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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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23章168話 決戦前の服薬



 ヒュドラー組員に連れられたウィルルは、会場に向かう丁字の通路を、舞台側へと曲がって進む。俺達は離れたところで通路の壁に寄りかかり、雑談する振りをしながら見守った。


 舞台裏へ通じると見られる階段の前には甲冑の槍兵がいた。その槍兵がヒュドラー二人の参加証と思しきものを確認し、ウィルルの簡単なボディチェックを行う。終わると、三人は階段を登って姿が見えなくなった。



 出品者ではない俺達はおそらく通されない。見守れるのはここまでだ。心配でため息をつくと、ログマに肘打ちされた。


「自分に集中しろよ。ウィルル共々死ぬぞ」

「ああ……」


 踵を返し、丁字の観客席方向へと向かった。



 立派な両開きのドアを開けるとすぐにメイン会場。地下とは思えないほど明るく広大だ。演劇が出来そうな広い舞台に対して、数百人は座れそうな観客席が扇型かつ段状に位置している。俺達が入ってきたドアの位置は観客席ゾーンの舞台寄りだ。


 懐中時計を見ると、十九時前。開催まで、あと一時間。



 席に落ち着いている客はまだ少ない。空いているエリアの席に腰掛け、ログマに周りを見てもらいながら、携帯連絡機で防衛団に連絡した。


 応答したのはジャンネさん。


『ルークさんか。無事連絡を貰えて嬉しいよ』


「おかげさまで。――報告です。ヒュドラーの控え室でボスと接触し、ウィルルを譲り渡しました。ヒュドラー人員は合計十八名。舞台裏に商品にされる人が集められているらしく、ウィルルもそこへ。今、俺達はメイン会場の様子を見ています」


『了解。私からも報告だ。――あなた達の後を追って会場への潜入に成功した団員が内部を探索し、出入り口を合計三つ確認した。オークションが始まる二十時以降、その全てに人員を配置し、警備の傭兵や出入りする者達の逮捕を静かに進めていくよ』


「助かります」


『また、戦闘に関してだが。現在変装して会場内に紛れている団員から合図があり次第、私とガノン含めた戦闘員五十名が会場入りする。混戦時は、朱色のマントを目印に防衛戦士団員を認識してくれ。舞台上のヒュドラー戦には手を出さず、その他の制圧と逮捕に動くよ』


「かしこまりました」


『うむ! ……ああ、他の四名の班からも会場に入ったと連絡を貰ったから、もうすぐ合流出来ると思うよ。――では、ご武運を』



 終話ボタンを押してすぐ、ログマが四人を連れて来た。見慣れた仲間の顔ぶれに気持ちが上向き立ち上がった。


「皆! お疲れ様!」


 ログマが皆を顎で指して言った。


「俺達の動きは今報告した。あとは配置と動きの最終調整だけだ」



 武装したレイジさんは初めて見る。年季が入った丈夫で軽そうな黒い皮鎧はシックな印象で、彼によく似合っていた。軽装備だが、内側に防弾ベストを着ると言っていたから大丈夫だろう。


 レイジさんは青い顔でため息をついた。


「ヒュドラー、十八人いるんだろ……。その全員が銃を持ってんだから嫌になるよなぁ」


 彼の横には、これまた初めて見る姿のダンカムさん。飾り気が少なく頑丈そうな金属鎧が彼らしく、安心感を与えてくれる。副業で現役のボディガードをやっているだけある。


 ダンカムさんの優しく温和な表情が、今は打って変わって凄みのある険しいものとなり、複数の武技を極めた戦士の様相を呈している。


「ヒュドラーだけじゃない、イベントを守ろうとする運営側も敵になる。常に多対一を強いられる覚悟をしておこう。今からの調査と準備が重要だよ」


 未だに気乗りしてないレイジさんは、既に戦闘モードのダンカムさんに鬱々と絡んだ。


「はぁ、ダンカムは武技認定コレクターだからいいよな。精霊術適正すらない貧弱中年戦士の俺は、怖くてかなわんよ……」


「だから調査と準備が重要と言ったんだ。自らの腕に自信のない弱者は頭で戦え」


「いつものダンカムじゃない……厳しい……俺、一応上司なんだがな……」



 ケインは不安を噛み殺すような表情で天井を見上げた。


「観客席上に広くはりが剥き出しになってるでしょ。私、あの上から射撃と風術で全体をサポートしたいんだ。どうにか登れないか探索してみる。照明をいじるための通路とか上の方にあると思うんだよね……」


 ログマが反応した。


「ケインが観客席側なら、俺は舞台裏にでも潜める場所がないか探してみる。隠れて精霊術をぶっ放せばビビらせてやれそうだしな」


「あっ、一般的な舞台裏なら、作業用の足場とか組んであるもんね。警備の兵をなんとかして舞台裏に行くことさえ出来れば、いい場所はあると思うよ」


「そういうものなのか。いいことを聞いた」



 珍しく全身金属鎧で動きののろいカルミアさんが、ニコニコと俺に話しかけてきた。


「ルーク聞いてよ。警備の傭兵に話しかけられてさ。今日は紺髪剣士は一緒じゃないのかって聞かれたよ」


「えっ、なんでだ?」


「俺もびっくりして詳しく聞いたらね、俺達、二人セットで噂になってるらしいのよ」


 驚きの声を上げたのは俺だけじゃない。皆揃ってカルミアさんに注目した。


 カルミアさんはヘラヘラと説明する。


「事件の日、俺が四人撃退した話が凄く盛られて噂されてるみたい。聞いてて面白かったよ。そこに、ルークが一緒にいたって情報が追加されたらしい」


「まあ、事実だから仕方ないね……」


「ルークはルークで、剣士なのに大男を殴り倒した狂戦士って言われてるとこだったから、やべえ二人が同僚だ! って軍事業界のホットな話題になった、ということ!」


「クソッ、酒場の時の……! 格闘術が使える剣士は他にも普通にいるのになんで……!」


「そこから、あのスパークルと一緒に風竜を倒した会社だとか、所属戦士が全員精神病持ちだとかの情報が芋づる式に面白がられてるところなんだって! 教えてくれた彼も、話題のハルバードを見かけたから話しかけたんだって何か喜んでた。可笑しくなっちゃうよね。あっはははは!」


「最悪だよ……」


 俺とケインは顔を引き攣らせたが、他は大笑いしている。俺は病気の事なんて極力隠したいし、多分ケインも同じスタンスだが、カルミアさんとログマは開き直ってるところがある。



 いたずらっ子のような笑みを浮かべるカルミアさん。


「だからさ、俺とルークをメインにしてウィルルを奪還しよう。話題のヤバい奴らが仲間を取り返しに来たんだって、広く分かってもらえるでしょう」


 御免被ごめんこうむりたいところだが、これからやることの派手さを考えれば諦めもつく。利用してやった方が得だ。


「はは……もうヤケだよ。見せつけてやろうか、俺達のヤバさ」


「お、ノってるねルーク! やっちゃおう!」



 楽しそうなカルミアさんの横で、ケインが静かに上着のフードを被った。


「……私は他人のふりしとくね」


「えー、そんなこと言うなよー」


冗談と共に目線を向けると一歩退(しりぞ)かれた。


「寄らないでよ狂人」


「ちょっ、本気の拒否は傷つくって! もう戦士ですらないし! 泣くぞ!」


 ケインがフードの下で吹き出して、今度こそ皆で笑った。




 それからは皆で会場を駆け回って現場の把握。各々の配置と役割が固まって解散した時には、メイン会場は沢山の人で賑わっていた。



 前方の観客席の端にカルミアさんと共に座る。懐中時計が示す時刻は、十九時五十五分。人身取引オークション開催時間まで五分。――決戦まで、残り、僅か五分。


 意識した途端、急激に緊張感が高まる。あちこち強張った身体が痛む。ここまで何度も押し殺した不安感が一気に蘇り、呼吸が辛くなってきてしまった。


「ごめん、ちょっと……」


 身を捻り、ポーチから液体頓服薬を取り出す。すると隣のカルミアさんも、粉の入った小瓶と水筒を取り出した。


「え……それ、カルミアさんの頓服?」

「……まあねぇ」


 彼が頓服を飲む姿は初めて見る。今まで見せてなかったのかも知れない。落ち着いて見えるカルミアさんも、緊張や不安と闘っているんだ。決して良い情報ではないのだが、一人じゃないと思えて、少しだけ凝った肩が緩んだ。



 栓を開けた頓服薬を軽く差し上げ、ニヤッと笑いかけた。


「乾杯」


「え、病人ジョーク? ふふっ、つまんないね。……乾杯」



 俺達の弱さを支える小瓶が触れ合い、小さく音を立てた。



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