、ほぼ同じ装備のガノンが並ぶ。同僚みたいで嬉しい。彼もまた満足気に笑った。


「さっすが現役戦士。さまになってんな! これで兜を被れば完璧に溶け込むっしょ」


 そしてマントのえり元の裏側に、何やら細かい仕掛けと翡翠ひすいが付いたピンをつけられる。


「これ、無線機。話す直前に起動してくれな。別室のエバッソ副長と朱の鉄槌メンバー、バデリーさんに音声が届く」


「その別室側からの指示は無しだよな?」


「だね。一方通行の仕組みなんよ。何かあれば対談の前後に、携帯連絡機でやり取りする感じで」


「了解」



 そこでドアが開き、儀礼用装備に身を包んだ筋骨隆々の兵士が入って来た。彼が装飾付きの兜を取って初めて、エバッソさんだと分かった。


「順調そうだな?」


「お疲れ様です! 順調です」


 彼とガノンにならい、敬礼して返した。


「今日はよろしくお願いします」


「よろしく。見ての通り、俺は開会式からしばらく、お飾り儀仗兵ぎじょうへいの仕事もあるんでな……。バデリー君も諸事情で遅れるらしい。対談は確実に揃って聞くが、それまではガノン兵長に任せきりになるだろう」


「分かりました。事前に打ち合わせして頂きましたし、ガノンさんも親切なので大丈夫かなと」


「ああ。期待してるぞ、ルーク君。頼らせて貰うからな、ガノン兵長」


「お――お任せ下さい!」


 エバッソ副長は小さく頷いて俺達の肩を叩く。無骨ぶこつで軽い信頼の感触が、心地よく響いた。そのまま彼はまた慌ただしく部屋を去った。




 その後、ガノンと共に議場を歩く。この時間の見回り兵の当番をにないがてら、施設の把握と動きの確認を進めた。


 権力者も集まり始める中、貴族や大臣への敬礼や同業の兵への会釈えしゃくなど、馴染むための所作もガノンを真似て覚えていった。俺と同じように兜を身につけた兵も珍しくなく、目立たずに済んでいると思う。



 だがガノンはいつもの鉢金はちがねのみ。少し心配になって尋ねる。


「……ガノンは顔を出してていいの?」


「うん。スタンダードな型の兜はどれも自分のツノが邪魔になるんよなー。これ、有角人ゆうかくじんあるあるね」


「いやその……俺はこれから、表向きは侵入者になる訳で……。俺を引き連れてて面倒なことにならないよな?」


「はは、大丈夫だって! そんくらいのリスクはチームでさばく」


 兜の向こうに見える彼の笑顔が、珍しくりきんでいるように見えた。


 その雰囲気を自覚したのか。彼は言い訳のように続けた。


「ゴメン。雰囲気固いかな、俺」


「……まあ、ちょっと心配」


「気にしなくていいよ。て言っても、か。――今は、俺が勝手にルークへ感情移入してるって事だけ分かってて。組織でも個人でも、絶対的に味方だ」


 熱い言葉は彼らしくない。だが伝わってくる誠意は本物だと分かる。


「……ありがとう」



 悪趣味な考察だが――有角人は突然変異で生まれる優秀な人間と聞く。日頃接していてもツノ以外に気になる点は見当たらないが、故郷じゃその目立つ特徴で嫌な思いもしたんじゃないか。


 だから学園卒業を機に帝都へ出たのでは? 実際、故郷の窮屈さで共感し合えたし。ならば俺の顛末てんまつに同情して力を貸すのも納得できる。わざわざ競争率の高い帝都の防衛団をこころざした強い理由があるなら別だが。


 ……本音を言えば、協力の親身さが不思議だった。すぐに意気投合したとは言え、関係はまだ短いのにと。だから、個人的な理由があると明かして貰えてホッとしている。大変失礼な俺の人間不信を、酷く悲しく思った。




 敷地を二周して見回りを交代し、拠点の部屋に戻って最終確認と待機へ。重い兜も一旦外し、りがちな首と肩を休める。


 他のメンバーと話していたガノンが戻ってきた。


「開会式が終わって、総括報告中らしい。ランチ会の監視担当がバタバタし始めるけど、俺らの仕事はその後な」


 総括報告は全員参加、その後昼休憩が挟まる。午後は地域や分野に分け、同様の項目を詳しく共有していく。この時は人員が出入りするので、それに乗じて対談を行う予定。



 俺達も軽く食事を摂り、人々がランチ会場へと消えた静かな窓の外を眺めているところで、バデリーさんが現れた。


「いやはや遅れました。仕事の都合ですゆえ、ご容赦下さい」


 公的な下働きの人員を装った、小綺麗な作業服姿だ。帽子を外せば、後ろへ流した紺髪と厳つい銀のメッシュがあらわになる。もちろんカタギ向けの態度だが、眼光のギラつきと歪んで見える口の端を不穏に感じた。



 会釈を交わして早々、彼は理由を語る。


「ルーク氏。ご教示下さった『ウッズ・タオの腰巾着集団』――やはり面白い事をしていると分かって参りましたよ」


 深いため息と本音がダダ漏れた。


「もう嫌だ……。何ですか?」


「いやぁ、内容は後々のお楽しみと致しましょう。一般人の設定にしては知りすぎてしまう。時間も少ない事ですし、ここは一旦、対応報告のみとさせて頂きます」


 不服ながら身を引く。バデリーさんはおもむろに椅子へと腰掛け脚を組んだ。


「ボクらの得た情報は、先ほどエバッソ氏へ詳しく共有しご相談致しました。その結果、予定通りの協力体制であるロデュセン家に加えて、うちからの人員をランチ会へ潜入させております」


 ガノンが窓の向こうを今一度見下ろし、深刻な口調で返す。


「……手下四人は先に動いてるなら、タオ親子側も、この初日から動き始めたっておかしくないっすね」


「ええ。誰に何を仕掛けるかは掴みきれておりませんが」


「密談とか裏取引なら歓迎晩餐会とその前後が絶好の機会だろうけど、対談でつついた後になるからなぁ……。今のランチ会が、油断した行動を観察できる最後のチャンスって事か」


左様さよう。奴らのたくらみが想定より進んでいる可能性が出てきた事もあり、目は多い方が良いという話になりました」



 ちょっと待てよ?


「もう結構な情報が集まってるって事ですよね。このまま泳がした方が色々知れるようにすら聞こえましたけど……俺が出る必要、なくなってたりします?」


 小馬鹿にした微笑で否定された。


「残念、逆と申し上げても良い。ルーク氏の働きは必須ですし、奴らを悠長に見逃しておく事もできかねます。対談の結果を以て我々の体制を盤石ばんじゃくとし、迅速かつ効果的に釘を刺したい、と申しておるのです」


 思ったより急ぎだからこそ、今日のうちに情報を取れるだけ取ってすぐ動く……って認識でいいか……? 曖昧に頷いたところに続けられる。


「ルーク氏は捜査網における陽動役であり、敵方への抑止力となります。えて『手下が帝都で動いていると噂で聞いた』くらいの認識でのぞんで頂きたい」


「どうしてですか。知ってた方が的確に問い詰められると思いましたけど」


「それこそを避けたいのです。せっかく対面するだけで動揺させられるのに、結果ありきで根拠を集めては勿体ないでしょう。威圧的に手探りをして下さいませ。何より、別の切り口の捜査としてはその方が面白いような気がするのですよねー」


 バデリーさん……。浅慮せんりょで自分勝手な言動が目立たないか? お楽しみだの面白いだの、独特なお前の感性を話に混ぜるなよ。ムカつくから。



「……だったら、今は俺に聞かせないで欲しかったです。変に気が散りましたよ。まあもう聞いちゃったし今更何でも良いですけどね。チッ」


 ついログマのような舌打ちが出た。バデリーさんがやけに面白がる。


「ふふ。またもや変わった肝の据わり方をしておられるようで」


「いいえ。至って平凡なヤケクソです」


「ハハハァ! 何故です? ご自分の利益のため、ウッズに一発くれてやるために参加するとおっしゃっていたじゃあないですか。ボクが外野の行動を伏せたとてお気になさる必要はございません。引き続き通常営業でお願いしますよ」


 苛立ちは煽られるが、言っている屁理屈には一理ある。そう、俺は自分の意思で、自分のために、ここに来たんだ。周りの事は付帯ふたい情報。目的はブレない。



 以前食らった叱咤激励に、今こそ正面から返事をしよう。……ちょっとだけ、レヴォリオの不遜な雰囲気を借りようかな。


 底意地の悪い笑顔を見せた。


「大丈夫。ちゃんと、本気で勝つために考えてます。俺にだって、一般人として守りたい平和がありますから。その他の皆さんの期待する結果は保証しませんけど」


 バデリーさんは片眉を上げ、やはり楽しそうに首をすくめた。


「ふーん。相変わらず鬱陶しい予防線を張ってはおられますけれど、やはり正念場の闘志ばかりは信頼に値するかな」




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