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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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34章274話 対談三日前、されど呆ける



 飲み会の翌日、三月十四日。代償にだるさは残ったが朝食に参加できた。平凡な生活の一幕だけど、四人との輪に入れただけで、今の俺には充分だった。


 昼は少しだけ社内の書類作成に参加した。俺の早々の復活を喜んだダンカムさんがお菓子をくれた。ウィルルの「可愛がられてるねえ」という気の抜けた感想が妙に的を射ていて、ログマと共に爆笑してしまった。




 皆から元気を貰い、夕方には予定通り、防衛団北区支部へおもむくことができた。



 応接室でガノン兵長を隣に据え、相変わらず平静すぎるエバッソ副長が話し出す。


「体調が悪そうに見えるが」


「すみません、心配には及ばないです。ここに来れてるので元気な方です」


「ならいい。先ほど、タオ家御一行(ごいっこう)が予定通りゼフキに到着したぞ。覚悟はできてるな」


「ぼちぼちですね」


 嘘です。ここ数日は正直それどころじゃありませんでした。


 しっかし、今あいつはすぐ近所にいるんだな。嫌だなぁ。……ってこの脱力感は何だ? もう少し緊張して張り切るべきでは? 家族の件の疲労が尾を引いてるとは言え……。



「段取りも出来ている。説明といこうか」


 小さく頷いたエバッソさんから、薄い冊子と一枚の紙が手渡される。


「まず前提。招致しょうち名目めいもくは『北部六市行政会議』。毎年春前に行われている定例会議の規模を拡大して利用する。地方貴族とタオ家を公務でゼフキに縛りつけ、その間に調査と追求を行う。ルーク君とウッズの対話もこの一環だ」


 やっぱり学園の授業のように他人事……と腑抜けつつも、促された通りに冊子をめくる。



 会議の案内らしい。開いたのは参加予定者一覧の項。バヤト北部の地方貴族が揃う中、ロハ伯爵に次いで、ロハ子爵カッツェム・タオ卿、ウッズ・タオ卿──宿敵親子の名が確かにある。


「ルーク、ここ見てみ」


 ガノンが指で示したのは運営側となる議会の欄。見覚えのある名前があった。


「ゼフキ北区伯爵ニール・ロデュセン卿……それにゼアナクス・ロデュセン卿?」


 アピラの父と兄だ。驚いてすぐ、エバッソさんが教えてくれた。


「会議の主題は北部地方の農林水産業なんだ。事実上の運営は帝都貴族で、環境分野が専門のロデュセン家もその一翼いちよくを担う。だから彼らも引き込んだ。既に成果を挙げている」


「えぇっ、本当ですか!」


「ああ、上位貴族を上手く転がして会議日程の延長に漕ぎつけたのは彼らの働きだ」


「そんな事できるのか……確かに社交性は高い印象ですけど……」


「期待以上だよ。あの一家の能力と存在感なら、あと少し目立つ功績があれば、領地拡大か陞爵しょうしゃくもあり得るな。会議期間中も貴族の立場から協力して下さるぞ」


 決してあなどってはいないけど、想像以上に凄ぇ人達とのご縁だったんだな……。



 しかしロデュセン家はまだまだ不安定なのでは? なんて俺の気掛かりを見抜いたらしく、ガノンが笑う。


「『アピラ復活の恩義に、我々が先んじて報いよう! 貴族を隠れみのにした大罪人に制裁を!』って、元気も正義感も全開だったよ。あの一家、熱血だよなぁ」


「あはは、想像つく。……もう感謝しか出来ないや」


 初対面で過去を明かした時は怖かったけれど、信じて良かった。そして実際に味方してくれたのは、チーム全員の協力と、受け取り糧にしたアピラ嬢の再起があってこそ。俺はとんでもない果報者だよ。



「ルーク君がウッズと対談するのは十七日、三日後の週明けだな。丸一日空けてくれ」


 話は、冊子と共に手渡された別紙へと移る。こちらは俺の動きに焦点を当てた資料のようだ。


「そこに書いてあるのは目安だ、臨機応変に動くつもりでいなさい。ここでは、聞き出したい情報を重点的に確認しよう。ペアルコ王国と兵器の計画に関する事なら全て……と言えばそれまでだが」


 エバッソさんの端的な説明とガノンの親切な補足、俺の質問攻めをまとめるとこうだ。




 国が公的に売国や侵攻計画の疑惑へ対処するには、他の貴族や諸外国の不要な反感をまねかずに済むくらいの理由と動かぬ証拠が必要。


 水面下で動ける国の諜報ちょうほう機関『あかの鉄槌』と必要悪組織『ハーヴェスト』は、そこを目指して動くための手掛かりを欲している。


 ――という大前提の元、ほぼ確定で関与しているウッズを精神的に掻き乱し、情報を落とさせるのが俺の仕事というわけだ。



 ロハ市関連では、タオ家が手引きしているペアルコ(敵国)の工作員の拠点や、今後の行動計画を具体的にしたい。効果が出やすい為、情報の優先度はこれが最上位。


 それ以外の関係者、支援する金品の動きを透かすのも有効。調査が新たな角度で進められる。


 しかし俺はウッズにとって『分不相応ぶんふそうおうに名声を得ているだけの憎い平民』だ。奴の売国行為について一切知らなければ門前払い、知りすぎていれば背後の権威に気付かれる。


 そのため『個人的にタオ家の噂を掴んだので、防衛団員の友人に無理を言って和解のための場を作ってもらった』という設定で話す。俺個人にタオ家を潰すほどの力はないけど、ウッズの言い逃れも許さないぞ、というバランスだ。



 ……そこからどう話を転がすかは、ほぼ出たとこ勝負となる。事前情報や話術は色々と伝授されたが、あのウッズと俺でどれだけ会話ができるのかは未知だ。




 エバッソさんは話をこう締めた。


「つまるところ、ウッズ本人の口から話させる事が大事なんだ。何がどう繋がるか分からないから、内容は問わない。俺やバデリー君も別の場所で盗聴する予定だし、万が一は誰か駆け付けるが……より多くの成果を得られるように粘れ」


 曖昧に笑った。戦闘ならまだしも、駆け引きや誘導尋問(じんもん)込みの話し合いには自信がないな。



 ……まあ、どうせ襲われる予定だったんだろ。殺し合い以外の方法で迎え撃てる幸運を喜ぼう。この諦めこそ覚悟か?


「分かりました。当日までに色々と考えておきます」




 外に出ると、薄暗闇の中を雪が舞っていた。春は近いと感じていたが、今夜は冷えそうだな。


 防衛団北区支部の正門を抜けたところで、三人組と鉢合わせた。その真ん中の人物と目が合う。


「おや」

「あれっ。バデリーさん」


 後ろの二人は部下かな。会議直前だ、彼らも防衛団に用事があるのだろう。



「何かとありがとうございます。週明けはよろしくお願いします」


 適当に会釈えしゃくしてすれ違おうとしたが、バデリーさんに止められた。


「これぞ渡りに船! ルーク氏にお尋ねするのが一番早い」


「え、どうしました?」


「この四名、ご存知でしょうか」


 見せられたのは、隠し撮りのような角度で撮られた写真。――それでも充分、見慣れた不快な奴らの顔は分かる。


「うえっ。……元同僚です。ウッズ・タオの腰巾着集団……」


「おお! やはり敵対関係でございますか」


「まさか、あいつらも今ゼフキに?」


「ええ。つい先ほど、そこいらで撮らせた物です」


 目を糸のように細めて笑うバデリーさんとは対照的に、顔をしかめてしまった。俺が兵団を辞めて二年以上経つが、こいつらは変わらずウッズに付き従っているのか。……兵団じゃ、俺とは別の被害者が出続けているんだろうな。



 バデリーさんは写真を今一度眺める。


「ウッズ氏とは別行動の集団だったのですがね。ウッズ氏が彼らへ連絡機を繋げたと報告が入ったものですから、これを用意してせ参じた次第でございました」


「……手下へのご褒美旅行なわけないですもんね。自分が会議の間、何か良くない仕事をさせるのかな」


「同意見です。それはそれは愉快なお仕事でございましょう。タオ家と同様、会議終了の翌日二十二日まで滞在する模様。泳がせてみるのもまた一興ですかねえ……ふむ」


 バデリーさんは写真をふところにしまう。


「何はともあれ、早速の確認ができて助かりました。お陰様で、エバッソ氏とも話が早いかと。既に四名への監視は付けておりますし、適宜ボクからもご連絡致しますね」


「こちらこそ……。引き続きお願いします」



 俺とすれ違いかけた彼が、肩越しに問う。


「あぁ――念の為。彼らの身分は?」


「……全員、平民です」


「ん。どうとでもできますね」


「う」


「ご心配なく。ボクら、後始末は得意です。あっ、ご希望なら、少々恨みを晴らす機会をご用意しましょうか? ハハハ! では失敬」


 やらねェんだろうけど、と言わんばかりの明るい笑い声を残し、バデリーさん達は防衛団支部へと去った。



 ……嫌いな奴でも、顔見知りが殺されるのは抵抗がある。かと言って強くかばう気にもなれなかった。モヤモヤしちゃうな……。


 まあ、今すぐどうこうって話じゃない。俺は直接関わらずに終わるかも知れないし。



 やましい葛藤を先送りして、帰路についた。





 

 困った事に、俺の緊張感の無さは次の日も継続した。今も裏庭で、目の前の稽古に釘付けになっている。


 ログマがダンカムさんに、格闘術でボッコボコ……もとい、厳しめの稽古をつけて貰っているのだ。



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