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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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23章166話 敵の親玉、マティレート



 俺達は、不機嫌そうなヒュドラー組員三人に連れられて、旧公民館正面の半開きになった入り口から内部へ入る。



 入ってすぐ、広いエントランス。細かい色ガラスが散りばめられたタイルの床を直進し、大きな両開きのドアを開けて更に奥へ。


 ドアの先は、空間を広くぶち抜いたホールとなっており、多くの人がたむろしていた。正面のステージに目が行くが、ヒュドラーの三人が向かったのはステージに向かって左側の壁。


 木の板が隙間なく並び立つようなその壁の一箇所を、無特徴の男が強めに押す。板二枚分が両開きのドアのように押し開かれ、その向こうに明るい空間と地下へ向かう石階段が現れた。ログマはこれを、精霊術を用いて無言でケインに伝達してくれた。



 ヒュドラー組員の女が振り返った。


「――板。元に戻しておいてよね」


 木の板のドアを内側から閉めると、退路を断ったように感じて不安を感じた。だが前を振り返ると、ログマが肩で風を切り悪人の振る舞いを楽しんでいるのが見えて、少し持ち直した。



 広めの階段をしばらく降りると、ホテルのエントランスのような開けた空間に着いた。壁に大きな間隔を空けて並ぶドアが、関係者の控え室だろうか。


 そしてその空間から、太い通路が一本伸びて丁字になっていた。メイン会場へ繋がるようだ。ご丁寧に、舞台側と観客側を示す案内板が設置されている。


 オークション開始の一時間半前だが、既に多種多様な人で混み合っている。中にはバヤト帝国民ではなさそうな見た目の人もいた。一見普通の人々が全て無法者なのだと思うと、具合が悪くなってくる。



 小声で呼びかけた。

「……ログマ」

「どうした」


 ヒュドラーの懐に入る前に、一緒に確かめたいことがあった。歩きながら、指先に小さな水球を形成。――よし、この空間に精霊術を制限する仕組みはない。ログマにも意図は伝わったようだ。頷き合い、フッと水球を霧散させた。



 ヒュドラーの三人は、そのエントランスに面したドアの一つへ向かう。少し手前で待たされ、無特徴の男だけが中へ入っていった。


 少しして顔を出した彼は、冷たく言った。

「入れ。ボスの許可が降りた」



 いよいよだ。地下の密室で犯罪者に囲まれるなんて嫌すぎる。


 精一杯の不敵な笑顔で心を守った。

「……では、お邪魔します」




 ドアの中、控え室はそれなりに広かった。雑然と置かれた荷物にはダガーやメイスなどの武器も混じって見える。その壁際に、フォーマルで華やかな服に銃を携えた男女が並び立つ。俺達を案内した三人もそれにならった。


 ――相手はボスを含め、男十四人、女四人。合計、十八人。


 約十人と言う事前情報を鵜呑みにしていた俺は、一瞬怯んでしまった。考えてみれば、ドライさで有名な組織だ。メンバー増減の共有が甘く、ニテンスの認識と実態にズレが生じていたのだろう。



 組員らは一様に覇気のない仏頂面だが、一番奥で椅子に座る青年男性だけは微笑んでいた。


 涼やかな水色の瞳、それと同色の細く長い三つ編み、中肉中背、中性的な容姿――彼がヒュドラーの人身取引をとりまとめているボス、マティレートに違いない。


 若々しいが貫禄があり、年齢不詳だ。光沢感のあるグレーのスーツを着こなした姿からは、裏社会の雰囲気と、神経質かつ粘着質な性格が滲み出ているように感じる。酒場の情報によれば、慎重な青年だそうだが――。



 俺達全員が部屋に入りドアを閉めるのを確認し、マティレートが立ち上がる。だが、間を詰めることはしなかった。


 そのまま彼は穏やかに話し出す。感情の抑えられたその低い声に底意地の悪さを感じた。


「ようこそ、初めまして。ヒュドラーの人身取引チームのボスやってます、マティレートと言います。……そちらさんは?」


 今回はちゃんと偽名を用意した。俺は妹、ログマは弟分の名前を一部拝借した、安直なものではあるが。


「俺はエルクって言います。こっちは――」

「ロッシュだ。よろしく」



 マティレートは表情を変えずに言った。

「噂に聞いたお名前と違いましたねえ」


揺さぶられては相手の思うツボだ。


「えっ、噂してもらってましたか? ――あなた方がこの女に手こずってらしたって噂はよく聞きますけど……」


さっきの挑発を再度口にしてみたが、やはり的外れではないようだ。部下達の顔色が青くなったり赤くなったりしている。


 だがマティレートは笑ってみせた。


「アハハハハ! そーなんですよ、外部委託に頼ったら派手に失敗されちゃって。ちゃんと自分のとこでやらなきゃダメですね。――結局こうして横取りされちゃうもんなあ」


 最後に一瞬見えた鋭い眼光を意識的に無視し、いやいやと笑顔で手を振った。


「横取りだなんて。むしろ助け合って上手くやっていきませんかって話をしに来たんですよ」


「……詳しく伺いましょうか」



 イメージ通り喋るぞ……!


「とはいえ、今回は本当にご挨拶程度のつもりでして。あなた方が目をつけ、俺達が捕らえたこの女――このオークションで売り払って、その売価の一割をお手伝い料として頂けませんか」


 マティレートは軽く唸って顎を撫でた。


「うちにとっては悪い話じゃないですね。捕らえるにはもっと金が必要だと思ってたくらいなので。ただ、そちらさんのメリットが見えなくてちょっと心配です。狙いはなんですか?」


 俺が言葉に悩んだのを鋭く察知し、ログマが代わってくれた。


「ご挨拶って言っただろう。言わば友好の証だ、メリットは今後生まれていく。これを機に連携して、お互い利用し合いましょうや」


 マティレートは再びうーんと軽い調子で唸り、どこかを見ながら考える表情をした。



 やがて、鼻につく微笑が向けられる。


「――やっぱり、怪しいよなあ」





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