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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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24章183話 ウィルルの門出はケインと共に




 オークションから一夜明け、翌朝の朝食後。片付けを済ませた流れのまま、食堂でぐだぐだと時間を溶かしていた男三人は、唖然とさせられた。



 全身バッチリ着飾ったケインとウィルルが、満面の笑みを並べて仁王立ちしているのだ。


「今からルルちゃんとお買い物ですっ」


「えへへー! お買い物なのです」


「二人揃ってお休み謳歌しまーす!」


「きゃー! お休みに、お友達と、お洒落してお買い物! 夢みたいだねえ、幸せだねえ!」


「夢より楽しい時間にするからね! 話題の可愛いスイーツも、夕陽が綺麗な場所も、バッチリチェック済み! ルルちゃんは安心して付いて来るだけでいいよ!」


「きゃー! すごいすごい! ケインちゃん、いけめんだよぉ!」



 ついていけないまま、ぼんやりと呟いた。


「ウィルルのその髪型、初めて見るなあ……」


 先に反応したのはケインの方だった。


「私がやったの! ルルちゃん、元々殆ど外出しなかったし、出る時はフードだから、綺麗な長髪が目立たなくて勿体ないなぁと思ってて。念願叶ったって感じ」


 ウィルルの白い長髪は、細かく編み込まれた後緩く二つに束ねられ、その後更に三つ編みになっていた。そしてその束の中に、瞳の色と同じ赤の細いリボンが編み込んである。

 何をどうしているのか全く分からないが、美しくまとまっている。もはや芸術の域、職人技だ。髪の毛職人だな。……ヘアデザイナー、か? 口に出さなくて良かった。


 ウィルルは照れくさそうに三つ編みの先を弄りながら、上目遣いで尋ねてきた。


「へ、変かな……?」


「とんでもない。凄くお洒落で似合うと思う」


「ふへっ……にぇへへへ……!」


 奇妙に可愛らしく喜ぶウィルルの横で、ケインもまた誇らしげだった。


「でっしょー! 私が想像してた以上に似合ってるもん、もう超可愛い! 美人さん! 我が社のアイドル!」


「ひゃああぁ、褒められすぎてほかほかになっちゃう……! 初めてこんなにおしゃれにして貰って、沢山可愛がって貰えて、ほんとに嬉しいなあ……」



 ケインの心底晴れやかな笑顔を見たログマは、眉間に皺を寄せた。


「おいケイン。調子が上がり過ぎてないか?」


「……う。今回は、自覚あります……これでも抑えてるんだけど、やっぱり分かっちゃう?」


 ウィルルがはいっ! と挙手した。


「私にお任せください! ケインちゃんの楽しい気持ちを解放しつつ、お金や元気は使いすぎないように、見守るよお」


 ログマはため息をついて顔を逸らした。好きにしろと言った様子だ。



 因みにその隣に座るカルミアさんは、髪も束ねずメガネを傍らに置いて、机に伏せた状態。虚ろな目は、一応女性二人へと向けられている。……と思う。朝食に出てきたのが奇跡なくらい、完全に燃え尽きていた。


 いつも皆を心配してくれるカルミアさんですら、この調子なのだ。代役をしてみることにした。


「……昨日まで大変だったんだから、二人もあんまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよ。寒さに気を付けて、休憩しながら楽しんできてね」


 二人は元気に手を振って食堂を後にする。


「あ、ルークがお兄ちゃんモードだ! 了解でーす、夕飯には戻りまーす!」

「行ってきまあす! わあーい!」



 二人を見送って、ふっと微笑みが浮かんだ。ウィルルが必死で戦ってようやく手に入れた幸せな日常が、華やかにスタートしたのだと感じたから。



 スケジュールボードに目をやると、レイジさんとダンカムさんの欄には既に休みの文字があった。


「あ、お二人も休みか」


 独り言のつもりで呟いたが、ログマが反応を返してくれた。


「今日は全員休みだ。女連中の元気が異次元なだけで、満身創痍で当然だからな」


「そうだよなぁ」


 俺も今日は休みの予定にしていた。勿論心身を休めるためだが、細かい用事が幾つかある。


「さてと。俺もぼちぼち出かけるよ。昼食には戻るつもり」



 席を立ったところで、掠れた声がした。

「ルークぅ……」


 机を挟んだ向こうで、死にかけのカルミアさんが呼んでいる。

「お、喋った。なに?」


 彼はボサボサの頭をのろのろと持ち上げる。乱れた髪の間から微笑みが覗いた。


「誕生日おめでとうございました」


 心底驚いた。

「……知ってたの?」


「前、何かの流れで話に出たのをたまたま覚えてたんだよ。昨日だったろ?」


「あ、うん……。俺、自分で言ったか。恥ずかしいな」


「やった、合ってたー。一日遅れだけど、お祝いは言っときたいと思ってさ」


「あ……ありがとう……。お陰でオークションの日を覚えやすかったよ」


「どうせなら良いイベントに被って欲しかったよね。無事終わった今だから言えるけど、随分可哀想な誕生日だなって思ってた」


「ホントだよなー。生誕を祝うどころか死を望まれた。ははは! 見てこれ。いかにもな感じになっちゃった」


 首元のネックウォーマーを引き下げて見せると、カルミアさんとログマが同時に顔を顰めた。

「うわお……確かに、いかにもだ」

「結構むごいな……」


 マティレートに絞められた縄の跡が首に赤黒く残った。回復術での応急処置を失念したせいだ。事情を知っていても尚、首吊り自殺失敗の生々しい証拠にしか見えない。経験上、これくらい酷い痣でも一週間前後で消えると思うが、それまで隠すのが面倒だ。



 へらへらと笑いながらネックウォーマーを元に戻して、軽く頭を下げた。


「今年からは誰にもお祝いを言われないと思ってたから、正直嬉しい。ありがとな」


「ふふっ、いえいえ」


 ログマの目が何か言いたげに泳いでるけど、今回は触れてやらない。



「――じゃ。行ってきます」



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