23章175話 エース、マネージャーに叱られて
予想外の指摘に、当のログマ含め誰もが戸惑う。未だ戦闘モードらしいマネージャーはキビキビと続けた。
「反省して欲しいのは、報連相の軽視と不足だ。ケインの不安。ルークの負傷。ウィルルの危険。全て、君が自分の動きを仲間に共有してさえいれば生じなかった」
ログマの声色に早くも苛立ちが滲む。
「……お門違いもいい所だ。俺は自分の役割を果たしてる。それに関して問題も生じてない」
微塵も受け入れる気配のない態度を受け、ダンカムさんの声色が厳しさを増した。
「問題の根幹はそれだ。自分の仕事を自分で完結させれば万事解決か? 一人で何でも出来れば、仲間の考えや動きは理解しなくていいか? そのスタンスが、チームで戦闘する上では命取りになる。――慢心は取り返しのつかない事を招く。危機感を持ちなさい」
ログマは頭に来たという事を隠さない。
「慢心だと? 事実だろうが! いいか、俺は舞台裏で戦闘になる直前まで、表をフォローした。怪我の応急処置も自分で済ませた。結果も出てる。そうだろ? 何の危機感を持てって言うんだ?」
「……気づかないかい。今の話が全て自分視点だと言うことに。僕が反省しろと言っているのはチーム内での相互関係なんだ――」
「なら尚更、話す相手は俺じゃねえだろ! 俺は自分の役割も味方の補佐もやった! 足りてねえ他の奴らに言えよ! それでお望みの相互関係になるだろ!」
雰囲気が本格的にピリついてきた。身を捩り、睨み合う二人の様子を窺う。
ダンカムさんの少し力んだ立ち姿からは、彼が今回の件を相当重く見ている事が伝わる。
「はっきり言うよ。ログマに足りないのは『他者視点』だ。独り善がりなんだ。君が自己完結した結果、振り回された味方が心身共に傷付いたのが今回の件なんだよ」
「そいつらが勝手な妄想で動いたせいだろ? ミスを被せられていい迷惑だ!」
「味方から把握出来ない位置取りに始まり、単騎で敵を深追いした末の事後報告。カルミアが丁寧に聞き取らなきゃ事後報告ですら不充分だった。その行動と意識が皆を混乱させ、危うく死者を出す事態に繋がった。――俺は問題ない、味方が勝手に妄想した、なんて本気で言ってるのかい?」
ログマは一瞬息を詰まらせたが、強気に言い返した。少し意地になっているような雰囲気もあった。
「支援要請や状況共有が必要だと判断したら連絡してる! 出来ないんじゃない、不要だったんだ! 取り越し苦労で自滅しやがって――」
「仲間が死んでから後悔しても遅いんだぞ!」
ダンカムさんの怒鳴り声に、ログマの言葉が止まった。憤りと疑問に満ちた表情に、ショックを受けたような苦しい驚きが混じる。
日頃から人一倍仲間思いで、戦闘に精通するダンカムさん。熱くて重い言葉が続く。
「君だって皆に死んで欲しくはないだろう? なら、逆の立場を想像しなさい。それが他者視点の第一歩だ。皆、ログマが死んで後悔したくないから動いたんだって分かる筈だ。味方の勝手だなんて言えなくなる」
ログマの返事はない。顔を逸らし、聞いてるのか分からない態度をとっている。
ダンカムさんは、ナックルダスターを装備した拳で、自分自身の胸を叩いて見せた。
「君の慢心は、自己完結型の戦い方で味方を守れると思っていることだ。取り返しがつかない事が起きた時、苦しいのは君自身だよ。そうなる前に向き合いなさい。――危うく命を奪われかけたルークが、ログマが生きていて良かったと泣いたこと。心に留めて考えた方がいい」
ログマは無言で踵を返した。意地の反抗アピールにも、もう聞きたくないといった防御にも見えた。
ようやく聞こえた彼の声は低くて小さく、感情が窺えなかった。
「……気分が悪い。一旦外に出る。もう戦闘は全体的に落ち着いてるし、ヒュドラーは全滅だろ? 問題ないよな。三十分したら戻る。何かあれば連絡する。――『報連相』したぞ、これで文句ねえだろ」
彼はそう言い残し、スタスタと去った。
残された俺達の気まずさといったらない。ダンカムさんが大きなため息をついて、頭を掻きながら言った。
「僕、熱くなり過ぎてしまったね。大事なことだと思ったから、つい……。変な空気にしてごめんよ……」
そして彼もまた踵を返し、ゆるゆると手を振った。
「……僕は舞台に戻ってヒュドラーを防衛団員に引渡すよ。ルーク、また様子見に来るから」
「あ、はい……ありがとうございます」
とぼとぼと去る彼の姿が見えなくなった時、レイジさんが口を開いた。
「……あれは、俺かダンカムが言わなきゃいけない事だったな。凹んでそうだから、ちょっと労ってくるわ」
彼は淡々と指示を出す。
「カルミア。そこのボス、どこにいくつ武器を持ってるか分からない奴だ。俺はすごーく痛い目に遭わされてとっても辛かった。引き渡せるまで見張ってて欲しい」
「――ああ、そのつもりだったよ」
「ウィルル。ルークの食らった毒がどんなもんか分からんから、容態を診ていてくれ。ヤバそうなら防衛団の力も借りよう」
「は、はいっ!」
「ああ、ルークは大人しくおねんねだぞ。動けるようになりましたぁ働きますぅとか、そういうの要らないから」
「あっはい……なんかすみません……」
レイジさんは、未だ暗いままの彼女にも呼び掛ける。
「ケイン」
「……はい」
「ログマの様子を見に行ってくれ」
ケインは微かに眉根を寄せた。
「えっ……。でもログマは一人になりたいと思います。それに、私がその役割に適当だとは思えないです」
理路整然と断られたレイジさんは珍しく腕を組んで悩み、言葉を絞り出した。
「お節介しに行けって言ってる訳じゃない。ただその……もし寂しそうだったら、絡んでやって欲しいなと……」
ケインは尚も自信なさげに俯く。
「……私でいいんですかね」
レイジさんもまた自信はなさそうで、なんとも頼りない。だがそれでも彼は粘った。
「いいって言うか……。もう俺の勘なんだよな。ケインにしか出来ないっていう」
「……それは、どう言う意味ですか」
「あー、その。今のログマは、あのヘッタクソな感情表現を相手して貰った方がいい気がするんだ。これも勘だけど。ケインならどんな態度のログマにも対等に対応できるだろ」
「そう、かも知れないですね」
「うん……まあ、万が一の護衛も兼ねてるからさ……。結果的に見守ってるだけだった、でも全然いいから、頼めないかね?」
縋るように言われて、ケインもようやく首を縦に振った。
それを確認したレイジさんは、じゃ! と一瞬で切り替えて去った。
ケインも立ち上がったが、すぐには歩き出さず立ち尽くしている。
……急所を突く内容ではないな? と判断して言った。
「ログマの事、頼んだよ。楽にしてやれるのはケインだけだと俺も思う」
「……そうかな? 正直まだ納得してない」
「俺さ、前にログマの故郷に行った時、司祭が話してたのを覚えてるんだ。昔のログマが、皆を死なせたくないって理由で精霊術を特訓したって。詳しい背景は知らないけど、その動機であんなに強くなった奴だ。今の説教はきっと大ダメージだと思う」
ケインは何も言わないが、雰囲気から少しの手応えを感じた気がしたので続けた。
「あいつ、感情が乱れると攻撃的になるだろ。それに文句を言いながらも発散させてくれる相手――姉みたいな人がいたら嬉しいと思うんだ。……俺は一応、気の強い妹の兄をやってきたから、なんとなく分かるんだよね」
ケインがぽつりと呟いた。
「…………きょうだい、か……」
「まあ、姉ってのは例えだけどさ。ケインは明るくじゃれ合ってくれる、楽しい人だ。そういう人が、今のあいつには必要かもよ」
「不出来な末っ子の私が、やれるかな」
「社歴は別として、うちの最年少はログマだからな。あいつは皆の弟だ。ふふ」
冗談を挟むと、ケインは笑ってくれた。
「あははっ。そっか……。なら、私もお姉ちゃんできるかもね。――行ってみるよ。もし憂さ晴らしで暴れ回ってたら叱らないとね!」
ケインは頬をぺちっと叩き、切り替えようといった勇み足で去って行った。




