24章183話 ウィルルの門出はケインと共に
オークションから一夜明け、翌朝の朝食後。片付けを済ませた流れのまま、食堂でぐだぐだと時間を溶かしていた男三人は、唖然とさせられた。
全身バッチリ着飾ったケインとウィルルが、満面の笑みを並べて仁王立ちしているのだ。
「今からルルちゃんとお買い物ですっ」
「えへへー! お買い物なのです」
「二人揃ってお休み謳歌しまーす!」
「きゃー! お休みに、お友達と、お洒落してお買い物! 夢みたいだねえ、幸せだねえ!」
「夢より楽しい時間にするからね! 話題の可愛いスイーツも、夕陽が綺麗な場所も、バッチリチェック済み! ルルちゃんは安心して付いて来るだけでいいよ!」
「きゃー! すごいすごい! ケインちゃん、いけめんだよぉ!」
ついていけないまま、ぼんやりと呟いた。
「ウィルルのその髪型、初めて見るなあ……」
先に反応したのはケインの方だった。
「私がやったの! ルルちゃん、元々殆ど外出しなかったし、出る時はフードだから、綺麗な長髪が目立たなくて勿体ないなぁと思ってて。念願叶ったって感じ」
ウィルルの白い長髪は、細かく編み込まれた後緩く二つに束ねられ、その後更に三つ編みになっていた。そしてその束の中に、瞳の色と同じ赤の細いリボンが編み込んである。
何をどうしているのか全く分からないが、美しくまとまっている。もはや芸術の域、職人技だ。髪の毛職人だな。……ヘアデザイナー、か? 口に出さなくて良かった。
ウィルルは照れくさそうに三つ編みの先を弄りながら、上目遣いで尋ねてきた。
「へ、変かな……?」
「とんでもない。凄くお洒落で似合うと思う」
「ふへっ……にぇへへへ……!」
奇妙に可愛らしく喜ぶウィルルの横で、ケインもまた誇らしげだった。
「でっしょー! 私が想像してた以上に似合ってるもん、もう超可愛い! 美人さん! 我が社のアイドル!」
「ひゃああぁ、褒められすぎてほかほかになっちゃう……! 初めてこんなにおしゃれにして貰って、沢山可愛がって貰えて、ほんとに嬉しいなあ……」
ケインの心底晴れやかな笑顔を見たログマは、眉間に皺を寄せた。
「おいケイン。調子が上がり過ぎてないか?」
「……う。今回は、自覚あります……これでも抑えてるんだけど、やっぱり分かっちゃう?」
ウィルルがはいっ! と挙手した。
「私にお任せください! ケインちゃんの楽しい気持ちを解放しつつ、お金や元気は使いすぎないように、見守るよお」
ログマはため息をついて顔を逸らした。好きにしろと言った様子だ。
因みにその隣に座るカルミアさんは、髪も束ねずメガネを傍らに置いて、机に伏せた状態。虚ろな目は、一応女性二人へと向けられている。……と思う。朝食に出てきたのが奇跡なくらい、完全に燃え尽きていた。
いつも皆を心配してくれるカルミアさんですら、この調子なのだ。代役をしてみることにした。
「……昨日まで大変だったんだから、二人もあんまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよ。寒さに気を付けて、休憩しながら楽しんできてね」
二人は元気に手を振って食堂を後にする。
「あ、ルークがお兄ちゃんモードだ! 了解でーす、夕飯には戻りまーす!」
「行ってきまあす! わあーい!」
二人を見送って、ふっと微笑みが浮かんだ。ウィルルが必死で戦ってようやく手に入れた幸せな日常が、華やかにスタートしたのだと感じたから。
スケジュールボードに目をやると、レイジさんとダンカムさんの欄には既に休みの文字があった。
「あ、お二人も休みか」
独り言のつもりで呟いたが、ログマが反応を返してくれた。
「今日は全員休みだ。女連中の元気が異次元なだけで、満身創痍で当然だからな」
「そうだよなぁ」
俺も今日は休みの予定にしていた。勿論心身を休めるためだが、細かい用事が幾つかある。
「さてと。俺もぼちぼち出かけるよ。昼食には戻るつもり」
席を立ったところで、掠れた声がした。
「ルークぅ……」
机を挟んだ向こうで、死にかけのカルミアさんが呼んでいる。
「お、喋った。なに?」
彼はボサボサの頭をのろのろと持ち上げる。乱れた髪の間から微笑みが覗いた。
「誕生日おめでとうございました」
心底驚いた。
「……知ってたの?」
「前、何かの流れで話に出たのをたまたま覚えてたんだよ。昨日だったろ?」
「あ、うん……。俺、自分で言ったか。恥ずかしいな」
「やった、合ってたー。一日遅れだけど、お祝いは言っときたいと思ってさ」
「あ……ありがとう……。お陰でオークションの日を覚えやすかったよ」
「どうせなら良いイベントに被って欲しかったよね。無事終わった今だから言えるけど、随分可哀想な誕生日だなって思ってた」
「ホントだよなー。生誕を祝うどころか死を望まれた。ははは! 見てこれ。いかにもな感じになっちゃった」
首元のネックウォーマーを引き下げて見せると、カルミアさんとログマが同時に顔を顰めた。
「うわお……確かに、いかにもだ」
「結構むごいな……」
マティレートに絞められた縄の跡が首に赤黒く残った。回復術での応急処置を失念したせいだ。事情を知っていても尚、首吊り自殺失敗の生々しい証拠にしか見えない。経験上、これくらい酷い痣でも一週間前後で消えると思うが、それまで隠すのが面倒だ。
へらへらと笑いながらネックウォーマーを元に戻して、軽く頭を下げた。
「今年からは誰にもお祝いを言われないと思ってたから、正直嬉しい。ありがとな」
「ふふっ、いえいえ」
ログマの目が何か言いたげに泳いでるけど、今回は触れてやらない。
「――じゃ。行ってきます」




