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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第5部 雪の下で芽吹けるか

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25章189話 ウィンターブルー



 椅子を向かい合わせ、ダンカムさんと共に腰掛ける。早速質問を投げかけた。


「話せる範囲でいいんですけど。その方、いつ亡くなられたんですか?」


「昨晩らしい」


「じゃあ葬式にはまだ早いですよね……」


「うん…………レイジの方から遺族に連絡した時、すぐお詫びに伺わせてくれって申し出た。……事情や社歴に関わらず、あいつはいつもそうする」


 いつも、か。苦しげな返答に堪らなくなり、質問の方向を変えた。


「支部って五つありましたよね? どこの支部の方だったんですか」


「本部と同じ形で、共同生活をしながら手工業に従事してもらってる支部の社員だよ」


自分達と重ねてしまうな。関わりがないとはいえ、同僚であり闘病仲間でもあるわけだし。


 暗澹あんたんとしてくる気持ちは置いておいて。


「俺達は殆ど支部と関わりないですけど、ダンカムさん達管理職の方々は交流してるんですか?」


「たまにヘルプで行き来する程度はね。ルークは支部担当マネージャー達と会ったことないか?」


「そういやそうですね……」


「そうか。最近彼らが本部に来たのは君達が不在の時のヘルプだったもんな。支部とは言ってるけど各々独立の仕組みで活動しているから、現場の感覚では別団体みたいなものだよね」


「――でもレイジさんは違いそうですよね?」


 彼は頷き、心配そうに語った。


「レイジは取締役だから当然かもだけど、全事業部に顔を出してる。全社員、全利用者の顔と名前を覚えてる。あいつの心身の強さは化け物だけど、やっぱりこういう時は辛そうだ」


 眉間に皺が寄る。そりゃそうだよな。ドライなようでいて、思い遣りのある人だから。



 次に聞きたい内容は言葉を選ばなくては。目を揺らして考えていると、ダンカムさんの方から切り込まれた。


「何か気になる事があるなら、遠慮なく言ってね」


 彼の表情は曇っていたが、いつも通り素直で優しかった。それに甘えて、素直な不安が零れる。


「――俺達のせいですか」


「え……どういうことだい」


「俺達、随分話題になったじゃないですか。ポジティブな話題ではありましたけど……嫌な気持ちを刺激される人も絶対にいる筈だと思っていたんです」



 俺自身の経験が生んだ卑屈な不安だ。皆の闘病姿勢と自分を見比べて自己嫌悪に苦しんだ事が記憶に新しいから。


 俺が絶不調の時に、もし似たような病気に罹った人が活躍し称えられている話を耳にしたら少なからず嫉妬すると思うし、それ以上に、自分に絶望すると思う。自分も頑張るぞなんて思える元気はない。


 頑張って成功出来てる人もいるのに、俺ときたらどうだ。俺の人生が苦しい理由は病気じゃなくて、俺自身の無力なんだ。やっぱりね。――異常状態の脳ミソと余裕のない心にそんな気持ちが湧いたら、もう……。その最後のひと押しを、俺達が担ってしまっていたら……。



 皆まで言わなかったが、ダンカムさんには伝わったらしい。その上で彼はこう言った。


「僕は何も聞いていない。だから分からない。――もしそうだとしても、レイジは君にそれを伝えない」


 唇を噛んだ。気休めの否定をしないのが彼の誠実さであり現実だ。真実がどうでも、俺が他人の事情に足を突っ込んで不要なダメージを負う事は誰の得にもならないのだ。


 だがやはり彼は優しい。こう付け加えた。


「自ら命を絶つ時ってさ、生きることの全てが苦痛ってくらいの状況なんだろう。他の何を恨むという訳でもなく、ただ自分の人生に絶望するんだろう。……ルークも『あの時』は、そうだったんじゃないか」


少し躊躇い、無言で頷いた。彼は少し悲しそうに微笑む。


「ならきっと、君達の活躍を恨んで亡くなる人はいないよ。――君達は平和に生きるための行動をしたまでだ。それで救われた人が大勢いたから、国から感謝されたんだ。僕は、そっちに目を向けて欲しいよ」



 ふふ、と苦笑して静かにため息をついた。


「……そうですね。ダンカムさんに聞いてよかった、ありがとう。……もう一つ聞かせて下さい」


「なんだい?」


「レイジさんが『この時期は増える』と言ったのが気掛かりで。ダンカムさんなら詳しい意味をご存知かと」


 腕を組んで唸るダンカムさん。


「冬はね……。そう言えば、ルークは平気そうに見えるね?」


「はい。元々冬に苦手意識はないんです。だから余計に分からなくて」


「それは何よりだ、元気に越した事はない」


 彼はちょっと考えながら話し出した。


「ルークは『冬季うつ』や『ウィンターブルー』という言葉を聞いた事はないかい」


「初耳です。でもそういう言葉があるって事は、うちに限った話じゃないんですね?」


「そうだね。日光を浴びるのは精神的健康にいいんだけど、冬は日照時間自体が短くなるだろう? 寒さで活動が抑えられる事も相まって、鬱々とした気分や無気力なんかを引き起こすらしい。個人差はあるが、健常者にも起こる現象だ」


「なるほど……」


 俺も勉強を始めたから、日光が健康にいいのは知っていた。でも季節による変動までは考えていなかったな。年中冬で常に日が短い国なんかは大変だろう……。



 ダンカムさんは険しい表情で続ける。


「季節のせいだと割り切って春を待つだけ――とはいかないものだよね、色々と。本部チームは発足以来、五年連続で冬に死者を出してる」


「うぇっ……!」


「勿論、全て自殺じゃない。殉職もある。でも僕は、季節性の不調が原因だったと思ってる」


 事実なのだから仕方ないが、縁起でもない……!


 強ばった肩に、力強く手を置かれる。


「六年目の今年は過去最高に良い雰囲気で冬を迎えたけど……正直不安だ。ルーク、負担はかけたくないけど、頼りにしているよ」


「は、はい……」



 どこか縋りつくような眼差しで見つめられ、頷く他なかった。


 雪が降ったなどとキャッキャしている場合ではなかった。これから数ヶ月、冬は試練の季節と言っていい。



 ――俺が入社した四月、皆は長期の不調に悩んでいた。あれは冬の間に仲間を失った影響か? 当時の皆の話しぶりや、俺の採用枠がリーダーだった事から考えるに、その冬に亡くなったのは前任のリーダーなんじゃないか……?



 俺が皆に出会うほんの少し前、何があったのだろうか。


 入社してすぐの頃以来、久々に頭をもたげた疑問は、目の前の現実に対処するうちに、また頭の隅に追いやられていった。




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