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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第5部 雪の下で芽吹けるか

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27章212話 賞与




 言われるがままに準備をして、豪華な食事を並べたテーブルを囲む。――八人か。俺が今まで見た中で最多だ。そして皆ちょっとお洒落している。ログマは素で華があるから、地味なのは俺だけ。洒落た着替えもないんだけどさ。



 レイジさんとダンカムさんがテーブルの脇に立つ。レイジさんが時計をチラリと見た後、皆を見回した。


「さて! 今年の冬至祭、兼忘年会を始めるぞ。一応、代表取締役として話をするから、ちゃんと聞いとけよ」


 レイジさんは懐から手帳を取り出してめくったが、直ぐにしまった。


「仮決算が終わりました。社員の皆様のお陰で、二一二二年は目覚ましい発展の年になりましたぁ。前年比――うん、細かい数字はいいか。結論だけ言うわ」


 我らが代表取締役は、眼鏡のブリッジを上げてニヤリと笑った。


「喜べお前ら、ボーナスが出るぞ」



 うおお! と声を上げたら俺だけだった。空気を読んだ筈なのに恥をかいた。何故。


 戸惑い見回した俺と目が合うと、ウィルルはきょとんと首を傾げた。


「ボーナスって何?」


「あっ、ウィルルは初なのか? 給料とは別で会社から貰えるご褒美みたいなお金だよ」


「れへえええ! ごほうび? みんなに? 貰っていいのお?」


 奇声を上げて喜びかけたウィルルを隣のケインがいさめ、ログマもまた頷いた。


「待って。ああ言う損得勘定の上手い人がお金を配ってる時は、絶対裏があるんだよ」


「同感だ。入って一度もボーナスなんて無かった、どういうつもりだ」



 レイジさんはげんなりとため息をついた。


「もう少し俺を信用してくれてもいいんじゃねえかな……。ルークの反応が正常だろが」


 カルミアさんが顎に手を添え考える。


「うーん……何か嫌な仕事の前払い金じゃないなら……利益率の調整とか?」


 ダンカムさんが腕を組み豪快に笑う。


「ガッハッハ! 当たりだよ! 君達が荒稼ぎしたから、仮にも福祉サービスを提供する企業としては見栄えが悪いくらい利益が出ちゃったんだ。それを社員に還元するって話だよ」


「あー、弱者から搾取してるように見えるもんね。でも既に、今年は長期出張やら社員旅行やら、羽振りが良かったと思うけどな」


「それでも余るのさ。特に先月のはデカい」


「うへー。凄いね。……じゃあ素直に喜んどくか。うおー」


 わざとらしく両の拳を握ったカルミアさんを始め、他のメンバーもソワソワし始めた。



 そんな喜び慣れない皆を、レイジさんは優しい苦笑で見回す。


「稼ぎすぎて国からの補助金がカットされたりはしたが、お前らが広告になったお陰で支部も潤ったから、結果的にこうなった。このパーティの費用も全額会社負担だ」


 そして斜め下へ顔を背けた。


「今年は激動だったな。――年始に連続で二人の仲間を失って、会社もお前らもギリギリって時に、春に新しいリーダーを迎えて新チームになった。正直俺自身、一か八かの賭けだった。それぞれ本当にキツかったと思う。充分に支えてやれたとは思ってない。不甲斐ない代表取締役で、すまなかった」


 雰囲気が暗くなる前に、レイジさんは締まった顔を上げる。


「だがお前達は、全部を良い方向へ転がして見せてくれた。自律して、助け合って、成長してくれた。報道も、業務提携も、防衛団との共闘も、表彰も、会社史上初の事だらけだ。それらが世間に認められたからこそ、こうして利益が出ている。――お前達自身が掴んだ栄誉だ。俺はお前達を誇りに思う」



 少し離れた横でダンカムさんが静かに泣いてる。何か俺までつられちゃいそうだ。


 しかし感動に浸り切れないのは、年始の話。二人も一気に……やはり、昨年の冬には何かある。いつか聞いてみよう。



 取締役はふところから厚い封筒を複数出して、悪戯いたずらっぽくニカッと笑った。


「俺にはお前らの繊細で面倒臭い心が分からん。俺の立場と性格でお前らへむくいるには、金が一番分かりやすいだろ? フハハ! ――以上! さ、配るぞー」



 真っ先に手渡されたダンカムさんは赤くなった目を丸くした。


「……え、僕のもあるのか」

「当然だろ。俺もメンバーも精一杯で、お前がいなきゃ成り立ってない」


 少し照れ臭そうに押し付けられた厚い封筒を見て、涙脆いマネージャーはよりいっそう泣いてしまった。いつも力強く明るい人だが、俺達に見せない苦労が沢山あるんだろう。感謝を示したくなって自然と拍手を送ると、皆続いてくれた。


 次は手前の俺だった。無言で手渡された封筒はやはり厚い。軽く頭を下げて受け取るとそこに、メモが貼り付けてあった。鋭く乱暴な手書きの文字が書かれている。


『お前を採って良かった』


 こらえる間もなくウッと呻き泣いた俺を、皆が笑う。そんな皆も、それぞれの封筒とメモを受け取ると変な反応をしていた。



 各々を称える拍手が途切れない中、アピラにも封筒が手渡される。


 すっかり他人事のように微笑んでいた彼女は二度見して口元に手を当てた。


「わ、わたくしですか?」


「貴族にとっちゃ端金はしたがねだろうけどな」


「受け取れませんわ。私に下さるくらいなら、支部の方々に還元して下さいまし」


「支部の奴らの分もたんまり用意してあるって。――あんたが来てくれて、この冬が少し温かくなった気がするよ。気持ちってやつは金額じゃないだろ? 一年間お疲れ様」


 投げるように渡されたペラペラの封筒。俺達にも異論はなかった。彼女の一年をねぎらいたいと素直に思える。今一度送られる拍手の中、アピラは深く頭を下げた。



 テーブルを一周して元の位置に戻ったレイジさんは、満足気に腕を組んで言った。


「とは言え! 金で誤魔化せないくらい、物凄くしんどい年でもあった! 俺は五年分くらい老けた! こっからぜーんぶ忘れるぞ! ――景気づけ、頼むぜお嬢様!」


 水を向けられたアピラは、封筒を掲げて花が咲くように笑ってみせる。


「ええ、盛り上げ役の賃金は既に頂きましたもの! 私にかかれば、今年の苦悩を吹き飛ばすなんてお茶の子さいさいですわー!」


 勢いに笑わされる俺達を見回して、アピラはワイングラスを手に持った。


「おほほ、一般企業の慣習は予習してましてよ? えーっと……部外者が僭越せんえつながら、乾杯の音頭を取らせて頂きます! 皆様ご唱和を。――イルネスカドルの飛躍を祈念して、乾杯っ!」


 八人バラバラのグラスと掛け声が、いつもより明るい照明へと掲げられた。



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