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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第4部 背負った重みを武器にして

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17章99話 幸福のハイタッチ

17章 悪意




 秋も終わりに差し掛かり、冷たい風が頬を打つ。俺はこの冷たい風が好きだ。無駄に動いて火照る俺の心身を冷やして落ち着かせ、しゃきっと整えてくれる気がするのだ。



 今日の仕事はカルミアさんとウィルルと一緒。近郊の草原へ勢力を広げつつあるダークウルフを討伐し、戦利品の毛皮を納品する内容。冬の特需とくじゅを見込んだ商工組合からの依頼らしい。討伐するのは比較的楽だが、基準以上の面積の毛皮を十枚集めるのは少々手間だ。



 因みに俺の装備は、丈夫な革と軽量の金属、特殊な布で構成された新品。結局、会社の経費で買って貰った。


 ただでさえ値が張る戦闘用装備。それを全身一気に買い替えだなんて、と金額に怯えた俺は、なるべく廉価れんかな最低限の物で揃えようとした。だが、ダンカムさんに『戦場を舐めるな』と叱られ、レイジさんに『年齢的に恥ずかしいぞ』と止められ、言う事を聞くうちに結局はかなり上等な物になった。



『生まれ変わったみたいだねえ』



 新装備を皆に初披露した時の、ウィルルの何気ない一言が、今も強く心に残っている。




 淡くくすんだベージュの草原の中で黒狼ダークウルフに囲まれ、カルミアさんと共にウィルルを挟んで武器を振るう。


「ルーク、増援が来てる! 範囲攻撃は今打てるか?」


「了解、余力は充分だよ! ウィルル、当たらないように、君とカルミアさんを守っていてくれる?」


「う、うん。確かルークの範囲攻撃は光属性だよね?」


「そう! 覚えてくれてたんだ」


「えへ。――闇属性のシールド、使うね!」


 近頃は俺達の関係も長くなり、良いチームワークが発揮される場面が増えてきた。仕事の質が高まり、負傷は減った。戦闘業務が各人の病気に及ぼす悪影響も小さくなって、俺達の生活は安定が続いている。今日の仕事も、全員ほぼ無傷で終えることができた。



 ウィルルが両手を上げて駆け寄ってくる。少し前、気まぐれにケインとカルミアさんでハイタッチしたところ、それがウィルルのお気に入りになったそうだ。


「お疲れ様ー! やったね、早く終わったねえ」


 背の高いカルミアさんは、少し膝と背を曲げて華奢きゃしゃな手を受け止めた。


「ふふ、お疲れ様ー」


 彼に続き、軽く手を上げて応じる。


「今日もありがとね」


 満足したウィルルは、紅潮こうちょうした頬に汗を浮かべて笑った。


「やっぱり、皆でお仕事、楽しいね。今日も仲良しで頑張って上手くいって、とっても幸せ!」


 俺とカルミアさんは顔を見合わせて顔を緩ませた。彼女の溢れんばかりの幸福が、俺達にも伝播でんぱする。




 都民軍事依頼所に毛皮を納品した頃には夕陽が傾いていた。近頃は日が短く、夕方になるとかなり気温が下がる。二人は厚着しているにも関わらず寒そうにしていた。


 マイゼン大通りに立ち並ぶ店には、冬に向けた商品が並ぶ。保存食や厚手の衣服、暖炉用の燃料など。また、秋の味覚の屋台も多く見られた。春夏とは雰囲気の違う賑わいの中を冷たい風に吹かれながら歩くのは、悪い気分じゃない。


 後ろを歩くウィルルに心配される。


「ルーク、寒くないの……? 腕まくり……」


「大丈夫だよ。結構動いたからな! もう少し身体を冷ましたら袖を戻すよ」


カルミアさんにも苦笑いされた。


「夏の弱り方が嘘みたいに元気だね……北方出身は寒さに強いなあ」


「ふふ。俺の季節が来たってことよ」



 話すうちに通りはラタメノ広場へ突き当たる。今日は随分、行き交う馬車と人々が多い。すぐ隣を走る車輪とひづめの音が耳障りで、それ以外の音がほとんど聞こえない。


 隣のカルミアさんに話しかけるにも、声を張った。


「なんだか人通りが多くないか?」


「ああ、この時期は増えるんだ。雪が降る前に拠点を移そうとする人が多いからね」


「拠点を移す? わざわざ?」


「うん。商売人が多いかな。冬支度と年末年始の商戦のために向かってくる業者と、消費者の活気がある暖かい地域に移動する業者がいる。それと、帰省や旅行ね。何にせよ冬は動きにくいから、今がチャンスってことだね」


 大きな荷馬車が多いのはそういうことか。音が重く、振動も響くので、尚更ストレスに感じる。


「なるほどね。……うるさくてちょっと辛いよ。人目が多いし、ウィルルも辛いんじゃないか?」


 振り向いて彼女の様子を伺う。


「ねえウィ――ウィルル?」



 猫耳フードの彼女の姿が、消えていた。




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