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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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24章177話 ログマの戦利品

24章 変わるために





 深夜の星空の下、北区スラムはいつまでも騒がしかった。怪我人と罪人の搬送、個々人の身分の確認、現場の保存など、防衛戦士団が今夜中にやりたいことは沢山あるらしい。



 旧公民館の敷地の端の方で、ジャンネさんとガノンさんの二人と合流することになっている。彼らとの話が終われば俺達も晴れて帰宅だ。



 笑顔で頭を下げ、駆け寄る。因みに俺の食らった毒の効果は一時間ほどで切れ、今は問題なく動けるようになった。


「お疲れ様です。お陰様で、なんとかなりましたよ」


 無傷のジャンネさんは季節外れのヒマワリのような眩しすぎる笑顔を見せた。


「お疲れ様! 正義の元に大勝利! 悪を根本から一網打尽! 私はとっても幸せだ!」


 今このテンションを受け止めるのは正直しんどい。苦笑で受け流した。


 その隣、疲労感の目立つガノンさんは、覇気のない顔でへらへらと笑った。


「疲れました……。俺、しばらく手錠掛ける作業したくないです」


「戦闘の疲れじゃないんですか……」


「戦闘自体は楽でした。その他が厄介過ぎましたね。素直に捕まってくれないんですよ、あちこちからナイフやら銃やら出して……。あーストレス」


「はは……心中お察しします」



 ジャンネさんが怪訝そうに俺の後ろを覗き込む。

「ルークさんと、ログマさん、カルミアさんだけなのかい? 他の方々は?」


 後ろの二人と目を合わせ、肩をすくめた。

「力尽きたので、先に帰宅させました」


「え! 大丈夫か? 提携の医療機関に――」


「いや、負傷というより、疲労が目立っただけです。他の防衛団員の方に帰りの馬車も手配して頂いたので、充分」


「なら、よかったが……」



 他の四人の各々気が抜けた様子を思い出し、くすっと笑う。



 泣き疲れたウィルルは突然眠り、誰が何をしてもむにゃむにゃと幸せそうな顔をするだけで起きなくなった。


 少し機嫌を直したログマを引っ張って戻ってきたケインは、不穏な活気を見せた。ウィルルのことで長らく気を張っていた反動が出始めたと思われる。


 ウィルルのおんぶ役をダンカムさん、ケインのストップ役をレイジさんにお願いし、四人で馬車に乗ってもらった。久々の戦闘にも関わらず頼もしい戦力になってくれた上司二人には、ゆっくり休んで欲しい。



 ガノンさんが心配そうに続いた。

「皆さんにも帰りの馬車を用意しますよ。歩きよりはいいっしょ?」


 俺より先に後ろのカルミアさんが答えた。

「ルークとログマは御言葉に甘えなよ。俺は歩いて帰る」


 振り向いて言った言葉が、一字一句ログマと被った。

「じゃあ俺も」



 カルミアさんは俺達の顔を交互に見ながら迷惑そうな顔をした。

「え……一人がいいんだけど」


 俺は譲らない。

「ダメ。カルミアさんには俺に話してもらうことがある。徒歩で帰る時間は絶好の機会だ」

「いつになく強引だな……嫌な感じ」


 ログマも譲らなかった。

「チッ、さっきからルークと被るのが癪だな。俺もカルミアには腹に据えかねてる事があんだよ、聞け」

「なぁにもう……おじさん疲れる……」


 ガノンさんが明るく笑った。


「カルミアさん、懐かれてますねえ! 俺も深夜のスラムを一人で歩くのは賛成しかねるなあ。三人で気を付けて帰って頂くってことで」



 ため息で答えたカルミアさん。俺達のごり押しが通った所で、ログマに言った。


「ログマ、あれの話をしてくれるんだろ」


「……ああ、そうだな」


 ログマがロングコートを捲り、腰元の歪に膨らんだポーチから、豪華な装飾のついた小さな木箱を取り出した。


「舞台裏で手に入れた。ヒュドラーにとっちゃ大事なもんらしい」



 防衛団員二人は興味深そうに注目した。


 俺とカルミアさんも、これを持って行ったせいで三人がかりで襲われたということしか聞いていない。改めて疑問を投げかけた。


「そもそもなんで、それに目をつけて持っていようと思ったんだ?」


「舞台裏の足場を登って戦闘まで待機してた時、ヒュドラーの連中が俺に気付かずベラベラ喋ってたんだよ。それを聞く限りは面白そうな物だし、隙もあったから貰っておいた」


「隙があるからって……全く心臓に悪い……」



 ログマはジャンネさんとガノンさんに数歩詰め寄る。


「なあ。これ、絶対お前らが喜ぶもんだぜ。なんだと思う?」


 ジャンネさんは素直に小首を傾げ、ガノンさんは小声で五千兆ネイと言った。


 ログマは意地の悪い生き生きとした顔で言い放った。



「エバッソ副長とやらが、うちみてえな弱小企業と仲良くしてまでずーっと欲しがってた物。――四年前に拐われた貴族の令嬢サマの情報だ」



 二人の顔色が変わる。

「なっ!」

「えぇー!」


 俺も開いた口が塞がらなかった。俺の言いたかった言葉を、そのままカルミアさんが半笑いで言ってくれた。


「いやいや。そんな都合のいいことある? 人違いとかいうオチでしょ」


「あるんだな、これが。――ガノンさん。令嬢の名前は『アピラ・ロデュセン』で合ってるな?」


「……合ってるっすね……」



 唖然とする防衛団員二人へ、ログマはうきうきと語った。


「奴らの話と物の情報を合わせて、事の顛末が分かった。拐われた美人令嬢サマは、異国の店に買われた。最近その店の経営が傾いたが、店じまいにも金が要る。そこで店は、昔令嬢を売ってくれたヒュドラーと手を組み、令嬢を利用して膨れた借金を返そうと企んだらしい」


 彼は箱を見せつけるように指差す。


「そこでこの箱。入ってるもんは、令嬢直筆のお手紙と、身代金要求の脅迫文、新しそうな本人の写真と、本人証明としての大事らしい指輪。これに加えて――」


 まだ膨れていたポーチから、雑に突っ込まれたらしい紙束を取り出す。


「その店とヒュドラーの契約書の控え。アピラ・ロデュセン嬢の身代金を分け合いましょって内容だから間違いない。だが、大事なのは、店の名前と住所が書いてあるってとこだよな」


 言葉を失う一同。



 乾いた笑いが漏れて、尋ねた。


「お前……色々落ち着いたあたりで、しばらく姿が見えない時間があったな。ヒュドラーの控え室を漁ってたのか……?」


「ああ。せっかく命懸けで掴んだ有益情報なのに、不完全じゃつまんねえだろう?」


 困惑しながらも内容を確認した。


「えっと。要はご令嬢の無事と居場所が確認できたと言うことだな」


「そうだ。だが、いつまでも無事かは知らん。身代金だけ貰って、本人の身柄はまた別のどこかに売り飛ばすんだろうからな」


「……そうすれば二重に儲けられるのか」


「ああ。実際脅迫文に書いてあったのは、命が惜しければという文言だった。帰すなんて言ってないんだ。迎えに行くべきだろうな」



 カルミアさんは俺よりまだ少し冷静だった。


「待って。その箱と契約書をオークション会場に持って来た理由は分かってるの? しかも舞台裏まで箱を持ち歩くなんておかしくない?」


「良い質問だ。総じて運要素が強いんだがな」


「えぇ?」


「まず箱。オークション終了後、ロデュセン家に届ける役の傭兵にこの箱を受け渡しする予定で持って来たみたいだぜ。大方、その傭兵には今回の警備でも兼任させてたんだろ」


「……じゃあ、なんで舞台裏に」


「出品の出番中は貴重品を持ち歩けっていうフツーの指示が出ていたそうだ。それを曲解したバカがこの箱を舞台裏まで持ち出して、他の組員に戻して来いって怒られてた」


「はあ……?」


「そのタイミングで戦闘開始、ボスの怒鳴り声を聞いたバカ共は慌てて箱をぶん投げて行ったから、俺が頂戴したって流れ。思い出して拾いに来た奴らが足場の上の俺に気付いて、返せ返せって散々撃ちやがったがな」


 明確な戦犯がいるな……。マティレート、つくづく部下を放ったらかし過ぎだぞ。


 ログマが再度紙束をひらひらと見せつける。


「契約書の控えについては推測の域を出ないが、整理しきれずに持ち歩いてたんだろ。ヒュドラーには決まった拠点が無いから、書類保管担当のメンバーを決めてたんじゃねえか。これを見つけたカバンの中には、他にも雑多な書類が沢山入ってたからな」


「いやいや……。え、マジなの……?」


流石のカルミアさんも、引き攣った笑いと共に言葉をなくした。



 ジャンネさんが少し強ばった表情でログマに問う。


「情報共有と証拠の確保、感謝する。……まだ何かあるから、こちらに手渡さないのでしょう?」


「はは、察しがいいね」



 ログマは真剣な表情になって言った。



「さっきも言ったが、この情報は俺が危険を冒して得たものだ。――防衛戦士団に譲渡する上で、条件がある」



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