第6話「ギルドの食堂がひどすぎて営業妨害レベル」
異世界キッチンカー生活、6日目の昼。
食文化改革プロジェクトの第一歩として、俺たちはまずギルドの食堂を調査することにした。冒険者たちが一番利用する場所だからこそ、ここから変えていかなければならない。
『(よし、敵情視察だ!)』
ミラ、ガルド、エリーと一緒にギルドの中に入る。といっても、俺はキッチンカーなので入り口で待機だが。
「じゃあ、私たちが偵察してきますね!」
ミラが張り切って中に向かう。
「俺も久しぶりにギルド食堂を見てみるか」
「私も興味がありますわ」
30分後、3人が戻ってきた。その顔は全員真っ青だった。
「あの...栄養キッチンカーさん...」
ミラが震え声で話しかけてくる。
「ギルドの食堂、想像以上にひどいです...」
『どれくらいひどいんですか?』
「まず、メニューが乾パン、塩漬けチーズ、燻製肉の3種類だけ」
『(3種類だけ!?)』
「それも、値段が...」
ガルドが呆れた顔をする。
「乾パン1個50コッパー、チーズ1切れ80コッパー、燻製肉1切れ120コッパーだ」
「俺たちがキッチンカーで食ってる定食より高いじゃないか!」
『(ぼったくりレベルじゃないか!)』
「それから...衛生状態が...」
エリーが顔を覆う。
「テーブルは油でベトベト、床にはゴミが散乱、食器は洗わずに使い回し...」
「とても食事をする場所ではありませんわ!」
『(営業停止レベルだろ、それ...)』
「でも一番ひどいのは...」
ミラが言いにくそうにする。
「料理してる人が、『栄養なんてどうでもいい、腹が膨れりゃいい』って言ってたんです」
『(完全に職業意識がない!)』
「『冒険者なんて馬鹿だから、何出しても文句言わない』とも...」
ガルドの拳がプルプル震えている。
「俺たちが馬鹿呼ばわりされてるのか!」
『(これは...本格的に対抗しなければ)』
その時、ギルドから一人の男性が出てきた。50代くらいで、立派な体格をしている。どこかで見たことがあるような...
「君たちか、最近評判の栄養キッチンカーは」
『(この人は...?)』
「私はレオン、このギルドのギルドマスターだ」
『(ギルドマスター!重要人物だ!)』
「実は君たちの活動、とても興味深く見させてもらっている」
『ありがとうございます』
「特に、冒険者たちの体調改善効果は素晴らしい。ミラ君の成長速度、ガルド君の持久力向上、エリー君の魔力安定化...」
『皆さんの努力の成果です』
「いや、君の栄養指導があってこそだ」
レオンが真剣な顔になる。
「実を言うと、ギルドの食堂には私も頭を悩ませていた」
『やはり問題があると?』
「ひどいものだ。料理人は手抜き、メニューは貧弱、衛生状態は最悪...」
レオンがため息をつく。
「何度改善を求めても、『伝統だから』『冒険者はこれで十分』の一点張り」
『(完全に殿様商売だな)』
「そこで提案がある」
レオンの目が光る。
「君に、ギルド食堂の競合店として営業してもらいたい」
『競合店ですか?』
「そうだ。ギルドの前で営業を続けて、食堂の客を奪ってくれ」
『(おお、ギルドマスター公認の営業妨害作戦か!)』
「競争相手ができれば、あの怠慢な料理人も少しは危機感を持つだろう」
「でも、ギルドマスター...」
ミラが心配そうに言う。
「ギルドの食堂って、独占契約とかないんですか?」
「心配ない。あれは『ギルド公認』というだけで、独占権などない」
「むしろ、冒険者たちの健康を害する存在は排除したいくらいだ」
『(よし、これで大手を振って営業できる!)』
「ただし」
レオンが付け加える。
「価格勝負だけはやめてくれ。安売り合戦になったら、結局品質が落ちる」
『もちろんです。価格ではなく、品質で勝負します』
「それから、できれば栄養知識の普及もお願いしたい」
『既に計画しております』
「頼もしい!では、明日からギルド前での営業を開始してくれ」
こうして、俺たちの本格的なギルド食堂対抗作戦が始まった。
翌日、俺はギルドの正面入り口に陣取った。
『本日より、ギルド前特別営業開始!冒険者応援メニュー各種取り揃えております!』
朝から大々的にアピール。すると、次々と冒険者たちが集まってくる。
「おお、栄養キッチンカーがギルドの前に!」
「これは便利だ!」
「ギルド食堂より絶対うまいよな!」
最初の客は、見慣れない若い冒険者だった。
「すみません、初めてなんですが...おすすめはありますか?」
『初めてでしたら、まず基本栄養セットはいかがでしょう?』
「基本栄養セット?」
『バランス良く栄養を摂取できる、当店の看板メニューです。価格は60コッパーです』
「60コッパー!?」
冒険者が驚く。
「ギルド食堂の乾パンより安いじゃないですか!」
『(そりゃそうだ。あっちがぼったくりすぎなんだ)』
「しかも、これだけたくさんの料理がついて...」
できあがった基本栄養セットを見て、冒険者が感動する。
「メイン料理、サラダ、スープ、ご飯...これで60コッパー?」
『はい。当店は薄利多売で、多くの冒険者の皆様に栄養のある食事を提供したいのです』
「ありがたい...いただきます!」
冒険者が食べ始めると、すぐに表情が変わった。
「うまい!こんなにおいしい食事、久しぶりです!」
「体の奥から温まって、力が湧いてくる!」
『(よし、一人目攻略!)』
その様子を見ていた他の冒険者たちも、次々と注文してくる。
「俺も基本栄養セット!」
「私はスタミナ重視セットお願いします!」
「デトックスセットって何ですか?」
瞬く間に大行列ができた。
『(大成功だ!)』
一方、ギルド食堂の様子はというと...
「おい、なんで客が来ないんだ?」
食堂の料理人が慌てている。
「みんな外のキッチンカーに行ってるじゃないか!」
「あんなもん、すぐ飽きられるだろ!」
しかし、現実は厳しかった。
昼食時、ギルド食堂の客は3人だけ。一方、俺のキッチンカーには50人以上の行列ができている。
「こんなことがあってたまるか!」
食堂の料理人がキッチンカーの様子を偵察に来た。しかし、一口食べた瞬間...
「なんだこれ...こんなにうまいのか...」
完全に戦意喪失した様子で食堂に戻っていく。
『(まあ、当然の結果だな)』
午後になると、さらに面白い展開が。
「すみません、ギルド食堂で働いている者ですが...」
食堂のウェイトレスが恐る恐る近づいてきた。
「私にも...料理を教えていただけませんか?」
『(おお、内部からの改革志願者だ!)』
『もちろんです。まずは栄養の基本から...』
俺は簡単な栄養講座を開始した。
「えーっと、まず大切なのは5大栄養素のバランスです」
「5大栄養素?」
「炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルです」
説明を聞いた彼女は目を輝かせた。
「すごい...そんな深い知識があったなんて...」
「私たち、今まで何も知らずに料理してました」
『知識があれば、必ず良い料理が作れます』
その後も、ギルド食堂のスタッフが何人も学びに来た。みんな、本当は良い料理を作りたかったのだ。
『(やっぱり、問題は知識不足だったんだな)』
夕方、レオンがやってきた。
「素晴らしい成果だ。ギルド食堂、完全に客足が止まっている」
『申し訳ありません、やりすぎでしたでしょうか?』
「いや、これくらいでちょうどいい。あの料理人も、ようやく危機感を持ったようだ」
レオンが苦笑いする。
「さっき土下座して、『料理を教えてください』と頼みに来た」
『(土下座まで!)』
「君の勝利だ。ギルド食堂改革の第一歩を踏み出せた」
『ありがとうございます。でも、これはまだ始まりです』
「そうだな。次はどうする?」
『ギルド食堂のスタッフに本格的な料理指導を行い、競合ではなく協力関係を築きたいと思います』
「協力関係?」
『はい。最終的には、ギルド全体の食環境を向上させることが目標です』
レオンが感心したように頷く。
「君は本当に、この街のことを考えてくれているんだな」
『(当然だ。みんなに健康になってもらいたいからな)』
その夜、ギルド食堂の料理長が正式に謝罪に来た。
「申し訳ありませんでした...私たちは間違っていました」
『謝罪は不要です。一緒に良い食環境を作りましょう』
「本当に...指導していただけるのですか?」
『もちろんです。ただし、条件があります』
「条件?」
『冒険者の健康を第一に考え、手抜きは絶対にしないこと』
「はい...肝に銘じます」
『それから、常に学ぶ姿勢を忘れないこと』
「はい!」
『最後に、料理は愛情です。お客様への感謝の気持ちを込めて作ること』
「愛情...」
料理長の目に涙が浮かんだ。
「私、料理の基本を忘れていました...」
『大丈夫です。今からでも遅くありません』
こうして、ギルド食堂改革プロジェクトが本格始動した。
競合から協力へ。敵対から共存へ。これこそが俺の目指す食文化改革の姿だった。
『(よし、ギルド攻略完了!次は街全体に範囲を広げるぞ!)』
街の食文化改革は、着実に前進していく。そして俺の周りには、同じ志を持つ仲間たちが増え続けていた。
は続々と常連客が集まってくる。それぞれの個性に合わせたメニュー開発に奮闘する健太の日々!