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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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24章182話 ログマとカルミア




 ログマは機嫌が悪いことを顔と態度に出しながら、カルミアさんに挑む。



「……つくづくお前は、頭の回転が早くて、視野が広くて、最善策を考えられる奴だよな」


「お、褒めてくれてるの?」


「嫌味が半分以上だよ。その力を他人のためだけに使うのは何故だ。自分が動いて他人を助けるだけじゃなく、自分のために他人を動かすことも簡単にできる筈だろう」


「えー。人を動かすのって結構面倒だよ。自分で動いた方が楽だし向いてんの。ほら俺、ターゲッターだし?」


「戦闘中の役割や、今の呪いの話に限った事じゃねえ」


 ログマはカルミアさんを睨みつける。


「お前が血塗れで帰ってきて、何も説明しなかった事も忘れてないぞ。詳しくは知らんが、あれも結局は情報収集が目的。俺達という他人のためだったな」


「あー……あれも、自分でやりたくてやったんだけど……」


「それはそうだろうな。お前は脇役に立ちたがるが、自分を含めた全体を見て最善策を探せる奴だからな。ルークみたいな、自己犠牲で快感を得る変態とは違う」


 悪意のある流れ弾が急所を射抜いた気がするが、大事な話の最中っぽいから看過してやる。



 ログマはカルミアさんを睨んでいた目を逸らし、少し悲しそうに言った。


「――お前が人を殺したって話も同じなんだろ。めんどくせえ事情と、やりたいことがあったんだろ」


カルミアさんは答えない。それでもログマは続けた。


「……無理には聞かない。カルミアの行動には理由があると信用してる。だが今後は……必要だから、自分もそうしたいからと言って、一人で危険を冒すのはやめろ」



 カルミアさんは一瞬目を泳がせた後、頭を掻いてとぼけた。


「……なんでよ?」


「なんでって……」


「心配なの?」


 ログマの表情に余裕が無くなる。カルミアさん、分かってて意地悪してるな。


 だがログマは、俺を相手にする時よりも素直だった。深いため息をついて踵を揺らしたが、口にしたのはまっすぐな言葉。



「……ああ、心配だ。カルミアは良い仕事仲間だから、いなくなられると困る。――俺は万能で強い、多少は役に立つ筈だ。お前が必要だと思うなら使え。……変に隠して抱えんなよ、長い付き合いだろうが……」



 俺の涙は完全に乾いた。俺もカルミアさんには自分のために生きて欲しいと思いながら、適切な言葉が見つからないままだった。それを『心配』という言葉に乗せて『ログマが』言った。この上ない伝わり方だ。


 期待を胸にカルミアさんの顔を見上げると、意外にも彼は笑いを堪えていた。



 そしてカルミアさんは盛大に笑い出す。ログマはぎょっとして狼狽えた。


「何も面白い事は言ってねえぞ!」


「あっはっはっは――いや、ごめんごめん。気持ちは伝わったよ、ありがとうね。ぶふっ……事情を知りたいなら聞きなよ! 随分遠回りだね。嫌いな自己開示までしてくれて、ホント不器用だなあ! あはははは!」


「おい! ほんとに伝わってるか? 丁寧に話してやったのに嘲笑いやがって! 事情は無理に聞かねえって言ったんだよ!」


「え、じゃあ話さなくていいの?」


「………………お、教えろって言った時に何も喋らなかったのはテメェだろうが!」


「くくっ……タイミングとか心構えとか、色々あるでしょ。あの時は話したくなかったの。でもログマが知りたいって言うなら教えるよ。素直にお願いしてごらん?」


 もう完全にカルミアさんの掌の上。ログマは真っ赤になって声を絞る。


「くっ…………し、た……おしぇ……」


「妻が酷い殺され方したから復讐したんだ!」


「言うのかよ!」


 あまりにサクッとした打ち明け方に、横で聞いている俺の方がぽかんとしてしまった。俺に裏庭で話した時とは何もかも違う。なんで?



 勢いよくツッコミを入れながらも、内容の重さに俯くログマ。そんな事はお構いなしに、カルミアさんは話を変えた。


「そう言えば! 二人とも俺と話したい事があったんだよね? ルークは話せ、ログマは聞けって言ってたけど、何だったの」


 俺達は順に不服を申し立てる。


「呪いの話に決まってるじゃん! 隠したまま一人で抱えようとしやがって!」

「たった今聞かせただろうが! 馬鹿にした上に聞き流してたら許さねえぞ!」


 カルミアさんはきょとんとした後、また大笑いした。


「あははは……! なーんだ。二人揃って俺の事心配してたわけ? 可愛い後輩達だねー!」



 俺は殴りログマは蹴ったが、金属鎧のカルミアさんにとっては痛くも痒くもない。彼は楽しそうに笑い続け、それが落ち着いた時、小さく言った。


「調子狂っちゃうよ……。困るなあ。本当に困る」


 俺は聞かなかったふりで流すべきと思ったが、ログマは素直に反応した。


「なんで困るんだよ」


「……お返し出来ないから。身に余る幸福は一周回ってしんどい」


「うん……? 余計分からん。なんで返さなきゃいけなくて、なんで幸せなのにしんどいんだ」


「……なんでも何も、俺はそうなの。ログマには分かんないよーだ」


 ログマは不満そうに腕を組んだ。


「お返しする気があるなら秘密主義をやめろ。愚痴でも自慢でも洗いざらい吐け」


 カルミアさんはやれやれと首をすくめて彼をおちょくる。


「結局もっと知りたいって話じゃん。俺、自分語りはあんまりしたくないんだけどな。ログマがそんなに俺と仲良くしたがってたなんて思わなかったなー」


「違ぇよ! 溜め込んで病まれると仕事に支障が出て困るんだ!」


「はいはい。ログマもちょっとはルークを見習いなよ。ふふっ……知りたい知りたいってしつこく泣き喚かれた時には根負けしちゃったよ」



 この流れ弾は看過できない!


「おい! それはかなり語弊があるよな?」


カルミアさんは白々しく首を傾げる。


「あれれ。……トモダチだろ? 違うのかよ? 違うって言ったら許さないかんな?」


「わああ! そのセリフこするな!」


 意地悪くニヤけたログマがカルミアさんへと寄る。


「面白そうだな。おっさん、詳しく話せよ」


「あっ、丁度いいね。早速一つ秘密を吐いちゃおう。聞いてよ、ほんと鳥肌立つから」


 結局最後に掌の上で踊らされるのは俺だった。なんでだよ!


「やめろやめろ! 絶対言うな! 俺の必死の泣き落としを茶化しやがって、酷ぇよカルミアさん!」




 静かな夜道を騒がしく歩いていく。油断しきったくだらない時間が、本当に嬉しかった。



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