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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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24章179話 清濁併せ呑む者同士




 冷たい夜風が吹き付ける。今も続く逮捕や捜査の慌ただしい音や声が、険悪な雰囲気をかろうじて紛らわしてくれている気がした。



 やがてガノンさんが深いため息をつく。


「――ジャンネ。悪いけど部下じゃなく、先輩として答えるよ」


 彼は頭の角を軽く掻き、少しジャンネさんに身体を向けた。


「確かに法律上、帝国民は俺達に協力すべき。でも同時に俺達の方は、帝国民の平和を守るべき。皆さんの平和を、俺達は守れてたのかね」


 ジャンネさんは肯定も否定もせずに黙った。ガノンさんは困ったような顔で続ける。


「正直、俺は不充分だったと思うよ。だからログマさんは、自分達で身を守るって主張してるんだ」


「だが……! 最大限助力したではないか! それに、一刻も早い解決のために自分達が動くと言ったのはルークさんだよ?」


「俺達を信用出来ないがゆえの苦肉の策に決まってんじゃん。結果的に上手く片付いたからいいものの、精一杯助けたから良いでしょって俺達が主張するのはちょっと違うかな」


「彼らに寄りすぎでしょう? 言われるがままではないか!」


「弁明出来ないもん。三年弱続いた相談期間で解決出来ず、ウィルルさんが誘拐された。解決を急ぐどころか、被害者側のカルミアさんやルークさんを不当に追求した。治安を守る組織として不甲斐ないよな。それでも彼らは俺達に協力して成果も出したんだから、多少は文句言われても仕方ないっしょ」



 身内を宥めることで収拾をつけようというガノンさんの狙いが俺には痛いほど分かるが、後輩上司の彼女はそれを汲み取ってくれない。


 困り果てた様子のガノンさんをジャンネさんは責め立て続ける。もう彼女の怒りの矛先がどこなのか分からない。



「――だとして、令嬢の命を人質に取ったも同然の要求を呑んで償う話とは思えない!」


「ジャンネ……世の中、皆が正義を最優先に生きてる訳じゃないって何度言ったら……。正義や倫理を武器に戦果をぶんどったら逆に悪だよ、やめてよ……」


「な……! ガノンこそどうしたと言うんだ? 我々は正義を実現するのが責務でしょう、そのための行動が悪だと? 何を言っているのか分からない……」


「あーゴメン! 善悪の話はナシ、撤回させて! 俺はね、協力者が期待以上の戦果を報告してくれたことを称えたいの。要望があるなら上に掛け合うくらいはしてもいいと思うわけ。そんなに怒る必要ないだろ? 仮にも取引先の前だよ、頼むよぉ……」


「……でも!」


「冷静に考えてみて? 防衛統括の活動に貢献した民間人の表彰は珍しくないし、報道機関も勝手に来る。貴族への紹介も、無事令嬢が帰ってきた後で、報告の場にルークさんが同席できるように計らうだけの話じゃん」



 ここで、ジャンネさんが何に拘っていたのかがようやく分かった。


「……()()! 私は正義に則って動いたでしょう! 彼らの無実を信じて手を結び、脅かした悪を捕らえた! 恥ずべき行動はしていない! なぜこのように責められ、屈辱を呑み込まねばならない? それを説明しろ!」



 彼女のこれまでの言動の全てに合点がいったような気がした。先程ログマが説教されたことと本質は同じ。独り善がりなのだ。彼女の場合、正義という立派な言葉を信条に据えている誇りがあるせいで、それに沿わぬ全てに噛みつく状態になっている。ログマ以上に意固地なのはそういう事だ。



 また難しい顔で黙り込むガノンさん。


 彼の紺色の瞳は俺に似ている。瞳の色だけじゃない。疲れ果てて変に据わっている雰囲気に、どうしようもなく見覚えがある。



 その瞳が一瞬辛そうに伏せられた後、ジャンネさんを真っ直ぐに見つめた。


「落ち着いて聞いてね。帝国防衛統括機関は、腐った利権に支配されてる。ジャンネもとっくに気づいてるっしょ。それに怒ってるログマさんからすれば、ジャンネも腐った組織の一員でしかないんだ」


 彼女は目を見開いて絶句した。ガノンさんは悲しげに続ける。


「正義の戦士のジャンネでも、この組織の小隊長を名乗る以上、組織の代表として不手際を詫びなきゃならない場面があんの。それが今」



 ジャンネさんの綺麗な唇がふるふると震え、大きな青い瞳には涙が浮かんだ。その涙は堪えられる事もなく、素直に次々と流れ出す。


 ガノンさんは泣き顔に一瞬怯んだ後、軽くため息をついて優しく言った。


「ログマさんが悪人だから意地悪な取引を持ちかけてるわけじゃないって、ジャンネの力ならよく分かるっしょ?」


「……確かに、光精霊の反応は善を示した。それが不思議でならない……」


「今までの皆さんを思い出してみて。それぞれが組織を背負って動いてたよ。その帰属意識が、大事な仲間のためって言う前向きなエネルギーになって、光精霊を共鳴させるんじゃない? 知らんけど」


「…………う……」


 納得はしたが、それ故に悔しいのだろう。ジャンネさんの涙は益々溢れて止まらない。


 ガノンさんはまったくー! と大袈裟に苦笑しながらポーチを探り、ジャンネさんにちり紙を差し出した。


「組織の尻拭いを体験するつもりで、ログマさんの要望、叶えられるかやってみない? 正義のために活躍した人を評価するって内容だし、嫌いじゃないっしょ? ――それが、うちの組織を浄化する第一歩になるかもだ!」


 彼女はちり紙で顔を拭いながら、無言でこくんと頷いた。


 ガノンさんは俺達に頭を下げる。


「お見苦しいところをお見せしてホント申し訳ございませんっ! 後輩の成長の良い機会を頂いたみたいっす、感謝申し上げます」



 このままガノンさんに甘えて話を進めるのは……。ずっと噛んでいた唇を開いた。


「あの、ガノンさん。俺からもいいですか」


「どうしました?」



 目を泳がせながら言葉だけは整える。ここはガノンさんに目線を合わせ、組織の代表者として喋りたい。


「えっと……。まずは、先程のログマの失礼をお詫び申し上げます。現場責任者である俺の不徳の致すところです。挑発的で不躾な発言が過度に事を荒立てましたが、彼なりに自社を想い気負ったがゆえ。何卒ご容赦下さいませ」


 一度深く頭を下げる。自分を勝手に語られたログマは今にも俺に噛み付きそうだったが、カルミアさんに思い切り頭を握られてギリギリ黙っててくれた。


「我々の都合でご令嬢が犠牲になるのは、誰もが望まぬところ。情報はいずれお渡ししたいと考えています」


「は? てめえ何勝手なことを――」


 ついに口を開いたログマをチラッと見て、悪いようにはしないから! と目で訴えた。少しは伝わったか、彼は口をへの字で閉じた。


「――ただ、ログマの個人的な戦果である都合上、一旦お預かりさせて頂きたい。彼から提示した要望について一度持ち帰って検討頂き、その結果をご説明頂いた暁には、彼も納得の上で譲渡できるかと。ご了承頂けますか」



 俺の様子を興味深そうに見ていたガノンさんは、慌てて頷いてくれた。


「そ、それはもう。ありがたい話っすよ。ログマさんがその戦果を俺達に開示してくれた時点で、ご協力の姿勢は充分に感じてました。お互いが気持ち良く話を進められるように最善を尽くしますね」


「ああ、弊社の事情と真意を汲み取って頂き本当に助かります。すみません」


「こちらこそすみません……」


 雰囲気が少し和らぐ。ログマも一応は腑に落ちたのか、苛々とした身動ぎをやめた。



 俺の言いたい事はあと一つある。


「それはそれとして――」


今も不服そうに涙を流すジャンネさんに目線を移す。


「最初、エバッソ副長に情報を遮断されたまま俺に冤罪の危険が迫った時。独断で俺に接触し、協力関係を結んでくれたジャンネさんには非常に助けられました。あれがなければここまで来られなかった。組織内のしがらみを振り切って個人の信念を貫いた彼女だからこその行動だと思うんです」


 ガノンさんがあっと小さく零し、口元に手を当てた。彼が真摯に話を聞いてくれていることが分かった。


「だから俺は、組織とは別軸の話で、彼女にお礼を言いたい。加えて、出過ぎたことを申しますが……ガノンさんも、先輩として彼女を理解し労って欲しいんです」


 微かに見開かれた彼の目を見つめ、続ける。


「――そして今後は、周りを頼って味方を作れるように教えてあげて欲しい。まっすぐすぎる彼女の正義が、より良い形で実現するように。……俺みたいな目に遭って欲しくない。ガノンさんなら、分かって下さるでしょ」



 ガノンさんは俺の話を聞き終え、柔らかく微笑んだ。


「うん……本当に、そうですね。ありがとう。……うちの可愛いジャンネがどこかのクズに曇らされないように守らなきゃ」


そして疲れ果てた目元を星空に向ける。ぽつりと呟くのが聞こえた。


「信念か。見習わなきゃなあ……」


 ガノンさんは今一度ジャンネさんの顔を覗き込み、片手を立てて謝罪を示した。


「すまん、言い過ぎた! ジャンネのおかげで、ルークさん助かったってさ。でも独断は何かと危ないから、次は一緒に作戦会議してもっと上手くやろうな?」


 ジャンネさんはまたこくんと頷いた。そして俺に潤んだままの瞳を向け、懸命に立派な口調を保って言う。


「……私はまだまだ……未熟なようだ。それは……学びとして呑み込み、糧にしなければいけないね。ひっく……だが、助けられたと言うルークさんの言葉に、今の私もまた救われた。……ありがとう」


苦笑した。そういう返しの一つ一つが真面目すぎて心配なのだが、これが彼女の強さでもあるのだろう。



 右手を差し出した。


「こちらこそ、あの時俺達に賭けてくれてありがとう。約束、果たせてよかった」


「約束……?」


「人身取引組織を蹴散らしてやろう、一緒に勝ちましょうって言い合ったでしょう。……俺達の完全勝利じゃないですか?」


 しょげ込んでいたジャンネさんは一瞬驚いた後、嬉しそうに顔を緩めた。そしてすぐに表情を引き締め、俺の差し出した右手を強く握る。


「……そうだね! 紛うことなき完全勝利だ! あなた達の輝きに賭けた私は間違ってなかったのだ! ……ふふん! 悪くない気分だ!」



 ガノンさんは肩を竦めながらため息をつき、姿勢を正した。


「この度の我々の不手際、深くお詫び申し上げます。また今後とも変わらぬ共存共栄の関係を願い、改めて感謝の意を表します。――この度の共闘、誠にありがとうございました!」


 彼は心臓の位置に右手を当て、深く頭を下げた。防衛戦士団の敬礼だ。少し遅れて、ジャンネさんも同様にした。



 俺の苦笑い、ログマの仏頂面、カルミアさんの微笑み。俺達はバラバラの表情の顔を見合わせた後、揃って深い礼を返した。



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