18章110話 クセモノ共
エスタが慌てる。
「ちょ、ちょっと待って。ウィルルも僕も、そこまでしてもらおうと思ってないよ」
そして泣きそうに顔を歪めた。
「元々、レイジに助けてもらえなきゃ、こんな楽しい生活有り得なかったんだ。今までの思い出だけで……僕達はもう……」
レイジさんは、わざとらしい大きなため息で彼の寂しげな言葉を止めた。
「ヒーラーがいないと困るんだよ。うちは自暴自棄気味な奴らばっかりだから」
「だ、だから迷惑をかける、ごめんって言ったんじゃないか――!」
レイジさんは、尚も言葉を続けようとするエスタを片手で制し、今一度皆を見回した。
「改めて言うが、お前らを巻き込んだのは俺の責任だ。その上更に、共闘して欲しいと我儘を言っている状況だ。……それでもついてきてくれるか? お前らが会社の一員として、一個人として、どう考えるか聞かせてくれ」
沈黙。それを破ったのはダンカムさんの絞り出した声だった。
「……そりゃ戦いたいよ。でも相手は犯罪組織なんだろ? 防衛統括も絡んだし、僕達は身を守るくらいしかできないんじゃないかい?」
俺もそれには同意だ。しかし、あのレイジさんが、情や勢いだけで金にもならない戦闘を提唱するとは思えなかった。
「レイジさんの考えでは、防衛統括の力と自衛だけじゃ足りないってことなんでしょう」
予想通りレイジさんは苦笑する。
「……うん」
「それでも、何か、立ち向かう策があるんですか? やりたいです。俺にも乗らせてほしい」
レイジさんは口角を上げた。
「二人とも、やれるなら戦いたい、ってことでいいか?」
ダンカムさんと顔を見合せ、強く頷いた。
そこにカルミアさんの低い声が続いた。
「俺は勿論やるよ。目の前で良いようにやられたままじゃ相手も自分も許せないからね」
更に、手を挙げるケインと膝を揺らすログマが続く。
「はいはい、私も! ルルちゃんが拐われるのを黙って見送るなんて無理!」
「……生活を部外者に荒らされるのは癪だ」
レイジさんはふふんと鼻を鳴らした。
「全員賛同か……クセモノ共め、いいチームになったな」
エスタの目には涙が浮かぶ。
「皆、いいの……?」
レイジさんがケラケラと笑う。
「それを今確認したんだよ! いいって言ってるぜ。――皆、ありがとう! 心強い社員に恵まれて、俺は嬉しい!」
円に並んだ、皆の頼もしい笑顔。それを見ながら、エスタが感極まったような声で小さく呟いた。
「そっか……僕、一人で頑張らなくていいんだね」
レイジさんが姿勢を正し、会議の雰囲気が改めて引き締まった。
「ここからは会社としての動きが絡むから、俺が仕切るぞ」
注目が集まる。
「俺達はこれから、ウィルルの追っ手を大元から絶つために、防衛統括――実働的には防衛戦士団と連携して動く。そのために、ウィルルがこんなことに巻き込まれた事情は、今この場で頭に入れよう」
詳しく聞こうと口を開く俺達を、レイジさんがまあ聞け、と窘めた。
「最初に、ウィルルの詳しい事情を改めてエスタに話してもらおうか」
エスタは膝の上の拳を震わせた後、力強く頷いた。
「……うん。でも、どこから話したらいいかな。レイジ、教えてよ」
頼られたレイジさんは、少し考えてスラスラと答えた。
「ウィルルの家族事情と、入社の経緯を話してくれ。あとは、今回拐われた時に分かった情報があれば共有して」
「分かった。……えーっと。ちょっと長くなるけど、家族の話から始めるね――」




