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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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18章117話 付け焼き刃の交渉



 ジャンネさんは任せろと言わんばかりに胸を張った。


「貴方達を冤罪や刺客から守ると共に、真犯人を見つけて捕らえて見せよう。ヒュドラーという組織なのだろう? 防衛統括の情報網と戦力に任せたまえ」


 舌打ちしたくなった。その情報網で捕らえられてないから、ウィルルが数年越しに襲われてんだよ。


 具体的な展望がなく期待もできない。この人に任せても解決しない。……利用させてもらって、俺達が動くしかないんだ。



 失望と苛立ちを呑み込んで、ハリボテの笑顔を続けた。


「そっかー。助かりますー。……俺を応援していただけるなら、俺のやりたいこと、聞いて頂けませんか?」


 単純な彼女は、目を輝かせて強く頷いた。


「もちろんだ。協力は惜しまない。言ってみてくれ」



 ――さあレイジさん、俺に力を貸してくれ。



「今回襲ってきた人身取引組織、俺達が探し出してやりますよ。そうすりゃ、俺とカルミアさんの潔白も証明されて、ウィルルも無事に暮らせて、ジャンネさんも真犯人を捕らえられて、皆幸せでしょう」



 ジャンネさんの綺麗な顔が戸惑いに染まる。


「なっ……何故だ? 危険過ぎるよ。貴方達は協力するだけでいい。我々、防衛統括機関に任せ――」


「見当違いの俺にかまけてる方々に任せろと?」


「くっ……貴方はたまに口が悪いな……」


 ……反省は後でいい。今は話を進めよう。



「うちの代表取締役がそちらへ相談をしていたことはご存知ですよね」


「あ、ああ」


「じゃあこれが、約三年前から今までずっと続く問題であることもご存知な筈だ」


「……そうだね」


「はは、なのに、今年の四月にロハから出てきた俺が黒だから、会社の警備よりも先に調べろと言っている派閥がいるんでしょ? ――俺達にはそんな与太話に付き合ってる暇はない。いつ襲われるか分からないから、時間の経過が恐ろしい。仲間の命が掛かっているんです」


 仲間の命という単語に心を痛めたらしく、ジャンネさんは目を伏せた。



 レイジさんを憑依させるイメージでニヤッと笑った。


「貴女達北区支部は、捜査方針を巡って意見が割れている上、事件の加害者、及び黒幕を逮捕できる見通しも立っていない。待ちきれない俺達が勝手に動いていたって良いでしょう?」


「……民間人を危険に晒すわけには……」


「お気遣い感謝します。でも、俺達は既に襲われたし、今後も襲われることが分かっている。既に充分危険なんですよ」


「……でも」


「俺は今必死なんです! 仲間が危険に晒されている。そして自分がその犯罪の関係者だと疑われている。俺自身の手で疑いを晴らして、仲間を守りたいんです!」



 黙り込んだジャンネさんに、力を込めて言う。


「改めてお願いです。俺達、株式会社イルネスカドル本部チームが独自に動きます。ジャンネさんに、情報共有と冤罪阻止、最終的な犯人逮捕のご協力を依頼したい。俺達への報酬は、逮捕時の謝礼金と、平和な日常。貴女には犯罪組織逮捕の名誉と成績。乗っていただけないでしょうか」



 ジャンネさんは、薄い唇を強く噛んだ。


「……これは不正な裏取引ではないか? そんなことのために貴方と話そうと思ったわけではない」


「表裏なんてこの際どうでもいいでしょう。これが最短で最善だ。皆の目的が一気に達成される。悪い話じゃないはずです」


「だが不正は不正だ。民間人に賄賂わいろを用意して危険を冒させ、自分の功績にしようなどと! 私はそんな卑怯な真似はしない!」



 彼女が眩しくて可愛らしくて、つい笑ってしまった。


「あははは。……失礼だが、貴女はお幾つですか?」


「――今年で二十一だ」


 道理で。外見こそ凛々しい大人の女性だが、どうしようもなく青くて硬い。


「納得です。真っ直ぐですもんね。これは少し汚れた先輩からのお節介ですが、勝つためには綺麗な手順にこだわれない時もありますよ。そもそもお互い、目的は奴らの逮捕ですし、過程はなんでもいいでしょ」


「……だとしても。正式な契約を結び、堂々と連携すべきだ!」


「俺もそうしたいです。でも、容疑者をようするうちとの契約書は、防衛統括の審査を通りますか? 通るまで、俺達は無事でしょうか?」


「ぐ……!」


「重ねて言いますが、俺達も防衛団様も、求めてるのは過程じゃない。結果ありきで過程が肯定されることもあります。要は結果さえ出せばいいんだ」



 ジャンネさんは悔しいような、悲しいような顔で、声を絞り出した。


「だがそれでは……ほぼ貴方達に丸投げだ! まるでうちの組織が自力で何も出来ないようではないか……!」


「……確固たる証拠と金、メリットが出てきてからしか動けない、後手後手の、腰の重い組織ですよ。ご自分でも気づいているくせに」


「し、失礼な……!」


「貴女が組織を本当に信じてるなら、独断でわざわざ俺を庇う必要なんてないじゃないですか」



 震えて立ち止まった彼女に身体を真っ直ぐ向けて、言った。


「俺、正直、防衛統括全体を信じてなかったんです。何もしてくれないって。……でも少なくとも、貴女個人は違いそうだ」


「えっ……」


「正義を重んじて、真実を追求し、本当の悪を罰しようとする人だと思ったんです。俺やカルミアさん、ウィルルに、真摯に接して下さった貴女だから、このお願いをしているんです」


 彼女の青い瞳が分かりやすく揺れた。彼女が好みそうな言葉を畳み掛ける。


「俺が怪しいなら、怪しくないという所を見せます。俺はこの事件を一刻も早く解決するために貢献したい。なんとしても仲間を守りたいんです。報酬に謝礼金を挙げたのも、この事件に影響を受けてしまう会社の運営を助けるため。……分かって下さい……!」



 ――さあ『クロージング』だ。頼む、頷いてくれ……!



「……俺達と一緒に、戦ってくれますか?」



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