22章162話 目指すは公開処刑?
覚悟が決まれば、いよいよ作戦だ。一息ついてクッキーを齧り、尋ねた。
「作戦立てようにも、情報が少ないよなぁ。防衛団のお二人から情報共有を受けないと何も決まらないんじゃないか」
ログマもまたクッキーを手に取り、答えた。
「俺達の方針を固めることはできる」
「えっと、例えば?」
「要はやりたいことだ。どの場面で仕掛けるか、何をするか、とかだな」
少し目を伏せ考える。
「……俺は、出品の出番が来て舞台上にヒュドラーが出てきたところを、こっぴどく痛めつけて公開処刑するのをイメージしてたけど」
ログマがくくっと笑った。
「気が進まない割には強気じゃねえか」
「ははっ、冗談だよ。俺達に関わらない方がいいって思わせる方法が浮かばねえんだもん」
「悪い案だとは言ってねえよ」
「え、ほんとに? いや、待て……舞台以外で狙うなら、出品者控え室みたいなところかな。そっちで暴れた方が小規模で済むか?」
「……それはナシだな。悪目立ちする。ヒュドラーが控え室に固まってる時を狙うならオークション開始前になるだろうが、その時は運営側の人員や他の出品者団体も周囲に大勢いる筈だ。重要イベントを潰しかねない俺達は、関係者総出で蜂の巣にされるだろう」
「そっかあ……防衛団に付いてきてもらえば、と思ったけど、結局小規模じゃ済まなくなるだろうから意味ないな」
「ああ。そう考えるとやはり、舞台が整って関係者がバラけたところで一斉に仕掛けるのがいい。公開処刑の方針で進めよう」
自分の口走った冗談がまさか採用になるとは。不安感でソワソワしてきた。どうにも抑えられないのは、俺の肝が据わってないからか、症状だからなのか。
不安に飲まれる前に、話を切り替えた。
「取り調べで手に入る情報は、会場の様子と、オークションの進み方、ヒュドラーの人数やボスについて、とかかな。――この辺が分かれば、筋の通った作戦は立てられそうだな」
「ああ。どこまで吐くかは知らんがな」
ニテンスの虚しい微笑みを思い出し、似たような表情をしてしまう。
「――きっと、知ってることは全部話してくれるよ」
「ふーん? ……それに越したことはないが」
ログマはティーカップを手に取り、背もたれに身体を預けた。
「まあやりたいことは決まった。後は明日詰めるか」
「そうだね。今回は防衛団のサポートもあるから、良い作戦ができるかもよ」
「ケッ、俺は期待してねえけどな」
ログマとの緩い作戦会議の翌日。
相変わらず無気力な心身を叩き起し、ログマ、ウィルル、ジャンネさん、ガノンさんと共に、応接間で打ち合わせに入った。
因みに上役二人は引き続き休日、カルミアさんは下がらない高熱、ケインは不調の継続で不参加である。
ウィルルは今朝は元気に部屋から出てきた。俺とログマが打ち合わせについて話しているのを聞いた途端、前のめりに参加を表明した。潜入の時は留守番だったけど今回は行くもん、と言って譲らなかった。
ジャンネさんは大きな作戦に向け気合いが入っているようだ。いつも以上に活気溢れる表情が眩しかった。
「まず、ニテンス被告人――ヒュドラー組員から聞けた話を共有させてもらおう。彼は非常に協力的だったよ。信用していい情報だと思う」
彼女の話を聞く限り、ヒュドラーの人身取引チームを狙うなら、このオークションはまたとないチャンスであるようだ。
奴らに決まった拠点はなく、仮設アジトにもボスが出てくる事はない。チームで集まる場合、場所はその都度ボスが選定するため身内も予想ができないとのこと。基本的に、俺達が奴らをチームごと仕留められる機会は生じないのだ。
だが、オークションの時だけは違う。俺が酒場で聞いた通り、外部人員を頼らずに参加するため、チームメンバーの約十人が一同に会する。その上、太客への挨拶を目的として、ボスも必ず参加するそうだ。
ボスについて、ジャンネさんはこう話した。
「人身取引チームは、約五年前の発足以来ずっと、マティレートという青年男性がボスを担っている。淡い水色の長い髪を三つ編みにしていて、中肉中背の中性的な容姿だそうだ」
続いてガノンさんが話し出す。
「次はちょっと残念な話なんですけど。今回の旧帝都北区公民館での開催は初めてらしく、詳細を聞くことが出来ませんでした。会場案内は直前に関係者宛に送られてくると聞いてて、まだ手元には届いてなかったらしいっす」
ログマが尋ねた。
「会場の出入口も分からないか? 説明会の時は外部の傭兵相手だから情報を伏せているんだと思っていたが」
「はい。公民館の敷地の地下に会場が造られてると聞いている、くらいの話しか」
「そうか……面倒だな。会場に入れないんじゃ何も始まらない」
俺達が腕を組んで悩み始めたところで、ガノンさんが話を変えた。
「会場への出入りはまた別で考えるとして。御社のやりたいことを聞きたいです。うちの動きとの擦り合わせをしませんか」
「あっ、じゃあ俺から――」
俺はログマと話したことを説明した。派手な内容に防衛団員の二人とウィルルは驚いていたが、理由の説明を進めるうちに納得してくれたらしく、顔つきが引き締まっていった。
ジャンネさんが言う。
「御社がヒュドラーを舞台上で打ち倒すことのみを目的とするならば、我々は、その他の者達を制圧する方に専念すべきか? 主催者も出品者も購入希望者も、全て逮捕の対象だからな」
少し考えて返答した。
「――それは助かりますね。会場周りを警備してる傭兵も含め、俺達が暴れた時にヒュドラーの援護に回る可能性のある勢力を処理して頂けたら動きやすいです」
「そうか、ではそうしよう。違法イベントの取締りという我々の目的とも相違ない」
これでいよいよ、俺達はヒュドラーのことだけ考えれば良くなったわけだが――。
「じゃあ、会場に入る方法に話を戻しましょうか。どうしましょう……。何か策があれば伺いたい」
言いながら見回したが、皆は首を捻るばかり。そんな中、歯切れ悪く呟いたのはログマだ。
「……あるには、あるが」
「おお、聞かせてよ。ダメ元でもいいからさ」
彼は一度目を伏せ、俺に親指を向けた。
「ルークをエサにする方法だ」




