24章180話 俺の『正義』の後始末
三人でスラムを抜け、会社が面する河沿いのまっすぐな通りへ。いつも人通りの多い道だが、今は日付が変わる手前の深夜。人影は少なく、日頃は気に留めないような自然音を聴くことができた。
雰囲気は違っても、見慣れた帰路だ。気が緩んだところで、腰元のポーチを探る。さっき貰った物を取り出し眺めていると、カルミアさんが気付いて微笑んだ。
「良かったね。友達できて」
「まだ友達になれるか分からないよ」
「相変わらずだなぁ。でも嬉しいでしょ?」
「……まあね」
別れ際、ガノンさんが俺を名指しで呼び止めて、二枚目になる名刺をくれた。前回受け取ったのとは違って、裏に手書きで連絡先が書いてあった。
『前回会った時、ルークさんとは気が合いそうな気がしたんよ。今日それが確信に変わった。へへ! 良かったら今度、仕事抜きで話そうよ。――じゃ、また!』
彼の人懐っこい笑顔を思い出すと、俺も顔が緩む。仲良くなれるといいな。
カルミアさんが不思議そうに言う。
「しっかし、随分慣れた雰囲気で話をまとめたね。ルークは口下手なんじゃなかったの?」
「あー……交渉や説得みたいな、自分の意見を通す方向は全然ダメだよ。でも譲歩とか謝罪なら得意かも」
「なるほどね! ガノンさんも場を収めたがってたから上手く噛み合ったんだなぁ」
ガノンさんの悪戦苦闘を思い出し、ちょっと先を歩く彼に声をかける。
「そういやログマって、ジャンネさん判定で悪人じゃないらしいね。予想外だった」
横でカルミアさんが軽く吹いた。ログマは振り向かずに舌打ちする。
「俺はどう見ても善人だろうが」
「……たまに凄く面白いこと言うんだよなぁ」
「あ?」
ウケ狙いかどうか分からない絶妙なラインを突かないで欲しい。
俺と同じような顔で笑いを噛み殺したカルミアさんが言う。
「ジャンネさん強かったねぇ! 最後には、私の正義でこの組織を正してみせる! なんて言ってさ。あの人は多分病まないよ、良い事だ」
複雑な思いが湧き上がって苦笑した。
「病まないだろうなぁ。正義感も実力もある人だから、いつか本当に改革するかもよ。凄いよなぁ。……正直合わないけど」
「へえ、ルークが自分からそんな事言うなんて珍しいね。最後もジャンネさんの事フォローしてたのに?」
「いや、助かったのは事実だし、他人事と思えなくてお節介しただけ。俺は過去に独走して、貴族を敵に回してるからな」
「そういう感じか……。ここだけの話、どこが合わないの?」
「自分を正義とか言えちゃう感性が無理すぎ」
「あっ、思ったよりちゃんと嫌いだね……」
――同族嫌悪も入っているのかも知れない。過去の俺が兵団のためだと振り翳し、身を滅ぼすに至る元凶となったのも、お粗末な『正義』だったと言える気がしているから。
その後始末をしてくれた彼に、礼を言わなくてはならない。
「ログマ」
「なんだ」
「……俺と貴族の因縁で、迷惑かけたな。助けてくれて本当にありがとう。すげー嬉しかった」
彼はやはり振り向かずに、恨みがましく返してきた。
「その割には随分と俺の事を下げて話したな」
「わ、悪かったよ……! あっちの低姿勢に合わせるべき場面だと思ったんだ……」
少しの沈黙の後、ログマはため息をついた。
「――利用出来そうな面白いもんが偶然手に入って、思いつきでやってみただけだ。今後も迷惑かけられたらたまったもんじゃねえからな。……それにまだ助かってない。ロデュセン家が味方に付くまでは油断すんな」
口元が緩む。心に留めていなければ思いつかないし、助力しようと思わなければやってみないだろうに。
「今後がどうでも、俺の心が救われた事には変わりないよ。この件に関しては本当に敵ばかりで、手を貸してくれる味方なんて想像もできなかったから……」
苦しくなり目を伏せる。その心を知ってか知らずか、隣のカルミアさんがおどけた。
「えー? 俺も味方なんだけど?」
「あっ、そりゃ、味方だと思ってるよ!」
肩を優しくぽんぽんと叩かれた。
「独走した、敵に回したって言うのは簡単だけど、色々あったんだろ。いつか聞かせてよね」
目頭が熱くなった。味方に恵まれた今の俺は、なんて幸せ者なんだろうな。
「うん……。話したい。聞いて欲しい。……もう少しだけ、心の準備をさせてくれ」
「はいはい、いつでもどうぞ」
……でも、与えられる善意に喜んでばかり居られない。俺だって味方したいんだ。
「なあ、カルミアさん……」
「何ー?」
胸元が苦しくてたまらない。だが彼が抱えてくれたものに比べれば些末なものだ。震える唇をこじ開けた。
「――マティレートにかけた呪いって、なんだったんだ? 教えてくれよ……」




