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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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22章157話 これからもよろしくな



 俺は最早エスタの独白を真剣に聞くことしか出来ないと思い、全力で耳に集中していた。そこに差し込まれた突然のお願いに、つい驚き狼狽うろたえてしまう。


「ええっ! あっ、いや……。手助けが出来るなら凄く嬉しいし是非やりたいけど、俺でいいのかよ?」


「ルークがいいんだ。『ウィルル』と『エスタ』を別々に、両方とも大事にしてくれた人だから」


特別なことはした覚えがない。腑に落ちないまま、ただ腕を組んだ。



 エスタは懐かしそうに夜空を仰ぐ。


「この会社の人は皆優しいよね。入社した頃はまだウィルルが病状をコントロールすることが難しくて、僕も暴れたりして迷惑をかけた。でも、皆受け入れてくれた。怒ったり困ったりしてたけど、否定はしなかった」


 そして彼は、俺に悪戯っぽい笑顔を向けた。


「それでも、やっぱり『ウィルルのおまけ』って認識されてたと思う。不満はなかったけど……ルークは全然違ったね。僕と全力で戦って、話し合おうとしてくれた。一緒にウィルルを守るって言ってくれた。……僕、素直に言えなかったけど、本当はすっごく嬉しかったんだ」


 俺も裏庭を見回しながら、出会ってすぐの戦闘を思い返した。自然と、柔らかい苦笑いが浮かぶ。


「人格の前情報無しでいきなり斬り掛かられたからなあ。明らかにウィルルとは別人の言動なのにウィルルの見た目だから本当に混乱したよ。その印象が強すぎて、別人として付き合ってきたかも」


「あははっ! ごめんごめん。でもそれがありがたかったんだぁ。優しすぎるウィルルも、乱暴な僕も――どんな『ウィルル』でも正面から向き合ってくれる人に初めて会えたんだ」



 エスタが俺の手を取り胸元まで上げ、両手で強く握った。


「もう一歩なんだ。ウィルルが、自分を自分で守れるって思えるまで、あと少し。でも、過去の辛い記憶が邪魔してる。全て見て来た僕が同じ視点で励ましても、乗り越えられない部分があるんだ。ルークが話を聞いてあげて欲しい。僕は、君にお願いしたいんだ……」


 エスタの表情は必死そのものだった。華奢な手は冷たく、微かな震えからは、過度な力みと大きな不安を感じた。


 ウィルルを守るため、一人であらゆる苦難に立ち向かってきたエスタ。誰かにウィルルを助けてくれと頼ることなど、今までなかったのではないか。――これは、彼の決死の懇願こんがんだ。



 俺の右手を祈るように握り込む小さな両手を、左手でさらに包んだ。寒さに強い、大きな俺の手の熱が、少しでも彼に伝わるようにと。


「勿論。俺がウィルルとエスタの力になれるなら、話なんていくらでも聞く。俺を頼ってくれて本当に嬉しいよ」


 ……と頼もしい言葉だけでは終われないのが俺の悲しいところだ。


「正直、期待に応えられるって自信はないんだけどね……。俺、ウィルルの病気のこと、全然知らないから」


 だがエスタは、心底安心したと言わんばかりの緩んだ顔で笑って見せてくれた。


「ありがとう……! 病院の診断でもない、カウンセリングでもない、友達同士の話だよ。病気の知識なんて、あってもなくてもいいんだ。ルークは、僕らをよく分かってくれてるから心配要らないよ。――じゃ、代わるね!」


「お、おう」



 そして目を閉じてしゃがみ込みながら、寂しそうに、もう一度こう言った。


「――ありがとう」



 これが、俺と彼との最後のやり取りになる気がした。少年の人格でありながら、孤独にウィルルを守り続けた戦士に、仲間である俺がやってやるべきことが残っていると思った。



 彼の手を掴んで上へと引き上げる。今一度立たされて不思議そうにする少年を、がっと強く抱き締めた。


「ちょ、ちょっと? ()()()()()()()――」


()()()! 今までずっと、ウィルルのことを守ってくれてありがとう。頑張ったな。凄いよ。よくやった! 本ッ当にお疲れ様! ――これからもよろしくな!」


 エスタを一人の少年として肯定したかった。主人格のために生まれ、主人格のために消えることを決めた存在への、せめてものはなむけになればと思った。


 その思いは、どうやら伝わったらしい。


「あはっ…………ふふふ……! 僕、凄い? えへへ……!」


 エスタは俺を強く抱きしめ返してくれた。そして、くすくす笑いながら俺の胸元に顔を擦り付けた。ぎこちなくじゃれてくる感覚が、兄や父に甘えるような感情を俺に伝えた。


 やがて身体を離したエスタは、歯を見せたあどけない笑顔と拳を俺に向けた。


「にひひ。どういたしまして。……これからも、よろしくな!」


こちらも笑顔で頷いて拳をこつんと合わせると、彼は楽しそうにきゃっきゃと笑った。



 彼はそのまま、安心したような微笑みで目を閉じ、今度こそしゃがみ込んだのだった。




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