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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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17章100話 猛追



 足を止めて狼狽うろたえる。視界に入るのは、溢れんばかりの見知らぬ人と馬車のみだ。俺の様子に気づいて振り返ったカルミアさんに、動揺したままの勢いで喋った。


「カルミアさん、ウィルルがいない! いつからだ? どこではぐれたのかな――」


 泳がせた目線を上げてカルミアさんの顔を見て、背筋がビキッと強ばり固まった。



 夕陽に照らされたカルミアさんの顔からは感情が消えていた。眼鏡の奥の目は鋭く凍るようで、来た道を睨みつけている。普段の彼からはとても考えられない表情だった。


 唖然としていると、低い声で言われた。


「ルーク、闇霊術だ。強い悪意と恐怖を追え」



 迫力に圧されて頷いた。少なくともカルミアさんの直感では、ただ事ではないのだろう。すぐに探さなければ。


 だが懸念は俺の力不足。苦手な闇属性で、集中しづらい人混みの中、初めての探知。できるのだろうか? ……それでも、後衛三人の見よう見まねでやってみるしかない!



 慌てて目を閉じ地面に手を付け、自分の悪意に集中。なんとか高めた闇術力を、微粒子にして転がすイメージで地面へ広げた。やり方の正誤はともかく、これで、共鳴の強弱くらいは拾える筈。


 俺の凡庸ぼんような精霊感度でも強く引っかかる反応があった。集中したまま片目を開け、早口で言った。


「河沿いを会社方向へ少し行ったところ! 多分馬車だ、距離が開いてく――」


「追うぞ、集中は続けろ! 馬車が見え次第、何がなんでも止める!」


「こ、ここにウィルルがいるのか?」


「可能性は高い! 勘違いでもいい! 急げ!」


 カルミアさんはそう言いながら、広場の外へと全速力で駆け出した。俺も慌てて立ち上がり、慣れない探知術の継続に苦慮くりょしながら追った。



 俺達が大急ぎで走る速度は、追う馬車と同じくらいのようだった。振り切られないものの、距離は縮まらない。焦燥感だけが募る。



 河沿いをまっすぐ進んでいた反応が小道に逸れる。それを伝えると、カルミアさんがらしくない舌打ちをした。


「行先はスラムか……?」


 カルミアさんの勢いは衰えない。俺の方は駆け足と霊術力の消耗ですっかり息が上がっていた。必死で追い付きながら伝える。


「進みがのろくなった! も、もうちょっとで追いつける……!」



 カルミアさんが言った通り、スラム方面に向かっているらしい。周囲の景色は、綺麗で新しい木造住宅が立ち並ぶ穏やかな雰囲気から、管理されていない雑多な建物に囲まれる仄暗い雰囲気へと変わっていった。



 やがて、道の先に広い水路が見えた。そこに掛かる石橋の向こうは、いよいよスラムと言った荒廃した雰囲気に見える。――そしてその石橋の上に、馬車が停まっている。


 改めて闇霊術を使って確認し、声を張った。

「あれだ!」


 言ったものの、ここからどうするんだ? ウィルルがいるとも限らないのに、悪意と恐怖をまとう馬車の中を暴くのか。それでいいのか? ――あぁ、この緊急事態に、また頭が働かない。


 距離が縮まってきたあたりで、馬車のキャビンから何か怒号が聞こえた。御者がキャビンへ向かって何か大声を返した後、馬の手綱を引き、馬車が再び動き始める。


 もう迷ってる場合じゃない!


「ああ、人違いだったらゴメン……!」


 刃を想像して右腕を横に払う。風の刃は車輪のホイールを一部切断することに成功し、馬車をその場にガタガタと留めた。



 カルミアさんがハルバードの穂鞘ほざやを投げ捨てて猛進。キャビンの扉を蝶番ちょうつがいのあたりから斬り落とし、内部へ上半身をねじ込む。


 力強く引きずり出されたのは、見慣れた装備の女性。カルミアさんの懸念は的中したのだ。



 その姿に、間抜けな声が漏れる。


「あ……」



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