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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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24章178話 弱者の主張




 突如俺に向けられたログマの親指。


「貴族令嬢の話含め、ヒュドラーとオークションに関するこれまでの功績が、イルネスカドル、特にルークの貢献にるものだと広く知らしめろ」


「……え、俺?」


 俺の都合はお構い無しで、説明が続く。


「具体的な要求は、イルネスカドルの功績を公的に表彰し、それを広く報道させること。そしてルークを、令嬢の情報を掴んだ功労者としてロデュセン家に紹介することだ」



 ガノンさんは無言の無表情で腕を組む。ジャンネさんは素直に戸惑い、難色を示した。


「……少々行き過ぎた要求ではないか。情報の獲得はログマさんの功績だが、あくまでオークションにおける戦闘中の戦果でしょう。契約に基づく謝礼金は十二分に用意できる筈だけれど、足りないと言うのです?」


 ログマは大きな舌打ちの後、静かで激しい怒りを露わにした。


「ああ、全ッ然足りねえな。少人数の病人が命削って成果を献上して、追加の情報まで用意して、ようやくちっぽけなオネガイをさせて頂けてんのが今なんだぞ。端金はしたがねじゃ足りねえのかなんて、よく訊けるよな」


 一瞬宥めようとして、止めた。彼は確かに怒っているが、どうやら俺達のための考えがあるようだ。無闇に抑え込まずに見守りたい。


 ジャンネさんは声を荒らげて反論した。


「失礼だが、それは穿った見方だ! 我々と御社は、共通の敵と協力して戦ったんだ。言わば味方でしょう? そんな風に――」


「協力、味方ね。そんな友好的な言葉じゃ到底片付けられねえような不平等を感じてるから言ってんだよ」


 大の苦手である『不平等』を盾にされた彼女は、苦しげに言葉を詰まらせた。



 ログマは踵を揺らしながら続ける。


「単なる主観と感情で我儘を言ってる訳じゃねえぞ。説明してやる。――俺達が結んだのは『戦闘業務請負契約』だ。ルーク、契約上の俺達の仕事は?」


「うぇっ?」


 説明してやると言いながら俺に振るのかよ。事前の予告も相談もないし、場の雰囲気は悪いし……!


 だが答えられない質問ではないし、彼の考えを見守ると決めたのは俺だ。乗ろうじゃないか。


「……今回の人身取引オークション制圧における戦闘に参加し、違法行為に加担した者の逮捕を達成することだな」


「戦闘中に得られた戦果は全て必ず無条件で提出する、なんて条件や制限は付いてなかったな?」


「そう……だね。請負契約だから、求められるのはさっき言った達成目標のみだ。入手時の提出が義務になる物は幾つか定めてあったけど、オークションに関連する証拠品だけだった筈」


「だよな。その他契約外のことで、俺が知らねえような業界の常識や暗黙の了解があれば話せ」


 前職時代の知識での援護を求められているのかな……? 顔を顰めながら頭を回す。


「……言うとすれば……軍事系依頼においては、副次的に得られる戦果は請負人の懐に入る場合が多い。モンスターの戦利品や財宝、採集物なんかは、契約上も法律上も問題ない時は持ち帰って好きにするのが一般的。揉めるのが怖いような物は一応報告。……て認識はあるな」


 ログマは満足げに口の端を上げた。


「そうか。副次的に得られた戦果である敵の落し物を拾って、依頼主である防衛団に報告したんだから、おかしくはねえよな。契約外の重要事項が発生して、別の契約の締結を打診したって問題ねえな?」


「う、うん……ログマは不当で非常識なことを訴えてるわけではないと思うよ。もう少し穏やかな話し方をして欲しいけどね……?」


 ……ヒュドラー組員のカバンを漁ったのは黒に近い気がするが、言われるまで黙っておこう。



 ジャンネさんは未だに厳しい表情で受け入れ難いという態度だったが、ガノンさんの方が口を開いた。


「……俺も、ご提案の経緯に正当性はあるかなーって気がしてます。でも内容が適当かどうかは、正直まだ判断しかねますね。表彰と報道、貴族への紹介を求める理由を詳しく聞かせて頂いていいっすか?」


 ログマは淀みなく言い切った。


「目的は一つ。うちの会社及び社員が二度とこんな目に遭わないための防衛だ。今回の一連の流れをかんがみるに、お前達は信用できない。だからお前達が信じてる利権を、俺達にも利用させてもらうんだよ」


 ジャンネさんはそろそろ我慢の限界らしい。

「信用できない? 先程からあまりにも――」


それを片手で制したガノンさんは冷静だ。

「続きを」



 ログマはジャンネさんと強く睨み合いながら続けた。



「……表彰と報道によって、ヒュドラーみてえなクソ反社が尻込みするような名声と注目が得られる。そしてルークの顔と名前を貴族のコミュニティ内で認知させることで、ロハみたいなクソ田舎のクソ貴族じゃ脅かせねえ後ろ盾が得られる。――それらが今後、社会的弱者である俺達を守るかも知れない。そういう理由だ」



 はっと息を呑んで彼の横顔を見る。わざわざ自分の手柄を俺のものとして貴族に紹介させるのは、俺がウッズを敵に回したって話を考慮して――。



 ガノンさんは少し考えた後、優しい微笑みを浮かべた。


「とりあえず、今仰った内容については承知しました。俺達の立場じゃ即答できないのが申し訳ないけど、動いてみますよ。また近いうちに連絡します。話がまとまって書面に残したら、物を渡して頂きたい」


「ああ、それで頼む」



 ジャンネさんが黙らされたままで話が終わる筈がなかった。彼女は強く鋭い声で言った。



「バヤト帝国民は、帝国の平和のために帝国防衛統括機関に協力すべきとされている。ログマさん、国民の義務を条件に個人の希望を押し通そうとする今の貴方は、間違っているよ」



 ログマの額に青筋が浮かぶ。その肩をカルミアさんが後ろからぐっと押さえたが、彼は止まらなかった。


「てめえ! さっきからふんぞり返ってんじゃねえぞ! お前らのお粗末な仕事ぶりを忘れたかァ! 他人に義務を語る前に、自分達の義務を果たしやがれ!」


 ジャンネさんもまた、制さんとするガノンさんの腕を押しのけて噛みつき返す。


「こちらのセリフだ! 会社の警備や契約書の手配など、あなた達のために最善を尽くしたではないか! なぜ信用出来ないと断じられ、足元を見た脅迫のような要求を聞かねばならない? 納得できるわけがない!」


 仲裁に入る隙もなく、ログマの口の悪さが加速していく。


「さっきから言ってんだろクソバカ! ――困るんだよ、身内の派閥だ、貴族の噂だ、冤罪だ、囮だと! うちがどれだけお前らの都合と憶測に振り回されてやったと思ってる!」


「なっ、それは――」


「反社に狙われる俺達を冤罪で追い詰め、矢面を必死で泳がせて、オークションっていうデカい魚が掛かったら掌返しやがって。弱者をエサに散々美味い汁吸って、自分達はイイコトしました、我々は仲間だと。搾取する側の輝かしいツラ、心底気に入らねえんだよ!」



 カルミアさんがログマの頭を上から掴んだ。


「こーら。言い過ぎだよ。あちらさんにも複雑な事情があるんだ、それをなじっても仕方ないでしょう」


「チッ……てめえは元防衛戦士団員サマだもんな……!」


「関係ないよ。こっちの感情を一方的にぶつけ過ぎって言ってんの。少し落ち着いて」



 ガノンさんもまた、いきり立つジャンネさんを宥める。


「ジャンネ、どうしたっての、そんなに怒ってさ。愚痴なら後で聞くから――」


「ガノン! 貴方も貴方だ! 上司としてこの場で問うよ、なぜこんな身勝手な話の言いなりになって、了承する方向で話を進めた? 防衛戦士団としての誇りがないのか!」


 ガノンさんは難しい顔をして黙り込んだ。この場の全員が彼の言葉を待ち、暫しの静寂が訪れる。



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