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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第5部 雪の下で芽吹けるか

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26章203話 ド下手クソォ!!




 階段を上がり、食堂へ。


 ドアの音に反応してこちらを向いているのは、いつものメンバーとアピラ。全員席に着いている。雑談がはかどったか? 何にせよ都合が良い。



 ふらふらと近付く俺を見兼ねたらしいログマが、隣の椅子を引いていたわっているっぽい言葉をくれた。


「……随分やつれたな」



 そうなんだよ。だから話したい事を話すよ。力なく座りながらぼやいた。


「海だった……」


「は?」


「ミロナさん、只者じゃねえ。海みたいな人だった」


「どういう意味だ……?」


「穏やかで静かで広くて、何でも受け入れますよーって雰囲気のくせに、油断するとあっという間に、見慣れない生物せいぶつばかりの真っ暗な海底かいていへ持っていかれそうになるんだ……。何が母なる海だ、人は溺れ死ぬんだぞ、おっかねえ」


「分かりそうで分からん例えだな」



 ブツブツと言っていると、カルミアさんも眉間に皺を寄せてこちらを覗き込んできた。


「うわ、酷い顔。やっぱり泣かされたのか」


「酷い顔の泣き虫で悪かったな。でもこれは俺が全力で戦った証拠なんだ」


「……そっか、お疲れ様。珍しく語彙力を総動員して悪態あくたいついてたけど、そんなに嫌な思いをしたの?」


「凄く有益だったよ。手応えしかない。だからこそキツすぎて悪口みたいになってるけど、感謝感激だよ。その代わりにめちゃくちゃ疲れた。それこそ海を泳ぎまくった後みたいに、どっと疲れたんだ……」


「さっきから妙によく喋ってるね……? まあまあ、休みなよ」


 ふう、愚痴ったぜ。いい感じ。



 さて本題。俺はあの人に言いたい事がある。またふらっと席を立って移動し、その足元にひざまづいた。


「アピラ! ――いや、アピラ師匠と呼ばせてくれ!」



 狼狽うろたえて戸惑いを口にするメンバーとは対照的に、アピラは楽しそうにノってきた。


「あら! 敬称はご遠慮下さいと申しましたが『師匠』は気分がいいですわね。ギリギリセーフ判定と致しましょう」


「やったぜ! 俺はアピラ師匠に、沢山教えをうべき事がありそうなんです。どうぞよろしくお願いします! その分、師匠の希望も全力で叶えて見せましょう!」


「ふふっ、頼もしい! よく分かりませんが、ルークさんの力になれるのであればわたくしも嬉しいですわ。わたくしの希望……ええと、夢が広がってしまいますわね。どれに致しましょう……」


「急がずとも大丈夫。明日、作戦会議の時間を下さい! そこで師匠の希望を色々聞きたいです。俺達の都合と擦り合わせて、計画を立てます。最高の一ヶ月にしてやりましょう!」


「心強くて嬉しいお言葉! ダンカムさんがおっしゃった『肝が据われば頼もしくて気立てが良い』と言う評価を裏付けるよう!」


「ハッハッハッハ。まあ、俺が本気を出せば、ね……!」



 ケインが深刻な顔で聞いてきた。


「……ルーク、大量にお酒でも飲んだ……?」


 立ち上がって親指を立てて見せた。


「シラフだ!」


「なら尚更……そのテンション、私と同じ病気に変化した可能性が……」


「おー、その発想はなかったな。でも可能性はあるかもね。バカで勉強不足な俺にはなーんも分からんぜ! 今後の様子を楽しみにご覧あれ! て感じで!」


「何それ、本気で心配してんのに……! 知らないから! バカー! アホー!」



 先に弁明するが、この時のクズみたいな態度は後ほど誠心誠意謝り倒した。ケインは涙目でしばらく膨れていたけどギリギリ許してくれた。それと、病気も変化してなかった。悪しからず。



 机に伏せたケインに代わり、ウィルルが好奇心十割で尋ねてくる。


「どうしたの、ルークじゃないみたいだよ? ルークはこう……いつも言葉を選んでて、不安そうで、本音を言わなくて、目を離すとすぐ落ち込んじゃう、優しい人なのに」


「うーん今のは結構効いたな! 優しいの一言で全部ひっくり返ると思うなよー? まあ仕方ないね、俺は実際にそんな感じだっただろうからね! ――でも今後は違うんだ!」




 テーブルに両手をついて、宣言した。


「皆様。俺はこれから、素直になります」




 変な沈黙の中、最初に反応したのはログマ。


「……あ? マジでお前、なんだ――」


「ストップ。『あ?』て返事、嫌いです。怖くて怯えてしまうので。控えて下さい」


「……なん……………………考えておく」



 素直な俺に、ウィルルの増援。


「私も嫌だなって前から思ってたけど、言っていいのか分かんなかったんだあ!」


「えっ」


 ログマが小さく声を上げていたが知らん。ウィルルに満面の笑みを向けた。


「だよなあ! 同じ気持ちを共有できるって嬉しい事だねえ!」


「……うふふ? うん! 嬉しいねえ!」



 ああ、また愚痴りたくなってきた。なあ聞いてくれよ。

「カルミアさん!」


「うっわ、名指し。何ですか……」


「俺は今何歳でしょうか?」


「二十……七歳です」


「ピンポン大当たり! 報酬はないけどね!」


「い、要らないので落ち着いて頂いて――」


「そう、二十七なんだ。子育てしててもおかしくない大人。なのに今更、育ち方から間違ってたと判明したよ! 救えねえ話だよなー! あっはっは!」


「い、いえいえ……そんな事ないと思いますよ……俺にはよく分からないですけど……」



「でもさ? 今更そんなこと言われてもさあ、ねえ? でも間違ってたとか言う思考も極端でシロクロで間違ってるらしいし? はあ? 俺何言ってんの? うはは! 訳わかんねえ! つらい! しんどい! うわあああん!」



 テーブルに伏せて頭を抱え、ストレスのままに呻き声を垂れ流した。ウィルルと師匠が慰めてくれていた気がする。



 耳に届いていたカルミアさんとケインの会話が記憶に残っている。


「ケイン。カウンセリングがヤバい封印を解放するってこういう事?」


「そうなんだろうけど、私の考えてたのとは全然違うかな……」


「そう…………俺はやっぱり、カウンセリングが怖いよ」


「私も怖くなってきた。ルークが」



 ばっと身体を起こした。なんか皆ビビっててウケる。でもそれどころじゃなかった。


「……吐きそうだ。しんどすぎて。それに、いきなりすごく眠くなってきた。撤退です。皆様、御付き合い頂き、誠にありがとうございました。ではまた夕方に会いましょう。ごめんあそばせまた逢瀬おうせー」


 適当な挨拶を吐き捨て、軽やかな足取りで去った……と思う。あんまり覚えていない。





 自然と起きると、自室は既に暗かった。ベッドサイドのランプで時計を確認すると、十六時過ぎ。丁度いいくらい眠れたな。


 ――と背伸びした瞬間、怖いくらいの冷静さに襲われた。




 食堂に飛び出して行ったら、アピラ以外の皆が歓迎会の準備を始めるところだった。俺の姿を見てビビってる様子が心底申し訳ない。


 勢い良く深々と頭を下げて正気しょうきを示す。渋々と言った様子で集まってきた皆に、モジモジと事情を説明した。



「なんか……カウンセリングで、これからは自分の素直な気持ちを出していこうって話になって……。その後、もしかして今、結構良い流れ来てんじゃないかなって思いついて……成長できるかもってテンション上がっちゃって……」


 カルミアさんが合点がいったというような声を上げた。


「あー。師匠教えて下さい! とか言ってたのはそういう事か。お嬢の肝が据わってて、面白がってたからいいけど、豹変して何を言い出すのかとヒヤヒヤしたよ」


「う……後で謝らなきゃな……」


 カルミアさんはアピラを『お嬢』と呼ぶことにしたんだな。話が逸れるから言わないが。


 ウィルルが不思議そうに訊く。


「えっと、ルークは素直になろうとしたんだよね。あっちのルークがホントって事なの?」


「いや、どっちかと言うと異常。凄く疲れて追い詰められてたから、脳内麻薬ダバダバだったんだと思う……。その上、皆に自己開示すべきとか、もっと明るく振舞うべきとか、普段から思ってたからこそ加減が分かんなくなって、気付いたらあんな感じになっちゃってェ……」


 不貞腐ふてくされた様子のケインはそれでも優しい。


「……シラフって言ってたけど、薬も飲みすぎてないよね?」


「うん……。薬の過剰摂取はしてないし、病状の変化ではないと思うし、多分狂ったわけでもない。きっと長年抑圧してたアレコレが一気に噴き出しただけなんだ」


「じゃあもう普段通りに戻ったのね」


「はい……。二度と起こらない事だと思うので心配しないで下さい……。この度は、大変見苦しい姿を見せ、振り回し、申し訳ないと――」


 怖い顔のログマがついに口を開いた。


「あれから数時間、困惑した俺達は散々気を揉まされたわけだが、要はお前のカウンセリングのストレスを盛大にぶちまけられただけだったのか?」


「……そうですね」


「それで? 当時のお前が『明るい自己開示』をしようと思った結果がアレだったと?」


「…………そう言えますね」



 丁寧に逃げ場を無くしてトドメを刺される。


「こんッのド下手クソォ!」


「本当にすみませんでしたああ!」




 話が理解出来ても、実行出来るかはまた別。一瞬調子に乗ったけど、まだまだ先は長いと痛感したのだった。


 ただ、あれだけ迷惑をかけたのに皆は変わらずに接してくれた。あれこれ文句は言われたが、それでお終い。罰を与えたり、期待を押し付けたりして、俺を侵害しない。それに驚き、改めて安堵した。


 これが実感できたのは不幸中の幸い――なんて、一人でさっさと前向きになってたら流石に怒られるかな。まずは反省します。





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