23章170話 本領発揮! ルークの実力無双
最初に狙うは右手側、メイスの男。全金属製で長さも重さもあるそれを食らえば即戦闘不能だろうが、使い手が悠長に俺の様子を窺っているお陰で脅威にはならなそうだ。
疾駆して跳び、踏み込みと共に袈裟斬り。男は何の反応も出来ずに、肩から腰まで続く傷を押さえて崩れ落ちた。
踏み込んだ勢いを活かして身体を沈ませながら方向転換。低い体勢でロングソードの男へと突っ込む。
ここで集中攻撃を浴びる。だが想定の範囲内だ。
突き立てんとしたダガーは横へ跳び上がり回避。着地を狙う銃の女へ掌を向け、その視界を水で覆う。剣の柄を持ち上げ、下へ向けた剣身でロングソードの横斬りを止める。手首を回しカウンターを狙うが、視界の端にマティレートの銃口を見て中止、二歩退く。剣を頭部に翳して銃撃を受けた。
弾かれた銃弾を見てマティレートが目を見開き、苛立った声で叫んだ。
「なんだと……! ヤクでもキメてんのか!」
キメてるよ。合法の、健康保険適用内のヤクをな。……銃口が頑なに頭部を狙い続けてるから防げただけだ。
再度斬りかかってきたロングソードの男は多少頭を使えるのか、怒涛の連撃で俺の回避とカウンターを封じてきた。その気迫は立派なものだが、速度も威力も精度も、何度となく打ち破ってきた凡百の剣士のそれだ。
淡々と受け、去なし、流し、躱す。体力切れを待ちつつ、男の身体がマティレートの銃に対して壁になるように立ち位置を調整した。
呼吸を乱しながらの猛攻の向こうに、低い位置を通過する黒い人影が見えた。
俺が取り敢えずで食らわせた水術が解け、銃を構え直していた女。彼女は突然甲高い悲鳴を上げて派手に転ぶ。両足首を断たれたようだ。レイジさんは逃げるように舞台を飛び降り再び姿を消した。
こちらへ向かって来ていたダガーの男は女の喚く声に振り返るも、既にレイジさんの姿はない。状況が読めずに足を止めたそこは、絶好の位置。不運な彼はケインの矢の雨を浴びる。男は上腕と腿を射られて倒れ、伸びた足先に三本目の矢を受け床に縫い留められた。
仲間のファインプレーに続こう。俺に浴びせる必死の猛攻、その全てを防がれている可哀想な相手を楽にしてやらねば。
肩を目掛け振り下ろしてくる軌道に対し斜めに構え、剣の面で擦って逸らす。手首を捻って自分の剣を相手の剣の上へ回し、ガツンと打ち落とす。つんのめった相手が前に出した両腕を揃って斬り落とした。
ロングソードと腕が床に落ちる音と痛々しい悲鳴を後ろに聞きながら、親玉のマティレートへと駆ける。
大人しいと思ったら、俺には銃が効かないという好都合な勘違いをしてくれたようだ。物騒な刃を持つ長めのサバイバルナイフを取り出してこちらに向けている。
駆けた勢いで胸元へと刺突を繰り出す。予想通り横へと動いて避けた彼の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「いつまでも隠れてんなよ、本日の主役!」
彼の身体を舞台に向けて引っ張り、腹を蹴り飛ばしてステージライトの下へ。
唖然として立つウィルルの隣へ移動し、床で体勢を崩しているマティレートへと剣を構えながら声をかけた。
「怪我はない?」
「あっ……な、ない!」
「よかった。倒れてる奴らの銃と飛び道具を回収して、防衛戦士団員に預けてくれないか。万が一の不意打ちを防ぎたいんだ。手錠を掛ける作業をしてる人に声をかけてお願いしてみて」
「うん、分かった! 任せて!」
「助かるよ。その後やるべきことが分からなかったらまた聞いてくれ」
「そうする! ……あっ、体力回復しておくね!」
ウィルルの白く光る両手が俺に向き、身体が軽くなる。元々消耗は少なかったが、これで全快と言っていい。
嬉しさが心を温め、自然に笑えた。頼らずとも力を貸してくれようとするその気持ちが、何よりも俺の力になる。
「気が利くなあ。ありがとう!」
「えへへ、褒められちゃった。ルーク、気をつけてね!」
「うん! そっちも!」
早速駆けて行くウィルルを尻目に、立ち上がったマティレートと睨み合いを始めた。
部下の血溜まりに突っ込みスーツを汚した彼は、今もやはり余裕なく怒っていた。
「ヌルい表社会の甘えん坊共が、調子に乗りやがってェ……! 俺は死ぬまで許さねえぞ。お前も、仲間も、家族も友人も恋人も、全部殺してやるからな……!」
頭が冴えている今の俺は、心を乱されなかった。その代わりに気になったのは、他人を軽んじて脅かし、自分にはその権利があると思っている、過大な自尊心。それを傷つけられたことを酷く怒り、殺すことで報復しようとする幼稚な思考回路。どうにも彼を脅威と感じられなかった。
俺にとって、自分の感情をそのまま出すことは、恥や弱みを曝すことと同義だ。それを思う存分撒き散らし、プライドもしっかり持っている彼に、大きな軽蔑とちょっとの羨ましさを感じた。
……そんな風に表に出すと、こんな風に付け込まれちゃうんだぜ。いいのかよ。
「裏社会の甘えん坊に許されなくても別にいいでーす」
「あぁ? 舐めた口利いてんのも大概にしろよゴラァ!」
「元気だな。恥ずかしくないのか? そこら辺の部下がまだ生きてるのは、俺が表社会の倫理観に縛られてるお陰なのに」
「この――俺も使えねえ部下共と同じだと思ったら大間違いだァ! 俺は数え切れねえくらい殺してきた! お前とは格が違うんだ! 後悔させてやる!」
あまりの愚かさに眉根が寄った。言葉を失うとはまさにこの事だ。
こいつはここまでの戦闘で、指示もサポートも碌にしてない。普段からそうだという証拠に、彼らには連携らしい連携が見られない。外部委託を好むのも納得だ、組織を育てる意志も能力もないのだから。
それでいて他力本願だ。部下を前に出し、安全圏に隠れて銃を撃つばかり。その銃が効かないと判断しても尚、自分からは向かってこなかった。慎重だなんて、随分優しい表現だ。俺に言わせれば臆病で卑怯なだけ。
自分の怠慢と無力を棚に上げ、部下の不出来を嘲り罵る。他責思考も良いところだ。一周回って、自責ばかりの俺は少し見習うべきかもな、なんて思った。
緩く首を横に振って思考を止め、少しだけ自嘲した。いつもの癖でため息が出る。
「はぁーあ……」
「聞こえなかったのか? 俺には、お前もその周りも皆殺しにする力があるって言ってんだよ! 俺はやる! やってきた! 涼しい顔してられんのも今のうちだァ!」
俺はこうやって人をつぶさに観察し、言語化によって理解するが、まるで品定めするみたいで褒められたもんじゃないよな。俺が俺自身を守るために培った能力だし、役には立つが。
それを差し引いても、こいつの話は聞くに値しない。うるさくて耳も疲れるし、そろそろ黙らせよう。
「――『部下が使えない』なんてのは、使えない上司しか言わないセリフなんだよ。無能のお前がトップのチームなんてここで終わりだ! 誰一人殺させない!」
分かりやすく歯噛みしたマティレートへ向けて、戦意を研ぎ澄ました。




