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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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19章120話 一人で酒場へ



 通い慣れてきたマイゼン大通りを進み、もう閉まろうとしている都民軍事依頼所へ。その隣、横に広い石造りの建物が今回の目的地。


 大きな窓から漏れる光と活気――酒場『ゴールドシュガー』だ。ゼフキに知り合いの少ない俺は、ここを頼ることしか思いつかなかった。



 その喧騒けんそうを遠目に聞いただけでため息が漏れる。

「本当に行きたくねえ……帰りたい……」



 この店には軍事系の仕事に従事する者が数多く集まり、情報交換と交流の場になっているそうだ。当然、腕に覚えのある血気盛んな老若男女が集うわけである。小競り合いや賭け事など隙あらばぶつかり合い、その様子も楽しみの一環とされている。……その全ての情報が、俺の不安感と憂鬱をつのらせる。



 俺も剣士らしくフル装備で来たが、自他ともに認める舐められやすさの俺が無事で帰れるだろうか。まして、単身で初対面の戦士達との情報交換に励み、成果を持ち帰るなど、非現実的に思えてしまう。


 それでも挑んでみるしかない。分かっている。だから来た。……今はちょっとひるんでいるだけ!


「ただでさえ一人飲みなんてした事ないのに……」


 付近をうろうろと歩きながらお守り代わりにと液体頓服薬の栓を開けようとして、やめた。酒が飲めなくなると気づいたからだ。この酒場でノンアルコールを頼もうものなら、お子ちゃま認定で酷い目に逢いそうな気がする。偏見かも知れないけど。



 いよいよ不安感に対処する手段が酒しかなくなり、意を決して酒場の木戸を開けた。


「いらっしゃい!」


 複数の店員のクソデカボイスが俺の耳に痛い。少し眉間に皺を寄せながら人差し指を立てると、一番近くの筋骨隆々の男性店員が寄ってきて笑顔を見せてくれた。


「一名様ですね! お好きなお席にどうぞ! 当店は席の移動と相席も自由となっておりますので、譲り合ってご利用下さーい!」


「はい」


 そして、紐のついた木札を渡される。


「会計札を首から提げて頂くよう、ご協力お願いしまーす!」


「は、はあ」


 つい怪訝けげんな顔をしたら、初の訪問だと気づかれたのだろう、少し声の音量を下げて説明してくれた。


「飲みすぎやお客様同士のトラブルで意識を失われた場合でも、追って請求させて頂けるようにしております」


 口の端がひくついた。客が意識を失う想定をシステムに反映してる飲食店ってなんだよ。


「な、なるほど……」



 ごゆっくりー! という大声に送られ、ひとまずカウンターでの立ち飲みエリアに落ち着いた。酒で不安感を打ち消しつつ、空気感を掴んでから動きたい。


 おそらく長時間の滞在になる。腹に溜まりにくいようにとロックのウイスキーにした。それをちびちびと啜り、ドライフルーツをつまみながら、周囲の様子を窺う。


 客は殆ど武装しているが、テーブルやエリアによって雰囲気が全く違う。会話の内容も、仲間同士のねぎらいから、ちょっときな臭い交渉、初対面同士の賭け事まで様々だ。



 ――俺はどこで、誰と、何をすれば、情報を得られるんだろう?



 活気溢れる騒がしさの中で思考は停滞し、手元の酒だけが減っていく。やはり俺は一人の時の行動力が低すぎる。それに、分からないことへの向き合い方が分からない。


 自分の情けなさに俯きながら、早くもおかわりを注文した。腹の容量を気にしていたが、結局これじゃあ、強い酒をハイペースで飲んでいるという別の問題が生じてしまうな……。



 賭け事の野次馬に紛れてみたり、席を移動して色んな人達の会話を盗み聞いてみたりしたが、なかなか目欲しい情報は掴めなかった。時間と酒はいくらあっても足りなかった。



 本格的に酔いが回り、心身――特に心が弛緩しかんしてきた頃、とあるテーブルが気にかかった。どうやら傭兵が三人集まって情報交換をしているようだ。



「――ちょっと金が必要になってさ、裏の仕事受けようか悩んでんだよね。何かいい話ない?」


「オススメしないっすよ。つい数日前に『裏』でヘマした知り合いが、闇医者が頼りにならないって嘆いてました。リスクがデカすぎますよ……」


「そりゃあ『裏』に挑むなら『裏』専用の準備を自分で整えなきゃならんからのう。信頼出来る医者も、後ろ盾も、証拠隠滅までな。ワシは何回か依頼されて経験したが、その準備の面倒さを考えると割がいいと思えなくての」


「へえ、思ったより難しいんだなあ……。かと言って、最近表の仕事は金払い悪いし、低ランク帯の奪い合いが激しすぎるんだよな。稼ぎにくいよ」


「まあ、金ないのは分かるっす。結局、国全体の景気が悪くて社会問題も山積みなのが悪いっすよ。国民の不満と不幸でモンスターばっか強くなって、難易度と危険度が高い仕事ばかりですもんね。……ここだけの話、僕、最近は裏の仕事をけてるから――」



 ここで俺はテーブルの横へ移動した。


 集まる三人の視線。……ここに混ざりたいということ以外何も考えてなかった。ど、どうしよ……。


 ――まあお互い酒が入ってるし何とかなるだろう! 輝け、愛想笑い! 火を噴け、とぼしい社交性!



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