第9話「異世界の食材で現代料理に挑戦」
異世界キッチンカー生活、9日目の朝。
拡張されたキッチンカーでの営業も順調になり、俺は新たな挑戦を考えていた。
『(今まで現代の食材に近いものばかり使ってたけど、せっかくの異世界なんだから、この世界独特の食材も活用してみたいな)』
そんな時、朝一番の客としてやってきたのは、見慣れない老人だった。
「ほほう、これが噂の栄養キッチンカーかの」
白いひげを蓄えた老人は、どこか学者のような雰囲気を醸し出している。
「私はバジル、植物学者じゃ。君の料理の評判を聞いて、興味を持ってな」
『植物学者の方ですか!』
俺の目が輝いた。
『(植物学者なら、この世界の食材について詳しいはず!)』
「ほほう、食材に興味があるのかね?」
『はい!この世界独特の植物で、栄養価が高いものがあれば、ぜひ料理に活用したいのです』
「それは興味深い!実は私、長年この地方の魔法植物を研究しておってな」
『魔法植物!?』
俺の心が躍った。
「魔法植物には、普通の植物にはない特殊な栄養成分が含まれているのじゃ」
『(これは...栄養学者として見逃せない!)』
「よかったら、私の研究所を見に来んかね?珍しい食材をたくさん栽培しておる」
『ぜひお願いします!』
こうして、俺は初めて営業を一時中断して、バジル博士の研究所を訪れることになった。
研究所は街の外れにある大きな温室だった。中に入ると、見たことのない植物がところ狭しと育てられている。
「これはマナリーフじゃ。魔力を回復させる効果がある」
バジル博士が青い葉っぱの植物を指差す。
『(青い葉っぱ...これは地球にはない色だ)』
「これはスタミナベリー。疲労回復に効果的な果実じゃ」
今度は赤と黄色のグラデーションが美しい果実を見せてくれた。
『(見た目からして栄養価が高そうだ)』
「そしてこれが、私の自慢のハイパーキャロット。普通の人参の10倍のベータカロテンを含んでおる」
『10倍!?』
俺は興奮した。オレンジ色が異常に濃い人参だった。
『(これは革命的だ!)』
「他にも、プロテインポテト、ビタミンCキャベツ、ミネラルトマト...」
バジル博士が次々と魔法植物を紹介してくれる。
『(どれも栄養価が通常の何倍もありそうだ!)』
「博士、これらの植物を料理に使わせていただくことは可能でしょうか?」
「もちろんじゃ!ただし、魔法植物は扱いが難しい。調理法を間違えると、せっかくの栄養成分が失われてしまう」
『調理法も教えていただけますか?』
「ふむ、君は本当に食材への情熱があるのう。よろしい、特別に教えてやろう」
バジル博士から魔法植物の調理法を教わった俺は、早速キッチンカーに戻って実験を開始した。
『(まずは簡単なものから...マナリーフを使ったサラダを作ってみよう)』
マナリーフは生で食べられるが、特殊な処理が必要だった。
『(冷水に30分浸してから、魔力を込めながら軽く揉む...)』
魔力を込めるといっても、俺に魔法は使えない。でも、愛情を込めることで代用できそうだ。
『(愛情も一種のエネルギーだからな)』
処理を終えたマナリーフは、美しい青緑色に輝いていた。
『(すげー、本当に魔法っぽい!)』
次にスタミナベリーを使ったドレッシングを作る。果実を潰して、オリーブオイル(代用品)と混ぜ合わせる。
『(赤と黄色のグラデーションが美しいドレッシングになった)』
最後にハイパーキャロットをスライスして、サラダに添える。
『完成!魔法植物のスペシャルサラダ!』
その時、ちょうどミラたちがやってきた。
「おはようございま...わあ!なんですかその美しいサラダ!」
『今日は特別メニューです。魔法植物を使ったスペシャルサラダ!』
「魔法植物!?」
3人とも目を見開いた。
「そんなもの食べて大丈夫なのか?」
ガルドが心配そうに言う。
「魔法植物って、薬草みたいなものじゃないの?」
エリーも不安そうだ。
『安心してください。植物学者のバジル博士に正しい調理法を教わりました』
「バジル博士!?あの有名な植物学者の!?」
ミラが驚く。
「バジル博士が認めた食材なら安全ですわね」
エリーが安心した表情になる。
『では、まずミラさんから試食していただけますか?』
「はい!」
ミラが恐る恐るマナリーフを口に運ぶ。
「あ...なにこれ、すごく爽やかで...あ!」
突然、ミラの体がほのかに光った。
「え!?体が軽くなった!魔力がみなぎってる!」
『(効果覿面だ!)』
「俺も食わせろ!」
ガルドがスタミナベリーのドレッシングをかけたサラダを食べる。
「うまい!甘酸っぱくて...おお!疲れが一瞬で取れた!」
ガルドも元気いっぱいになった。
「私も!」
エリーがハイパーキャロットを食べると...
「まあ!お肌がつやつやになった気がしますわ!」
3人とも魔法植物の効果を実感している。
『(これは...革命的だ!)』
その時、バジル博士がやってきた。
「おお、うまく調理できたようじゃな」
『博士!ありがとうございます!素晴らしい効果です!』
「ほほう、君の料理の腕も確かなようじゃ。ならば、もっと高度な魔法植物も紹介してやろう」
『もっと高度な!?』
「これはドラゴンハーブじゃ。筋力を一時的に倍増させる」
真っ赤な葉っぱのハーブを見せてくれた。
「こちらはエルフミント。集中力と記憶力を大幅に向上させる」
銀色に輝くミントだった。
「そしてこれが、フェニックスフルーツ。あらゆる疲労を完全回復させる奇跡の果実じゃ」
金色に輝く果実は、見ているだけで力が湧いてくるようだった。
『(これらを料理に使えたら...)』
「ただし、これらは非常に高価でな。フェニックスフルーツなんぞ、1個1000ゴールドもする」
『1000ゴールド!?』
あまりの高さに俺は驚愕した。
「でも、君の料理の腕なら、少量でも効果的に使えるじゃろう」
バジル博士が微笑む。
「研究協力の対価として、これらの食材を特別価格で提供してやろう」
『研究協力?』
「君の料理で、魔法植物の新たな可能性を探りたいのじゃ。調理による栄養価の変化や、効果の持続時間など、データを取らせてもらえんか?」
『もちろんです!喜んでお手伝いします!』
こうして、俺とバジル博士の共同研究が始まった。
その日の午後、俺は新しい魔法植物を使った創作料理に挑戦した。
『(ドラゴンハーブは戦士用メニューに、エルフミントは魔法使い用に、フェニックスフルーツは回復用特別メニューに...)』
まずは戦士用の「ドラゴンパワーステーキ」を作成。
牛肉にドラゴンハーブをすり込んで、じっくりと焼き上げる。ハーブの香りが肉に染み込んで、見た目にも真っ赤で迫力満点だ。
『完成!ドラゴンパワーステーキ!』
試食したガルドは...
「うおおおお!力がみなぎる!筋肉が熱くなってきた!」
明らかに筋力が向上している様子だった。
次に魔法使い用の「エルフの知恵スープ」を作成。
野菜スープにエルフミントを加えて、銀色に輝く美しいスープに仕上げる。
『完成!エルフの知恵スープ!』
試食したエリーは...
「まあ!頭がすっきりして、魔法の詠唱がスムーズに!」
魔力の制御が格段に向上していた。
最後に、フェニックスフルーツを使った「不死鳥の回復ジュース」を作成。
果実を丁寧に絞って、蜂蜜と混ぜ合わせる。金色に輝く神秘的なジュースが完成した。
『完成!不死鳥の回復ジュース!』
疲れ切っていた冒険者に試してもらうと...
「うわあ!疲れが完全に消えた!まるで生まれ変わったみたいだ!」
見る見るうちに元気を取り戻していく。
『(これは...まさに魔法の料理だ!)』
バジル博士が感心している。
「素晴らしい!君の調理技術で、魔法植物の効果が最大限に引き出されておる!」
『博士のおかげです!』
「いやいや、君の愛情込めた調理があってこそじゃ。データも完璧に取れた」
その夜、俺は新しいメニューボードを作成した。
『★魔法植物使用特別メニュー★
・ドラゴンパワーステーキ(筋力倍増効果)200コッパー
・エルフの知恵スープ(集中力向上効果)150コッパー
・不死鳥の回復ジュース(完全疲労回復効果)300コッパー
・魔法植物スペシャルサラダ(総合能力向上)100コッパー』
『(価格は高めだけど、効果を考えれば妥当だろう)』
翌日、新メニューの評判は瞬く間に街中に広まった。
「魔法の料理が食べられるキッチンカーがあるらしい」
「一口食べただけで筋力が倍になるって本当か?」
「不死鳥の回復ジュースで、3日間の疲れが一瞬で取れるって聞いた」
俺のキッチンカーには、これまで以上の行列ができた。
『(魔法植物の力と現代の調理技術の融合...これこそ異世界でしかできない料理だ!)』
バジル博士も嬉しそうだった。
「君のおかげで、魔法植物の新たな可能性が見えてきた。これからも研究を続けよう」
『はい!この世界の食材を最大限に活かした料理を作り続けます!』
こうして、俺の料理は「栄養」から「魔法」の領域にまで進化した。
異世界ならではの食材を使った創作料理で、俺の挑戦はさらなる高みへと向かっていく。
『(次はどんな食材に出会えるかな?この世界は本当に奥が深い!)』
魔法植物という新たな武器を手に入れた俺は、より多くの人々を健康にするという使命感に燃えていた。